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ヘタクソな嘘からの小さなすれ違い。

黒銀星石の報告を受けたフェラルドは、調査に出たシエルと別れ護衛のイーゼルトを連れだってリーナの私室に来ていた。


本来自身の居城では親衛隊より腕のたつフェラルドは正規の護衛などつけてはいない。

むろん、影からは交替制で零隊が数名護衛しているが、彼らがまともな活躍が出来るはずも無い程ジルンタール城内は安定している。


だが流石に自国と同じにする訳にはいかない。

何せ表向き客とはいえ、ここは敵地の真っ只中だからだ。

そしてこちらが思っているより、メイスィルは友好的になる気はないのだ。


だが客として来ているのにあまりに物々しい護衛だらけにする訳にも行かなく、フェラルドは三十人以上の護衛と同等、もしくはそれ以上の働きをする側近のイーゼルトを一人と、影からは零隊をいつもの倍護衛として着けている。


残りの零隊はもちろん先程シエルと共に任務を遂行しに向かった。



「リーナ、長旅だったからまだ疲れがとれてい無いんだろう。昼からの茶会は別に無理して出なくてもいいぞ。

どうせ今夜から毎晩ムダに舞踏会が開かれるんだからな。貴族どもへの挨拶なんてその時でいい」


イーゼルトと共にリーナの部屋を訪れたフェラルドは、自分達を迎えるため長椅子から急に腰を上げたリーナが、フラリと立ち眩みをおこすのを見てしまったのだ。



「いえ、だ、大丈夫です!ええと…」


「とりあえず座っていろ」


急いで抱き留めた華奢で柔らかな体を、フェラルドは少し強引に長椅子に座らせた。


「は、はい…心配かけてごめんなさい。フェラルド様」


助けたフェラルドのほうが、いつもの自信に満ちた美麗な顔を真っ青にしているのでリーナはフラついた理由に心当たりがあったので、心底申し訳無く思ってしまう。


「確かライラ……だったな」


フェラルドは空気のように壁際に控えていた侍女ライラに向きなおると、声をかけた。


「はい。リーナ様専任のお側付きをさせて頂いております、ライラでございます」


ライラは三歩前に歩み寄り、深々と腰を折る。そして、ゆっくり顔を上げていく中で、二人は鋭い視線をチラとまじ合わせた。


「ああ。お前の事は上司から聞いている。とても優秀な、じじょ。だとな。だが本来の仕事は勿論だが、常の生活においてもリーナをもっと見ていて貰わなければ困る」


「申し訳ありません。以後気を付けます」


ライラが再び深々と腰を折り謝罪をするのを見て、リーナは慌てて駆け寄った。



「ちっ違うんです!あの、ライラは何も悪くないんですっ。私がその、ちょっと夜ふかししてしまっただけで……だから、フェラルドさま、どうかライラを叱らないで下さいっ」


必死にライラを庇おうとするリーナを驚き見つめると、フェラルドは深い息をついた。

ライラに若干の嫉妬を覚えるが、優しい彼女らしいと言えば彼女らしい。


そんな必死な姿がまた何とも健気で可愛いので、それにフェラルドが勝てる訳が無い。


「分かった。だが、夜ふかしとは、何をしていたんだ?リーナ?」


「えっ?…………それは………」


ぽく、ぽく、ぽく、ぽく、ぽく、ぽく、ち〜ん。



数秒の沈黙後。可愛い声が小さく上がる。


「ど、読書をしてました!」


嘘だな。とこの場の全員が確信した。

本人だけは上手いこと言えた、とばかりにほっと息をついている。


下手過ぎるだろう!嘘が!と素直過ぎる微笑ましい王妃にイーゼルトやライラが心中でつっこんでいる中で、フェラルドだけは違った。


先程までの穏やかな眼差しから一転、冷たい無表情になりリーナをじっと見つめている。

その彼にしては異常ともいえる様子にイーゼルトはすぐに気付いたが、それは一瞬の事。リーナが気付く筈がない。


その時、脇から声が上がった。ライラだ。


