斯くしもがも 12
学校の教員の異動というのは案外早く目星が付くもので2年生の冬にはある程度どこに配属されるかとか分かっていたようだ。
どちらにせよ今通ってる学校は転校になることは決定していた。
クラスメイトから距離を置かれ、教員たちにも嫌われ、教室内の自分の席と図書室くらいしか居場所の無かった私はこの学校には思い入れはなかった。
もちろん友達も居なかったので友達と離れるのが辛いというイベントもなかった。
三学期の終わりに転校しますくらいのさらっとした挨拶でとくに何事もなく転校イベントは終わった。
初めからわかっていたことではあるが改めて自分の学校での立ち位置を突きつけられたようで少しだけ寂しく、心が痛かった。
そのまま迎えた春休みに引っ越し作業はあるが合間を見て爺ちゃんの所へ行く。
家に行くと爺ちゃんは居らず婆ちゃんに聞くと
「部屋にいないならガレージだと思いますよ。」
といわれたのでガレージに行くとV-MAXのキャブレターを外して分解して清掃してる爺ちゃんがいた。
「おお、来たんか、今日はどうした?」
「いやちょっと春休みだから顔見に来た。」
「ほお、そうか、で、寂しそうな顔してどうした?なんかあったか?」
ちょっとだけ図星を突かれて焦る私。
「あーんー、えー…、ちょっとね、今回転校するってなってさ、まあ最初から分かってたことだけど、改めて自分の立ち位置というか孤立してるなーって実感しちゃってさ。」
「んー、別にいいんじゃないか?それでなんか困るか?」
「まあ困りはしないけどね、寂しいというかなんというか」
「なんだ、そんなことか。なら一番簡単は方法を教えてやろう。
なにか、なんでもいいから一番になれ。そうすれば自ずと周りが認めてくれる。」
「一番かぁ…。何かあるかなぁ?」
「別に難しく考える必要はない。足が速いとか勉強が出来るとか力があるとか気が効くとかとにかくなんでもいい。」
「そんなもんかなあ?」
「人間、結果を見るもんだ。それなりに認められる結果は見てみぬフリは出来ないからな。
ただな、これから社会に出て、団体生活を送っていくうえで他者に合わせる、合わせてもらうことは多くなるだろう。その中で他者に気に入られようと卑屈になってはダメだ。
他者を持ち上げ、自分を蔑む事ばかりしていると自分で何もできなくなってしまう。
だから自分自身を下卑するな。自分が自分の一番の味方で居ろ。」
「難しくてよくわかんないけどわかった。」
「まあ、今分からなくても何年か後にでも分かれば良い。」
そう言って笑いながらいつの間にか分解して清掃の終わったキャブレターを戻していく。
「そんな細かいものよく分かるね?」
「こんなもん、慣れだ慣れ。触ってる内に分かってくる。分からなければ大体本に書いてあるしな。端白にもそのうち教えてやるさ。」
「バイクねぇ…。乗れるかな?」
「そんなもん、誰でも乗れるさ。事故るかどうかは別問題だがな。」
「事故はやだなぁ、痛そう。」
「事故は誰でも嫌だろ。痛いじゃ済まないしな。」
「確かに」
そう言ってある程度キャブレターを組み終えた爺ちゃんと笑い合いながら、ガレージを出て主屋に戻る。
「事故しないような乗り方をそのうち教えてやるさ。バイクに足が届くようになったらな。」
「それけっこう先の話だね。」
「まあそう言うな、バイクは自分で起こして跨がれないと話にならないからな。早く大きくなれ。」
そんな話をしながら廊下を二人で歩いてると
「長い時間ガレージに籠もって二人でバイクの話ですか?ほんとに子供なんですから。
爺さん、油で汚れてますよ、そのまま居間に入らないでくださいね。ちゃんと手も洗って服を着替えてからにしてください。」
と婆ちゃんに怒られていた。
この家にはゆるやかな時間が流れていた。




