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後編

「ほんとによかったのぉ?エディンを追放して」


 ギルドを離れ、『青の鳥』が借りている宿に場所を移して、美しい紫色の髪をかき上げながら、ため息をついて『青の鳥』のメンバーである魔女、ラティナはスヴェンに言った。


 ラティナはこの国でも有数の魔女で、魔女協会でも上級会員の資格を持っているほどの存在だ。

 そんなラティナがなぜギルドで冒険者をしているのかというと、偏にスヴェンとエディンの為である。


 何故なら彼ら二人は、ラティナにとっては可愛い可愛い弟分だからだ。


 彼らがまだ洟垂れの頃、彼らの街にある「蛇の森」と呼ばれる大きな森、そこにある自分の屋敷によく二人は遊びに来ていた。

 

 最初は煩わしく思っていたのだが、他の人間と違い、自分を恐れる所か慕ってくる二人に何時しか絆されてしまい、そんな二人が心配になり冒険者として同じパーティに加入したのだ。


「ラティ姉………」


 今にも泣きそうな顔をしてスヴェンがラティナを呼ぶ。

 普段は人前なこともあって、「ラティナ」と名前で呼ぶスヴェンだが、どうにも今は気持ちがダウンしているせいで昔の呼び方に戻ってしまっている様だ。


(自分でもそんなにショックなら、追放なんて言わなきゃよかったのに………)


 そう思い苦笑いをしながらラティナはスヴェンの頭を撫で、口を開いた。


「大丈夫?追放した貴女が一番ダメージ受けてそうだけど………」

「うう………。エディも追放って聞くと、流石に全裸になるの控えてくれるって思ったんだ。実際苦情はきてるし……。でも、まさか本当に出ていくなんて………」


 そう言って一つ涙を流すスヴェンを、ラティナは同情する。


 なぜならエディンの事で、実際多くの苦情が来ているのは事実なのだ。

 だが誰もエディンに直接言うことはせず、パーティのリーダーであるスヴェンに苦情を言っていた。……それもエディンが居ない時に。


 スヴェンはその苦情に何度も頭を下げながら、それでもエディンの弁解をしていたのだが……ついに堪忍袋の緒が切れた……というだけでは無い。


「王子の件、ちゃんとエディンにも言ったらよかったんじゃなぁい?」

「言えないよ……今更……」

 

 暗い顔をしてスヴェンは声を濁す。

 

「………もう。スーがちゃんと自分の事”女の子”だってエディンに言ってれば、こんなにこじれることも、王子の事を内緒にする必要もなかったんじゃないのぉ?」

「う……!!」


 痛いところを突かれて、スヴェンは胸を押さえる。


 そう。

 スヴェンは女なのである。


 プラチナブロンドの美しいミディアムヘアを後ろで束ね、見る者の目を引く整った可愛らしい容姿は、中性的に見えないこともないが、パッとみどう見ても女性である。

 体つきも丸みを帯びており、男性冒険者用の衣服と鎧を身に纏ってはいるが、どう見ても男装に見える。というより男装している。というよりギルドでスヴェンを男だと思ってるのはエディンだけである。


 ではなぜエディンがスヴェンの事を、男だと思っているというと、それには深い(?)訳があるのだ。


 スヴェンの本名は、スーザン・ヴァルディスで、この国の軍事面を全面的に牛耳っている、ヴァルディス公爵家の長女にして五人の兄弟の末っ子である。

 父はカイザー・ヴァルディスと言って、この国の軍の総司令官にして、剣聖と呼ばれるほどの腕前を持つ、自他ともに認める国最強の男だ。彼の機嫌一つでいくつもの街がたった一人によって滅ぶ………とまで言われたその実力は、未だに衰えることを知らない。


 そんな剣聖の娘として生まれたスーザンは、幼いころから剣に魅入られ、そしてその実力は両親も兄たちも褒めたたえる程だった(溺愛されていて贔屓目な事を差し引いても)。

 

 そんな皆に可愛がられて育ったスーザンだが、とある田舎街の別荘で滞在していた時、散歩中(勝手に一人で)に出会った小汚いクソガキであるエディンと喧嘩をし………敗北した時に、その人生が大きく歪まされる事になる。


 あの時なぜエディンと喧嘩になったのかは今はもう覚えていないが、ともかく自分はその時エディンに負けたのだ。

 

 正直あの時の衝撃は今でも覚えている。

 周りにいくらもてはやされ様と、それに増長することなく、地道に鍛錬を続けてきたスーザンは最早なまじの大人の騎士でも手が付けられないほどの実力を持っていた。

 だからといって奢っていたわけではないが、まさか自分と年が変わらない少年………しかもこんな田舎のクソガキに敗北するなど、思ってもみなかった訳である。


 その後、その敗北が余りにも衝撃的だったスーザンは、父親に無理を言ってその街に残り(父には号泣された)、腕を磨き上げて何度もエディンに挑んだが………その度に返り討ちにあってしまった。


