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-虚蝉-  作者: 微睡みの白
Via vitae ~過去の影を踏みしめながら 未来の光を探す旅路 真理はその途中でふと現れる 風のように~
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斯くしもがも 10

話を戻そう。

私に起きた大きな出来事、もうひとつ。

男が女を連れてきた。

私を産んだ方ではない。新しい女だ。

男は私と姉の顔合わせに《《自宅に》》連れてきたらしい。

普通そういうのは外でやるものではないのか?

そもそもなぜ連れてきたのか?

どこをどうしてそんな話になったのか?

男も女もどういうつもりなのか、私にはまったく理解できなかった。

私の中でも産みの女の方にこれと言った思い入れもないし、心の整理も割り切りもしていたのだが、それはそれ。

嬉しいとも違う。悲しいとも違う。苦しいとも辛いとも違う。いい気分なわけでも悪い気分なわけでもない。

なんとも表現しがたい吐瀉物のような思いが心を踏みにじる。

玄関先に佇む、男と女。

すこしだけ以前の家を出ていく女の後ろ姿を思い出す。

姉は手慣れたものですぐににこやかに挨拶する。

変わり身の早さというか姉は相変わらず世渡りが上手かった。

私も慌てて二人の顔色を伺いながら頭を下げる。

「お父さんと仲良くさせてもらってます、シオリです。お姉ちゃん、端白くんよろしくね?」

と名乗る。

『この男のことを物心付いてから一度たりとも父と思ったこと無いけどな』と心の中で思いながらも

「端白です、よろしくおねがいします。」

ともう一度私は頭を下げる。

ある程度顔合わせも終わり、シオリさんは男や姉としばらく話した後、家に上がりお茶をいれてくれる。

特に探すこともなく男の家で手際よくお茶を入れるシオリさんの姿に『これは私の知らない間も何度か来てるんだな』と幼いながら察した。

要領良く立ち回れる姉とは違い、私はこの特殊な極限の環境下で弱小の鼠のように人の顔色をみて、空気を読み、周囲の変化を過敏に感じ取り状況を素早く把握する判断力だけが異様に育っていた。

そのせいでつい人の顔色を伺うクセがついてしまっていた。

軽い吐き気を覚えながらも上っ面だけのにこやかな会話をリビングのテーブルでみんなで続ける。ほんと幼稚なおままごとの光景だ。

みんなで色々会話をしたと思うが、正直ほぼなんも覚えてない。

なんとなくわかったのは、

男とシオリさんは高校の元同級生で、

最近、どっかで再会して、話がはずみ、なぜか交際に至り、

結婚前提で現在お付き合いしてる。

なお、シオリさんの仕事はどうやら小学校の教員らしい。

ということがわかった。

何を思えばこの男と付き合おうと思うのか、ましてや二人の子供がいる。そんな状況で学校の教員という堅実な職業をしているのに結婚まで考えられるとは、とんだ酔狂な人だなというのが私の感想だった。


段々とシオリさんは家に来ることが多くなり、2,3回くらいシオリさんがお弁当を作ってきてくれて、動物園か遊園地かどこかへピクニックに行った気がする。

ただこの頃の私はabuelo も亡くし、人の抱える欲望も目の当たりにし、私の中で『嬉しい』だとか『楽しい』だとかのいわゆる「正」の感情ってものに鈍感になり、『痛い』『悲しい』『辛い』などの負の感情でしか心が動かなくなっていた。

なのでシオリさんとのお出かけは《《端から見た絵面上》》は家族総出の初めてのお出かけだったはずだが私にはなんの印象にも残ってない。

『そういえばどこか出かけたな。』

それくらいの印象しか無いのだ。


その後もシオリさんの来る回数は増え、家に泊まる回数も増え、姉とシオリさんは仲良く過ごし、私とシオリさんはちょっと壁がありつつもなんとか歩み寄ろうとしてくれているのもわかり、私が2年生の冬頃、男とシオリさんは結婚した。

私と姉に継母が出来た瞬間である。

姉は姉で思うところもあったと思うが私達姉弟はそんなに仲良くないのでお互いどうかんがえてるなんかわからない。

私自身は、継母はそれなりに私と仲良くなろうとしてくれてるのは伝わるし、なにより継母が居ることで男が良い格好をしたかったのか見栄を張りたかったのか知らないが私への当たりが弱くなったのが何よりの恩恵だった。

ご飯もちゃんと食べれるし、男からの虐待もたまに怒鳴られて殴られるくらいの軽いもので済んだし、継母が教員なので勉強を教えてもらえたのも良かった。

私の中ではつかの間の比較的平穏な時期が訪れたのだった。

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