「陛下、リーナ様が茶会に出席なさるのでしたら、そろそろお支度をしなければ間に合いませんが、どう致しましょうか?」


「ええ、私は大丈夫よ。支度をお願い…」


「ダメだ。今回は欠席して、夜まで休んでおくんだ。いいな?」


「え…は、はい。わかりました」


視線も合わせないフェラルドのいつになく冷たい言い様に、リーナは戸惑いを隠せない。


いつもならしっかり目を見て、頭を撫でながら優しく言いそうな台詞だ。

そのまま一度もリーナを見る事も無く、声を掛ける事も無くフェラルドはイーゼルトを伴い部屋をさっさと出ていく。



イーゼルトが去り際に一瞬チラとリーナに振り返る。

悲しげに俯く姿が何とも頼りなく儚げだった。


「…………………」





部屋に残されたリーナは、ただ無言で立ち尽くしていた。

すると見兼ねたように、ライラが横から声を掛けてきた。


「先程は庇って下さってありがとうございます」


「ぇ?あ、別に本当にあなたは悪くないもの。私こそごめんなさい」


懸命ににこりと微笑むが、その笑みはどこか儚い。


「いえ。それは違います、リーナ様。陛下のお叱りは最もなのです。一番近くに仕える侍女が主を気付かえないなどあってはなら無い事ですから。落ち度は明らかに私にあったのです」


「落ち度なんて、そんな……私が勝手に徹夜しただけよ」



「いえ、それでもです。実際、私はリーナ様が徹夜した理由を知っています。それに、少し考えればあなた様の性格上、夢中になるとやりそうだと分る筈なのに、いえ、分かっていたのに私はその危惧を見逃しました。ですから、お叱りを受けて当然なのです。ですが……その、リーナ様のお気持ち、嬉しかったです」



リーナは生真面目に答えるライラにくすりとつい笑ってしまう。


「何ですか?」


怪訝に問いてくるライラにリーナは、フフフと微笑みながら言った。


「優しいのねライラは」


意外な台詞を聞いた、とばかりにライラはシュっとカッコイイキレ長の漆黒の瞳を大きく見開く。


自身の記憶にある限りでは、お世辞にも今まで優しいなど言われた事は無い。

どちらかと言えば怖いとか、冷たい、きつい、きびしい、カッコイイなどは数えきれないほど言われて来たが。


どう考えても優しいのはリーナのほうだろう。


自分を庇ったせいでつかなくてもいい、致命的に下手過ぎる嘘までつかなければならなくなって、その挙げ句に陛下の機嫌をそこねさせる羽目になったのに。


そんなとんちんかんな優しい主人を見つめるライラだったが、リーナの先程の儚げな表情が少しだけ明るくなったように思えて、少しだけ安堵の苦笑を洩らした。


だが、とんちんかんな姫君のこころは意外にも繊細だった。


(フェラルドさま、こちらを一度も見てくださらなかった。頭や髪もいつもは必ず撫でてくれるのに……今日は………違った。嫌われてしまったの?私………。


いいえ、きっとお疲れだったのよ。それなのに私がつまらない心配を掛けてしまったから…………だから…………ご気分を害したのよ。

私、フェラルドさまに面倒ばかり掛けているわ。甘え過ぎよね………呆れられてしまったかしら?)


「…………………っ」


つきん。と胸に痛みを感じた。

リーナはとっさに胸に手を当てたが痛みは暫く収まらなかった。



一方でリーナの部屋を出た二人は、無言で回廊を進んでいた。


「陛下」


「何だ?」


「どこまで、行かれるのですか?」


「俺の部屋に戻るに決まってるだろう!」


「ですが、もう通り過ぎましたよ」


何せ二人の部屋は大居間を挟んで隣合わせで中で、扉一枚で繋がっている。


「………散歩してから戻ろうとしたんだ!中庭に行く」


「…………………はい」


はぁ………。と小さくイーゼルトは息をついた。



























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