 だが、だからといってエディンが嫌いだったかと言われれば、まったくの逆で、最初は自分を負かしたいけ好かないクソガキと思っていたエディンだが、何度も戦っているうちに、彼のそのおおざっぱながら洗練された、ある意味ちぐはぐながらも力強い動きと、戦いを心から楽しんでいるその心持を……いつの間にか好ましく思う様になっていた。


 そして一緒に行動を共にするうちに、何時しか二人は親友となり、互いに腕を磨きあうライバルとなっていった。


 さて、ここで問題なのがエディンと初めて会ったときに、スーザンがエディンに舐められないために、自分を男だと言って、偽名であるスヴェンと名乗った事である。

 スーザンもとい、スヴェンは何度もエディンに真実を言おうとも思っていたのだが、自分が嘘をついているのをエディンに軽蔑させるのを恐れて………その場でなぁなぁにしてしまったのだ。


 正直自分も成長すれば、女性的な体になってバレるだろうし、まぁその時謝ればいいか………と思い、その事は放置していたのだが、なんと気づかれることがないまま今に至るのである!!


(なんで気づかないの!?僕って……そんなに女性としての魅力がない!!?)


 正直スヴェンとしても意地になっちゃってるので、何とか自分からでなくエディンに気づいて欲しいのだが、全然気づいてもらえない!!

 それどころか、女装(?)させられた時だって、何時ばれるかとドキドキしていたのだが、結局気づかれない所か「お前、結構女装にあうな!!パッと見どう見ても女みたいだぜ!!」なんて言われる始末。

 

 みたいじゃなくて女じゃい!!っと心の中で激しくツッコンでも意味はなく、結局その時もエディンに女だと気づかれることは無かった。


 さて、そんなこんなで今日まで、エディンに気づかれること無く過ごしてきたスヴェンだが、ここで超大問題が起こる。


 なんと自分と、この国の第二王子であるシリウス・レイブラッド様との婚約が決まったのだ!!!


 ギルドで冒険者をしていることは自分の家族には周知の事実だが、両親は難色を示しており、特に母親は非常にスヴェンもといスーザンの事を心配していた。

 冒険者として活動していない時は、合間を見て実家には戻っていたのだが、そんな時、この国の第二王子であるシリウスと偶々出会ってしまったのだ。


 そしてシリウスはスーザンに一目惚れ。それを見た母親が、これ幸いと王妃様にその事を告げて、あれよあれよと婚約が決まったのである。


 スーザンとしては、まだまだエディンと冒険者を続けたかったし、正直好きな男性はエディンなので、受け入れることなど出来なかったのだが、母親の「エディンさんは確かに腕の立つ冒険者だし、頼りになると聞いているけど、彼はどんな依頼を受けても全裸になって帰ってくるんでしょ?そんな存在が痴漢の様な男に、大事な大事な大事な娘を任せたいと思う親がいるとおもって?」というグゥの根も出ない正論を受けてしまった。


 ただでさえ母親や兄たちには何時も心配をかけているのだ。スーザンとしても、自分の事を想っての婚約だということは重々承知しているので、あんまり強く言うことも出来ない。

 せめてエディンの脱ぎ癖さえ治れば、何とか母親()説得できるのではないかと思い、今回エディンを追放という、言わば荒療治に出た訳である。……父親は、って?あれはどんな男が来ても納得しないので放ってます。


 しかし結果は惨敗。


 本当にエディンがパーティを出ていくという、最悪も最悪な事態になってしまった。……普通に泣きたい。というか泣いた。


(てゆーか、エディってばそんなに全裸になりたいの!!?僕らと一緒にいるより全裸をとるの!!?もーーーー!!!)


 理不尽な怒りがふつふつを沸き起こり、スヴェンは枕に顔を押し付けてバタバタと足を動かした。


 そんなスヴェンを見て、ラティナがまたため息をついた時、部屋のドアが慌ただしく開かれる。

 

