中編
「こっこですねぇ!!」
酒場でリンと新たなパーティを組み、そしてそのまま流されるように現場までたどり着いた。
なんでもリンは既に依頼を受領しているらしく、共にこの激難易度ミッションをこなしてくれるパートナーを探していたらしい。
そしてその激難易度依頼だが、最近発生したダンジョンの攻略である。
ダンジョンとは、大気中の魔力と魔界から流れる瘴気がミックスされ発生する自然災害型の現象なのだが、生成されたダンジョンは魔界に通じており、そこから魔物や魔獣などが出現する。
さらに発生したダンジョンを放置しておくと、ダンジョンの中の魔物は魔界に生息している時以上に成長し、ダンジョンがその役目を終え消えるときに、その中で成長した魔物たちがそこから現れて人々を襲い始めるのである。
つまりダンジョンとは、魔物達を育てるゆりかごの様なもので、まだダンジョン内で魔物が成長しているうちにダンジョンごと駆除しなければ、いずれは災害級の魔物が発生する恐れがある非常に危険なものなのだ。
ちなみにダンジョンの駆除のやり方は、ダンジョン内で最初に現れた魔物ないし魔獣がダンジョンの主となる為、そのダンジョンの主を駆除できれば自然とダンジョンも消滅する。
本来なら発生と同時に魔術協会ないし魔女協会がそれを察知し、冒険者に知らされて素早く駆除するのだが………。
「なるほどなぁ………。発生から約二年って所か?よくもまぁここまで放置したもんだぜ。どうにも最近のお役所の連中は、適当がすぎねぇか?」
「にゃはは。でもおかげで私たちは儲かる訳だからぁ、まぁよくないですか?」
そう言って無邪気に笑うリンを見て、エディンがため息をつく。
確かに成長したダンジョンの魔物達の部位などは、普通の魔物と違い非常に魔力濃度が高く、非常に高値で取引される。
故にこうして成長したダンジョンに潜るのは、冒険者にとってはおいしい仕事ではあるのだが……。
「馬鹿言え。ここまで成長してたんじゃ、いつこのダンジョンが終わるか分かったもんじゃねぇ。そしたらこの中にいるゴミどもが、うじゃうじゃと解き放たれちまうんだぞ?ったく」
「んふふ。じゃぁそうならない様にぃ、さっさと行っちゃいましょうか!エディせ・ん・ぱ・い!」
そう言うとリンは、ステップを踏みながら、スキップをする様にダンジョンへと入っていった。
エディンはそんなリンを見てため息をつくと、やれやれと頭を掻きながらなれた足取りでダンジョンへと足を踏み入れるのであった………。ちなみにすでに上半身は裸である。
◆
「ほ!!や!!たぁ!!」
「………ほぉ?」
ダンジョン内。
外から見るよりも明らかに大きい洞窟を進むエディン達だが、エディンはリンの予想外の実力に思わず声を漏らす。
短刀の二刀流で、ダンジョン内の小型の魔物であるゴブリン達を踊るように切り裂いていくリン。
正直ルーキーには思えないその動きを見て、エディンはなるほど、と心の中でつぶやいた。
確かにこの実力ならば、他のルーキー達と足並みをそろえるのが逆に難しいだろう。
故に自分の様なベテランの冒険者と組むほうが、リンにとっても他のルーキーの連中からしてもいい話なわけだ。
だが………
「あ!!」
リンの短刀が、彼女の手からすっぽ抜け、そのまま目にもとまらぬ勢いでエディンへと迫ってくる。
エディンは「またか………」と呟くと、その短刀を人差し指と中指で簡単にキャッチする。
「すみませーーーん!エディせんぱい!大丈夫ですかぁ!?」
慌ててリンが駆け寄ってくるのだが………実はコレ、今ので三回目である。
「ごめんなぁさい。私ってドジで!!このせいで前のパーティも首になっちゃってぇ……」
涙目で誤ってくるリンだが、そりゃこれなら首になるだろうとエディンは思う。というか、どうにもリンは自分に向かってわざと短刀を投げている様だ。「私ってぇ、剣を軽く握る癖があってぇ。そのせいですっぽ抜けちゃうんですよねぇ」などとリンは言っていたが、どう考えても自分に向かって投擲してきているのは間違いない。
なぜそんなことをする??っと普通の人間なら思うだろうが………エディンはその辺の馬鹿な連中とは一線を画す。つまりリンの思惑にも当然気づいているのだ。
つまりリンは………自分の実力を試しているのだ。
これからこの過酷なダンジョンを、共に乗り越える事ができる漢なのどうかを………!!
