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前編

「エディ………悪いけど、やっぱり君とはもうやっていけないよ……。僕たち『青の烏』は、今日付けで君を……追放します……!!」


 その言葉を『青の鳥』のリーダー、スヴェンが口にした瞬間、騒がしかったギルド内がシーンっと静かになった。


 それもその筈、このギルドの中で最強と名高いAランクパーティ『青の鳥』は、確かな実力と硬い絆で結ばれたパーティだったからだ。


 そして追放を言い渡された、『青の鳥』のメンバー最強と名高い格闘家、エディンを青ざめた目でギルドの人間は見た。


 追放を言い渡されたはエディンは、スヴェンの両肩を掴んで叫んだ。


「な……何言ってんだテメェ!!?俺を追放だとぉ!?なんの理由があって俺を追放なんて馬鹿げた事言いやがる!!?寝ぼけてんのか!?」

「…………エディ…。悪いけど、これはメンバー皆の相異なんだ。もう……君とはこれ以上やっていけないよ……」

「なんでだよ!!?俺たちゃガキの頃から一緒に冒険者最強を目指してきただろうが!?お前は親父のような最強の剣士に!!!俺ぁ最強無敵の格闘家に!!!って!!!」

「……エディ……」


 エディンの必死に叫びに、スヴェンの瞳が揺れる……。


 そうだ……。スヴェンだって決して好きで、エディンを追放したいわけではないのだ。

 ただ……どうしても、エディンをこれ以上パーティとして置いておくわけにはいかない()()がある。どうしても、スヴェンとしては許せない理由が……!


「なぁ!!?何が問題なんだよ!?俺のよぉ!!?言ってくれよ!!スー!!!」


 そのエディンの一言に、今まで瞳を揺らしていたスヴェンはプチン……っと何かが切れる音がした。









「いや!!いつも言ってるよね!!!?戦闘中に全裸になるなって!!!!」

「………???今はその話は関係ねぇだろ??」

「いやあるよ!!!?大ありだよ!!!?それが追放理由だよ!!!?僕何度も言ったよね!!?戦闘中にボルテージが上がって、上の服を脱いじゃうのは百歩譲っていいとして、下は脱ぐなって!!!うちのメンバーには若い女性もいるんだし、戦闘中に全裸になられると目に悪いんだよ!!!」

「うーーーん。別に私は構わないけどぉ……」

「目の保養、目の保養」

「ラティナとマナは黙ってて!!?ともかく!!!何度言っても何度言っても何度言っても!!!エディはぜんっぜん聞いてくれなかったじゃん!!?今から僕たちパーティは、新人の教育とかを任されていく立場なのに、絶対に戦闘中に全裸になること譲らない君がパーティに居ると、僕たちの沽券に関わるどころか、モラル的にアウトなんだよ!!!実際君のせいでどんだけ僕に苦情が来てると思ってるの!!?全部苦情は僕の所に来るんだよ!!?リーダーだからなのと、君が怖いから!!!!」


 スヴェンの必死の叫びを聞き、エディンは頭が痛くなるのを感じた。

 

(こいつ……!!!そんなくだらない理由で、俺を追放しようってのか!!?)


 ただ戦闘中にボルテージが上がって全裸になる……たったそれだけの理由で、長年連れ添った相棒である自分を切り捨てようとしているのだ……!!スヴェンは!!


 そう思い、さっきまでの絶望的な気分が怒りに代わっていくエディンだが………客観的に見れば、スヴェンは何も間違ったことは言っていない。どう考えても戦闘中に全裸になるほうがナンセンスなのである。………そう、つまりエディンは馬鹿なのだ。主に常識的な意味で。


 だがエディンは、そんな事お構いなしに、掴んでいたスヴェンの肩を乱暴に突き放すと、吐き捨てるように言った。


「そうかい………。そんな下らねぇ理由で「くだらない!!?くだらなくなんてないよ!!?」……くだらねぇ理由で俺を追放しようってんなら、そんなパーティーこっちから願い下げだね!!!あばよ!!!」

「あ!!!エディ!!!ちょっと待って!!!パーティ離脱の退職金の話とか、これからのエディの身の振りの話とかあるから!!!てゆーか、君がもう戦闘中に脱がないって今度こそ約束してくれれば、追放なんてしなくていいんだけど………」

「いらねぇよ!!!テメェの情けなんてなぁ!!!」

「いやこれは情けじゃなくて、当たり前のことで……。って!!まってエディ!!!やっぱり脱がないのは無理なの!!?なんでそんなに頑なに脱ぎたがるの!!?」


 スヴェンの制止の声を振り切り、エディンはギルドを出ていく!!