「スー。ラティ。たいへんたいへーん。エディが命狙われてるって」


 慌ただしく扉を開いた割には、割と落ち着いた声でスヴェン達に言ったのは、『青の鳥』のメンバーの一人であるマナである。

 小柄な少女で、年はエディンやスヴェンよりも年下だが、非常に優秀な斥候で、パーティでもとても頼りになる少女だ。


「え!?ど……どういうこと!?だ……だれに!?」


 スヴェンが慌ててベッドから飛び起き、マナに詰め寄る。

 そんなスヴェンをマナはどうどう、と落ち着けると指をピンと立てて言った。


「殺し屋ギルド。雇ったのはたぶん王族のだれか。理由はスー」

「うえぇ!?こ……殺し屋ギルド!?ぼ……僕が理由って、まさか婚約のことで!?」

「うん。だってフル〇ンエディが死ねば、スーだって諦めつくでしょ?だからエディのぶらぶらしてる息子事、あの世に送ろうとしたんじゃないかな?いひゃい」

「いろいろ余計な事言ってるけど、ともかく理由は分かったよ!早くエディを助けに行かないと!!」


 とりあえずマナが下品な事を口走ったので、ほっぺをつねって制裁を加えつつ、スヴェンは焦った様子でベットから降りて武器を手に取る。


「多分私たちのギルドに入りこんで、機をうかがってたんじゃない?フル〇ン「マナ?」……エディを殺すチャンスを」

「な……なるほど!マナ……それどこで聞いたの?!」

「殺し屋ギルドの友達。だって私、元殺し屋ギルドだし」


 そー言えばそうだったな……。とスヴェンは思い、今度はマナの頭を撫でて装備を整えていく。

 マナと出会った時は、それはそれは色々な事があったが………ここでは割愛で。というより、友達とはいえそんな情報をポロポロ流して大丈夫なのか?殺し屋ギルド。


 ともかく急いで準備して、エディンを助けにいかないと!!っと準備を急ぐスヴェン。

 そんなスヴェンに合わせるように、一応ラティナも準備を整えていく。


 そしていざ宿から出たとき………


「よぉ!!待ってたぜぇ!!スー!!!」


 なぜか宿の前で、()()のエディンが仁王立ちしていた。


「え……エディ!?な………どうして!?」


 驚いて声を上げるスヴェンだが、そんなスヴェンを見てエディンはニヤリと笑うと口を開いた。


「今しがたこの小娘と、ダンジョンまで行ってきたのよ!!そう!!お前に追放されようと、俺ぁなんのダメージもないぜ!!!」


 得意げにそう言うエディンに驚いて彼の隣を見ると、そこには居心地が悪そうにしている猫耳少女、リンが苦笑いをしてペコリと頭を下げていた。


「くくく。どうしたぁ?まさかパーティを追放されたら、俺が泣いて困ってるとでも思ったのかぁ?……甘いぜスー!!!今さら後悔してもおせぇ!!!俺に帰ってきてほしいと思っても、もう戻ってやんねぇからな!!!」


 ドーーン!!っと効果音がしそうな感じで、スヴェンを指さすエディンに、目を白黒させながらもなんとかスヴェンは口を開く。


「え……と、この子とパーティ組んだの?エディ……」

「そうだぜぇ!?なんだぁ!!?スー!!まさかこの小娘に嫉妬してんのかぁ!?俺様とパーティを組めた、この幸運な小娘をよぉ!!!」

「な……嫉妬なんかしてないもん!!てゆーか、また全裸になってるじゃん!!公衆の面前で全裸にならないでっていつも言ってるでしょ!?せめて仕事が終わったら服きよーよ!!」

「はん!!もうパーティでもねぇお前の言葉なんざ聞かねぇね!!そもそも替えの服なんて持ち歩いてたら嵩張るだろうが!!いつもお前が持って行ってくれてたからなぁ!!!でももうお前は俺を追放しちまったんだから、お前にとやかく言われる筋合いねーぜ!!!悔しかったらここで泣いて謝るんだなぁ!!!また戻ってきて下さいってよぉ!!?そしたら考え直してやらんこともねぇぜ!!!」

「な……!!!こっちがどんな気持ちで君を追放したと思ってんの!?てゆーか心配してたのに……心配して損したよ!!」

「心配だぁ!?俺としちゃ、俺様が抜けたお前らのほうが心配だね!!!」


 ギャーギャーワーワーと、子供のように言い合うエディンとスヴェン。


 それを遠巻きに見ていたラティナとマナ(とスッとエディンの元から離れたリン)は、呆れた顔で口を開いた。


「結局……いつまでたってもこの二人が子供なのが原因なのよねぇ……」

「同感」

「にゃ……にゃはは………」


(………こいつが暗殺者じゃね??)


 苦笑いしているリンを見てマナはそう思うが、まぁ確証がないので黙っておいた。 


 こうして、二人の痴話喧嘩は、全裸のエディンが警備隊に肩を叩かれて、そのまま連れていかれるまで続いたのである。



 『青の鳥』を追放され、彼女たちに復讐(?)を誓う全裸格闘家のエディン。

 そんなエディンを想いつつも、自分の家の事や婚約話、偽っている性別の事で素直になれないスヴェン。

 そして王族からの依頼でエディンの命を狙うリン。


 この先彼らの物語がどう交わり、どう進んでいくのか………それは唯々神のみぞ知る物語なのである………。

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