(クソガキが!舐めやがって!!……だが!!面白れぇじゃねぇか!!)
本来ならばこんな試される様な事をされるなど、それも現場でそんな事をするなどありえない話だ。だがエディンはそんなリンを敢えて許した。
なぜなら………
「おいクソガキ!!てめぇの魂胆は分かってんだよ!!」
「!!!」
エディンの言葉にリンの表情は一気に変わる。先ほどまでのニコニコとした表情ではなく、鋭い視線をひめた険しいものへと。
そんなリンの反応にエディンは満足すると、にやりと笑って口を開いた。
「あながち俺の実力を試したかったんだろうが、こんな周りくどいやり方する必要ないぜ!!」
「……え?あ……え……えへへぇ。ばれちゃいましたぁ??」
「ったりめぇよ!!もうお前の実力はよくわかったぁ!!あとは俺に………任せとけやぁ!!!!」
「!!!」
エディンはそう言うと、今まではリンの様子を伺うために軽く戦っていたため抑えていた闘気を一気に解放する。
「こおぉぉぉぉぉ」
エディンはそのまま気合を入れ闘気を練り上げると、カッっと目を見開き、迫りくるゴブリン達数匹を、目にもとまらぬ拳撃で一蹴した。
「!!?」
そんなエディンの戦闘にリンは目を見開く。何故ならリンから見ると、エディンは立っているだけで、一瞬でゴブリン達を瞬殺した様に見えたからだ。
(こ……拳が見えなかった……!?今……殴ったの!?蹴ったの!?それとも……何かの技を使ったの!?)
そんな驚愕するリンを見てエディンは満足そうに鼻を鳴らすと、ニヤリと笑って言った。
「阿保ずら下げてんじゃねぇよ小娘。さっさと次行くぞ?テメェのペースに合わせてると、日が暮れちまうぜ!!」
そう言ってリンを置いて先に進むエディンの背中を、リンは気づかれない様に鋭く睨むのであった……。
◆
そのまま特に問題なくダンジョンの最奥までたどり着いたエディン達はこのダンジョンの主である骨のドラゴン……スカル・ボーン・ドラゴンと対峙していた。
問題なくとは言ってもそれはエディン視点からであり、リンとしてはここまで何事もなくダンジョンの最奥までたどり着けるなどとは思っていなかったので、心の中でエディンの実力を軽んじていたことを恥じる。
(正直ここまでとは思っていなかったですよ……せんぱい。でも、それでも結果は変わらないんですけどね……!)
そういってほくそ笑んでいるリンなどお構いなしに、エディンは不敵に笑うと最奥で待ち構えるスカル・ボーン・ドラゴンを見据えて構える。
そんなエディンを見てリンは思う。
エディンは確かに強い。正直強すぎる程だ。
だが、それでもエディンにスカル・ボーン・ドラゴンを倒すことは不可能だろう。
(だってスカル・ボーン・ドラゴンは、物理攻撃や斬撃攻撃を受けた際、粉々になってしまっても、時間がたてば再生する力を持っています。こういったアンデット系の魔物を倒すには、プリーストの力は必須!!ただ打撃しか出来ないせんぱいじゃ、どれだけ攻撃してもスカル・ボーン・ドラゴンは倒せませんよ!)
そう思い、任務完了………と、心の中でつぶやくのだが………そんなリンの思惑など知らないエディンは、スカル・ボーン・ドラゴンを前に腰を深く構える。
そして……!!
「ちぇぇすとぉおおおお!!!!」
右の拳を極限の闘気と共に振りかぶる!!
そして解き放たれた闘気は、極大の衝撃波となってスカル・ボーン・ドラゴンを飲み込んでいき………スカル・ボーン・ドラゴンは、その衝撃波により、跡形もなくこの世から消え去ったのである。
ちなみにエディンはいつの間には全裸になっていた。
大事なことなので二度言うか、いつの間にか全裸になっていた。
(………………は?)