 ただただ自分を見限ったメンバー……。親友と思っていたスヴェンへの失望と怒りを胸に……!!



「ちっくしょうスヴェンのやつ……。馬鹿にしやがってぇ!!!」


 その後、ふてくされたエディンは昼間っから酒場に入り浸り、浴びるように酒を飲んでいた。


 信頼していたスヴェンに裏切られた悲しみ。

 そして文句だけ言ってギルドを出て行ってしまったと、少しながらの後悔………。


 それらを全て飲み込むため、ただただ酔いつぶれたいエディンなのだが………まぁほとんど自業自得である。


 だがそれを指摘できる人間など、この場にはいない。なぜなら皆エディンが怖いからである。


 この街でも、王都を含めても大柄に入る、二メートルをゆうに超える身長。そして熊かゴリラか怪物かを思わせる体格。

 そして極めつけは、どう見ても堅気には見えない傷だらけの厳つい顔………。


 完全にパッと見凶悪犯罪者です。本当にありがとうございました。

 

 となる容姿のエディンは、基本的に善良(?)な一般市民からは避けて通られる存在なのである。


「おーーーーい!!酒だぁ!!!なんか強い酒もってきてくれぇ!!!」

「うえぇ……は……はぁあい」


 給仕がまたかぁ……と、嫌々返事をしながら、とにかく早く酔いつぶれてダウンして欲しいという思いで、この店でも一番の度数を誇るお酒「絶対・鬼殺し・滅殺」を出すかどうかを真剣に悩んでいる中、それを待つエディンに近づく一つの影があった。


「エディせーんっぱい!!お久ぶりですぅ!!」

「………あん?」


 突然自分の名を呼ばれて顔を向けると、そこには一人の少女が自分を覗き込むように立っていた。


 ツインテールにまとめた黒い髪に、特徴的な猫耳と猫の尻尾。猫の獣人である彼女は、エディンを恐れるどころか嬉しそうに笑うと言葉を続けた。


「私のことぉ、覚えてますぅ?」

「………………………確かお前は………え……っと……。新人の………」

「あは!そうです!新人研修の時にエディせんぱいにお世話になったぁ、リンです!」


 そうだ、彼女の名前はリン。数か月前に冒険者になったばかりのひよっこだ。

 まだ入りたての彼女と、その他数名の新人の初仕事を、自分たち『青の烏』が面倒を見たのだった……。


「あの時はぁ、お世話になりました!エディせんぱいめっちゃめっちゃかっこよかったですぅ!」

「……っは!そうかぁ?あの時もそーいやスーにどやされたっけなぁ?新人の前で全裸になるなだのなんだの………」

「ふふ。………ところでぇ?エディせんぱい、昼間からこんなところで何してるんですかぁ?なんか深刻そうですけどぉ、話し相手ぐらいにならなれますよぉ?」


 そう言ってリンは、エディンと同じテーブルに座ると、にこりと笑ってエディンの言葉を待つ。


 そんなリンに、エディンは少し悩むが………このまま一人で飲み潰れるよりもましか……と思うと、事の経緯と愚痴をリンに零すのであった………。



「えーーー!スヴェン先輩ひっどーーーい。私だったらぁそんな事で怒ったりしないのにぃ」

「だろ!!?やっぱりスーがおかしいよなぁ!!?ただ全裸になるぐらいで、普通追放までするかぁ!!?」


 いやするだろ。普通に。


 話を聞いていた給仕が心の中で突っ込むが、当然口には出さない。


「ですです!やっぱりスー先輩ちょっと厳しすぎますぅ。こーんなにかっこよくて、素敵なエディせんぱいを追放だなんてぇ、私だったら絶対にしないなぁ……。エディせんぱいかわいそう……」

