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-虚蝉-  作者: 微睡みの白
Via vitae ~過去の影を踏みしめながら 未来の光を探す旅路 真理はその途中でふと現れる 風のように~
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斯くしもがも 8

相変わらずクソみたいな人間に囲まれて、クソみたいな生活を過ごして私は2年生になった。

2年生になったからといって普段ならとくに変わることはないのだが、この年はなにかと変化があった。

ひとつ、

abuelo がガンで亡くなった。

結構元気だったはずだが、ガンが見つかってから目に見えて具合が悪くなりやつれて青白い顔をしていた。しかし眼にはまだ力があった。

ガンになったと聞いた後、数回だけ見舞いに行けたが、毎日知人親戚関係者と病室に押しかけていたのでゆっくり顔を合わせることなんて出来なかった。

それでも合間を見てabueloは私を呼び、

「端白、お前は()()()望まれて産まれてきた。それを努々(ゆめゆめ)忘れるな。

そして、世界を見ろ、世界はお前が思ってるよりもずっと広い。

いいか、人はどれだけ生きたかじゃない、どう生きたか、だ。

歳を取るな、歳を重ねろ。ワシの子だ、強く生きろ。」

苦しそうな呼吸の中、優しい目で私を見つめそう言った。

それが私の中のabueloの遺言になった。

それからふた月もしない内にabueloは亡くなった。

葬式はそれはもう盛大だった。たくさんの花輪、途切れぬ弔問客、山のような供花。

遺影に映るabuelo はだいぶ若く、ハリウッドスターの様で、

皆が

「穏やかな顔をしている」

と言う棺に眠るabueloは頬がこけ、眼がくぼみ、青白い顔のままで、あの力強さの塊のようなabueloはそこには居なかった。

あまり現実を受け入れられず歪む視界につかれ座っていると玄関が騒がしくなっていることに気づいた。

よく見ると以前会った、abuelo のお手伝いさん(愛人)の三人が喪服姿で玄関に立っていた。

親戚共は

「帰れ!愛人風情が!」「二度と顔をみせるな!」「あんた達の居場所はもう無いんだよ!」

と罵倒が飛び交うが、

「私達は最後の別れにお焼香を差し上げるだけです。そうしたら二度とあなた方には顔を見せませんので。」

といい涼しい顔で押し通る三人に

『よく言った!』

と一人、心の中で拍手を送っていた。

三人がabueloにお焼香を上げ、長く手を合わせ振り返り、帰り際にそのうちの一人と眼が合う。

私に気づいた一人が私に向かって手招きする。

私は不思議に思いながら素直に玄関先まで着いていく。

私を呼んだ方は「サキ」さんと名乗った。サキさんは

「端白さん、何度かお会いしましたね。覚えてますか?」

と優しい口調とすこし腫れた目で私に微笑む。

「ええ、覚えています。いつもabueloのお世話をして頂いてありがとうございます。

きっと皆さんがabueloの支えになってくれていたと思います。」

と私はたどたどしいながら頭を下げる。

そう、親戚共は誰もabueloの世話をしていなかった。

「愛人が居る家に出入りしたくない」とか「まだまだ元気でいるから」とか何かと理由をつけてabueloを気に掛ける人は居なかった。この三人だけがabuelo に寄り添っていたのだ。

「最初に会った頃より随分と立派になりましたね。あの方(abuelo )とお祖父様の教育の賜物なんでしょうね。」

とサキさんは笑いかける。

「端白さんに、あの方より伝えてほしいとお願いされたことがあります。心して聞いて下さい。

『ワシが死んだら、きっと馬鹿共が遺産争いを始めるだろう。人が欲にかられるといかに醜いかよく見ておけ。

それがワシから送る最後の教育だ。

そしてワシはあえて端白、お前にはなにも残さない、なにも譲らない。

お前なら、ワシの子なら、何もなくてもきっと自分で切り開けるはずだ。

だから最後にワシがお前に伝えたことはしっかり心に刻んでおけ。』

だそうです。ちゃんと伝えましたよ?」

そしてサキさんは目線を合わし私の頭を軽く撫でる。

「やさしいあなたはきっと私達の心配をしているのでしょう。でも大丈夫です。私達はあの方に沢山救われ、沢山のモノを貰いすぎてとても返せません。十分に頂きました。

あの方が居ない今、きっともう私達が会うことはないでしょう。

あなたも曽祖父様に負けず、素敵な紳士になってくださいね。」

そう言ってサキさん達は夜の帳へ消えていった。

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