目の前で起こった事が理解できず、リンは茫然と信じられない光景に攪乱する。
なぜ、アンデット系のモンスターである、スカル・ボーン・ドラゴンが拳の衝撃波で消滅しているのか。
なぜ、エディンはいつの間にか全裸になっているのか………これはまぁどうでもいいから放っておこう。……放っておいていいのか??
ともかく、なぜスカル・ボーン・ドラゴンは再生しないのだろうか!?
そんな混乱するリンに、エディンはフンっと鼻で嗤うとスカル・ボーン・ドラゴンが先ほどまで存在していた場所を見て言った。
「つまらねぇなぁ。二年も魔力ため込んでこの程度たぁ元の素体のたかが知れるぜ」
「……あのせんぱい?スカル・ボーン・ドラゴンはアンデットですよねぇ?なんでせんぱいの攻撃で、消滅しちゃったんですかぁ?」
混乱しながらもエディンに質問するリン。
そんなリンをエディンは気だるげに見ながら、鼻をほじりつつ言った。
「あん?知らねぇよ、そんなん。スーが言うには、俺の闘気にゃ”浄化”の特性とやらがついてるそうだが、正直何言ってんだか分かんなかったしな。……ま!おかげでアンデットだろうがヴァンパイアだろうがぶっ殺せるからいいけどよぉ?」
何気なしにそう言ってのけるエディンに、リンは全身の細胞が総毛立つのを感じた。……理由はエディンが全裸なせいでは無い(多分)。
(”浄化”ですって!?格闘家のせんぱいが!?大体、攻撃に相反する”浄化”の特性を付与できるなんて……!普通ありえないんですけど!?……あと人前で鼻をほじらないでくれる!?……あとやっぱり!なんで全裸なの!!?)
エディンが強いのは知っていたし、実際この目で見て彼が強いのは確認していた。
だがまさか、ここまで訳の分からない存在だとは思っていなかったリンは、自分の任務達成が如何に困難な事なのか、改めて感じる。
リンが生唾を飲み込み、事の重大さを噛みしめていると、次の瞬間ダンジョンが軋み始める。
(これは………!!)
ダンジョンの主が居なくなったことにより、ダンジョンが維持することが出来なくなり、時間経過とともに崩壊するのだ。
だが、本来ダンジョンの崩壊が始まるのは、ダンジョンの主が消滅してから数日後のはずである。
本来ならば起こりえない現象に、リンは驚き固まってしまう。
そんな時、崩壊したダンジョンの落石が、リンに向かって落ちてきた!
いつもならばこんな落石、目を瞑っていても避ける事ができる。
しかし今は、予想をはるかに上回るエディンの実力、そして予想外のダンジョン崩壊といったアクシデントで、体が固まってしまって落石を避けることが出来なった!
(…………!!!)
迫りくるであろう衝撃とダメージに、リンは目を瞑ってしまう。
………しかし、いつまでたっても落石の衝撃がリンへ迫ることはなかった。
(……あれ?………な………なんで??)
リンが何が起こったのかと、恐る恐る目を開けると………目の飛び込んできたのは、逞しい筋肉であった。
「あ……!?せ……せん………ぱい?」
そう。
リンに襲い掛かってきた落石から、エディンが守ってくれていたのだ。
「……ったく。何やってんだ?おめぇは?………ほら、大丈夫か?」
「………!!!」
そう言って苦笑いしながら手を差し伸べてくる、エディン。
そんなエディンに不覚にもリンは…………心臓がドクンと跳ねるのを感じた。
リンはとある理由でエディンの命を狙っている。
暗殺者として育てられたリンは、小さいころから心を殺し、そしてどんな時でも冷静にいるようにと育てられてきた。
だが本来のリンの性格は、意外と乙女であり、自分よりも強い人間が、いつかこんな自分を助けてくれたらなー、なんて思っていたりしたのだ。
だから………
(せ……せんぱいはターゲット!!暗殺の!!かっこよくなんてない!!こ……こんな筋肉ダルマでデリカシーもゼロで、おまけに全裸の男なんて………かっこよくなんてないんだからぁ!!!)
そう自分に言い聞かせても火照る頬と鳴りやまない心臓を、リンはどうやっても止めることが出来なかったのである……。
そう。リンは意外とチョロインだったのだ………。