「……お前……いいやつだなぁ……」


 だいぶ酒が回って顔が赤くなっているエディンを、リンはよしよしと頭をなでる。

 普段だったらそんな事は絶対にさせないエディンだが、今は完全に酔っているので、そんなリンの行動にもなんか感動してしまう。


 そんなエディンに、リンはにこりと笑うとある提案をした。


「ねぇエディせんぱい。こんな素敵なエディせんぱいを捨てる人たちなんて、こっちから願い下げですよね?だったらぁ……私とパーティ組みません?」

「あん?……お前とぉ?」

「ですです!私もちょうど前のパーティから外されてぇ、困ってたんです。だ・か・らぁ、私とパーティ組んでくれると、うれしんですけどぉ……」

「………パーティねぇ………」


 リンが身を乗り出してエディンにパーティを組まないか打診してくるが、エディンはあまり乗る気ではなかった。


 なぜならエディンは未だに『青の鳥』に未練があるからだ。

 もし今、スヴェンがこの酒場にやってきて、さっきの事を謝ってまたパーティに戻ってきてくれと言ってきたら……エディンは喜んでまたパーティに加入するだろう。………いや、おエディンが謝れよ。


 ともかく、エディンにとって冒険者のパーティとは、子供のころからの親友であるスヴェンと組む事だけであり、他の連中と組むのは少し気が引ける。


 そう思い渋るエディンに、リンは優しい声で言った。


「きっとぉ、スヴェン先輩はエディせんぱいに嫉妬してたんですよ」

「あ?嫉妬だぁ?」

「です。だってぇ、エディせんぱいはスヴェン先輩より強いし、スヴェン先輩はちょっと背丈と体格が足りないし、みんなは『青の鳥』のエースはスヴェン先輩って言いますけどぉ、本当は分かってるんですよ?最強でエースなのはエディせんぱいだって………。それをスヴェン先輩は嫉妬してぇ、エディせんぱいを追放したんですよ」

「……………」

「だからぁ……そんなスヴェン先輩なんて捨ててぇ………私とパーティ組みましょ?そしてランクの高い依頼をこなしてぇ、それをクリアしたら……ふふ!スヴェン先輩また嫉妬しちゃうかも!!でもそれでぇ、スヴェン先輩を後悔させちゃいましょうよ!」


 まるで言い聞かせるようにエディンに言うリン。

 酔いが回った頭でなんとなしにリンの話を聞いていたエディンだが、所々こいつしばいたろうか?と思う所があった。


 スヴェンが自分に嫉妬して、パーティを追放した……って所とか。

 

 なぜならあのスヴェンがそんな下らない理由で自分を追放する………なんてことはありえないからだ。………まぁ実際全裸になる、なんて下らない(下らなくはない)理由で追放された訳だが……。


 だが、他の奴とパーティ組んで嫉妬させる、という部分にエディンは大いに食いついた。


 もし自分がこの阿保娘と手を組んで、でかい依頼を達成したら………もしかしらた、スヴェンはそれに嫉妬して、考え直してまたパーティに戻ってくれ、とお願いに来るかもしれない!!


 その時に、自分を追放したことを誠心誠意謝らせて………そうだ!女装でもさせて、街を連れ歩いてやろう!!

 スヴェンは昔から、自分が女顔なのと、ナヨナヨなのを大層気にしていた。


 そんなスヴェンを、エディンは事あるごとに罰ゲームで女装させて、街を連れ歩いていたのだ。

 ………街を連れ歩いてるときに、恥ずかしくて顔を赤らめて自分に隠れるスヴェンにちょっと欲情してしまって、もう男でもいいかな?っと何度も思ったのは内緒だ。


(ともかく!!これはあいつらへの復讐だ!!この俺を追放した事を後悔させてやる!!)


「その話、乗ったぜ!!小娘!!ちょっとの間だが、お前とパーティ組んでやる!!」

「わぁ!!ホントですかぁ!!ありがとうございますぅ!!少しと言わず、ずっと組んでくれるようにぃ……私!頑張りますねぇ!!」


 そう言って喜ぶリンを見て、エディンは大きく頷いて笑うと、給仕にさらに酒を持ってこさせる。


 そしてついに給仕が持ってきた「絶対・鬼殺し・滅殺」を上機嫌に飲み始めるエディンを見て、リンは自分の計画が上手くいったと、ニヤリと嗤うのであった………。

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