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-虚蝉-  作者: 微睡みの白
Via vitae ~過去の影を踏みしめながら 未来の光を探す旅路 真理はその途中でふと現れる 風のように~
29/41

斯くしもがも 5

平日は薄鈍うすにびの自宅。

いつも通り、武術と言う名の言い訳の下に隠した暴力を受け、

最近では、自分ばかり置いていかれる姉の軽蔑の目線を受け、

友達も居らず、遊びにも行かず、誰かと話し合うこともなく、只々ひたすら耐える生活。

土日は承和そがの爺ちゃんの家。

生きる心構えと、一人で生きていく実践。そして人とのふれあいを感じる生活。

そうやって私は歪ながら成形されていく。


そんな複雑な生活を繰り返し、冬を越え、私は卒園して、小学校に上がった。

当然ながら卒園式にも入学式にも男は来なかった。

入学式の日、真新しい制服を着て、ランドセルを背負う私を見て男が私に告げたのは

「忘れ物するなよ。」

その一言だけだった。

あまりにも簡素な言葉を嘆くべきなのか、それとも欠片でも私に関心を向けてることを喜ぶべきなのか私には分からなかった。

初めからこの男はきっと来ないだろうとわかっていたから。

ただ、男は入学式に来なかったが、当日私の知らない間に、爺ちゃん婆ちゃんは少しだけ見に来てくれていた。

だれも来ないとうつむき加減で居る私を見て、婆ちゃんが後日、

「姿勢が悪い!生まれる時も一人なら死ぬ時も一人なのですよ。男子なら恥じず、しっかりと前を見据えて胸を張って進みなさい!」

と説教をうけて、しばらく姿勢良く歩く練習をさせられた。


小学校に入ると私の出た園だけではなく初めて見る子も沢山いた。つまり私の過去を知らない子達。

ここなら私も友達をできるのではないか?そんな淡い期待も抱いていた。

爺ちゃんの所でいろいろな大人の人と出会い、話す機会が増えた私は、以前よりも多少の社交性が身についたことも有り、比較的吃らず、緊張せず、クラスの自己紹介も出来たと思う。

それぞれの自己紹介も終わり、休み時間になると他の子から

「何処からきたの?家はどこ?」

みたいな会話でそれぞれグループに分かれて話し始める。私もそのグループにしれっと混ざり、普通に会話していく。これまで実際、同年代のグループ内に混じって話す事がなかったので内心ドキドキしなから会話していた。

入学してからしばらくは集団下校で同じ方向の子どもたちといっしょに帰る取り組みがあり、私も同じ帰宅方向の集団に混じって帰る。

家が同じ方向ということもあり、それなりに話もはずみ、

「また明日ねー。」

と言ってひとり、またひとりと自宅へ帰っていく。

私も

「また明日。」

と言いながら自宅へ帰る。

また朝が来て、登校する道すがら、昨日途中まで一緒に帰った子と出会い、

「おはよう。」「おはよう。」

声を掛けて挨拶を返す。

教室に入っても、

「はじろくんおはよー。」

とまだ名前も覚えていない子が挨拶してくるので急いで挨拶を返す。

園で憧れていた夢がひとつ叶った気がした。


しかしそんな儚い小さな夢さえ男は平気な顔で壊していく。

ある日、相変わらず自宅で男の暴力を耐えていたら、その翌朝、起きて顔に違和感を覚え洗面所の鏡を見ると、私の左瞼からこめかみに掛け横一文字に筋が出来ていて腫れて内出血を起こしていた。その血が瞼にも溜まり腫れて垂れ下がっている。

恐らく昨日、顔を竹刀で殴られた時のものだろう。

『この顔で学校行くのか…絶対なにか言われるよね。』と思いながら投稿するかどうかを悩むが、行かないわけにも行かず、諦めて帽子をいつもより深めに被って登校する。

登校中、いつも通り声を掛けてくる子が

「おはよ…ええええ!?どうしたのその顔!?病院いった?大丈夫?学校行ける?」

と驚かれ、心配される。まあ、当然の反応だと思う。

「えへへ、大丈夫、ちょっとぶつけただけだから。」

愛想笑いを浮かべ、適当にごまかす私。

当然、学校の校門前で遅刻者をチェックしてる教員にもバレて

「お前、どうしたんだその顔!?大丈夫か?誰にやられた?病院いったか?今痛くないか?保健室行くか?」

と驚かれつつも矢継ぎ早に質問される。

バカ正直に『今めっちゃ痛いです。』『男にやられました。』というわけにも行かず、

「へへへ、ちょっと昨日、顔ぶつけちゃって、思った以上にこんなになっちゃって…」

と、また愛想笑いしながら適当にごまかす。そんなごまかす自分に反吐が出る。

教員は

「一旦教室へ行く前に保健室いこうな、連れて行ってやる。」

と保健室へ付き添われる。

保健室の保険医は、

「あらまあ、派手に腫れてるね、どうしたのこれ?」

とあまり驚かず聞いてくる。

付き添った教員は

「じゃああとはおねがいします。」

と言って出ていく。保険医と残される私。保険医がまた口を開く。

「もう一回聞くね?この顔の腫れはどうしたの?」

優しい口調で聞いてくる。

「えっと、ちょっと不注意で壁かなんかにぶつかっちゃって。あ、でももうそんなに痛くないんで。」

「こんだけ腫れてて痛くないわけないでしょ。熱でてない?ちょっと測って。」

と体温計を渡してくる。仕方なく体温計を脇に挟む。

「んー…。そっかー、壁にぶつかったかぁ。」

まじまじと腫れを観察する保険医。

…。

無言の空間にふいに鳴る体温計のアラーム。熱らしい熱は出てなかった。

「熱はないかー。大丈夫?動ける?目みえる?」

頷く私。

「教室いく?ここで休む?」

「教室いきます。」

「じゃあちょっとココらへん、ガーゼ当てておこうか。」

そう言って適当に切ったガーゼを瞼の上に貼る。

そのまま私は教室に向かう。教室では朝のホームルーム中だった。

「遅れました。」

そう言って会釈しながら教室に入る。ザワザワとどよめく教室。一斉に好奇を含んだ目線が私に刺さる。

「はいはい静かにーしーずーかーにー、騒がないよー。」

教員が室内の空気を宥める。居心地の悪さを感じながらも私の席に着く。

時々チラチラと目線を感じながらホームルームを過ごす。

終わって教員が教室から出ていくと一斉に私の前に好奇心を隠せなかった子供達が集まる。

「ねえねえどうしたのそれ?」

「ちょっとぶつけちゃって、それで保健室寄ってから来たら遅くなっちゃった。」

「えー大丈夫なの?いたくないの?」

「ちょっと見づらいけど大丈夫。」

そういう他愛のない話である程度落ち着く。

その日は深入りもされずそのまま終わる。

ただ、それで終わればよかった。こういう目に見える傷が1回や2回程度なら良かった。

月に数回、下手したら週に2,3回、顔や腕、足、見えるところに痛々しい青痣が出来た。私の場合、あまりにも頻度が高すぎた。

最初の頃は、『ぶつけた』『格闘技してるから』と色々理由を付けてみたが流石に限度があった。

初めは心配していたクラスの子も教員も段々引いていき、距離を置かれ、誰も触らぬようになった。

学校側も口がうまくて無駄に外面の良い男に丸め込まれたのか、何度かあった家庭訪問も、夏になる頃には無くなった。

そうしてまただれにも相手にされず孤立した私、こうして小学校デビューは失敗に終わった。

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