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-虚蝉-  作者: 微睡みの白
Saltat in limine anima ~魂は狭間で踊る~
15/41

境界のまなざし 1

汗ばむ暑さに目が覚める。外は明るく、部屋に陽が差し込んでいる。

やけに耳に響くセミの声を聞きながら床に転がって強張った身体をゆっくりほぐしながら目を覚ます。

ふと横を見ると姉と男が寝ている。ものすごく珍しい、私の記憶の中では同じ場所でみんなで寝たのは初めてなのではとも思える情景。

思い出すのは昨日のこと。

ひと月ぶりの家は物が散らかり、食器は砕け、それはゴミは溜まり、それはもうひどい惨状だった。

足の踏み場も無いし、このままでは破片なんかで怪我もするので一度皆で手分けして片付けを始める。

スリッパを履いたまま男は破片の片付け、姉は掃き掃除、私はゴミ出しと分担しながら片付けていく。

特に会話もなく、カシャカシャという陶器の擦れる音。

ガサガサパキパキとビニールの潰れる音。

そういう心無い音だけが響く部屋。

二時間も経った頃だろうかある程度、リビングに居てもほどほどなんとかなるまで修復された部屋はひどく簡素で寂しげだった。

他の部屋の有り様も酷かったが、とても一日じゃどうしようも出来ないのでその日は諦めた。


「おい、ふたりともちょっとこっち座れ」

男がリビングから呼ぶ。

私と姉は大人しくテーブルを挟んで向かいの席に座る。久しぶりにマトモに真正面から男の顔を見た気がする。

すこし前より痩せたのか、ひどく疲れた様子が顔に見える。

「これから二人に大事な話をしようと思う。難しい話だからあまり分からないかもしれないがまあ聞いてくれ。」

私と姉は頷き続きを促す。

男は少し落ち着いたトーンで話し始める。

「向こうの家に行くまえからしばらくのところ俺とあいつ(女)とはしょっちゅう喧嘩してたよな?

あいつは俺に黙って家の金を使い込んでいてな、相当な金額になっていた。注意したり諭したりしたんだがな、全然聞かなくてな、仕方なくあいつのカードを止めたりしていたんだがそういう度にあいつが話を聞かなくてな、それでよく喧嘩になっていた。」

私はもう少し感情的になるかと思っていたが男は思っていたより冷静に話を続ける。

「それでとくに最近はお前たち二人をどうするかで長い事喧嘩していてな。

あいつは姉ちゃん《《だけ》》欲しいっていうんだ、子供がいれば私が楽だけど二人は大変だからって、またそれで喧嘩よ。

それで揉めに揉めてな、最終的には色々法廷で争ってな。結局お前ら二人は俺がひきとることになった。」

男は一呼吸置く。

と、

「知ってた。そんな風になるだろうと思ってた。」

姉が一言呟く。

男は深い溜息を吐いて、

「…そうか。」

とポツリと呟く。

当時の私は世間知らずだったので言ってる意味の半分も理解できてなかった。わかるのはなんかこれから変わるんだなという変化の兆し。

男は不意に立ち、台所へ向かい換気扇のスイッチをいれる。

ポケットからタバコを取り出し火をつけて数口喫む。

男は口から煙を吐き出しながら、天井を見上げて小さく呟く。

「みんなで死ぬかァ…」「嫌だ!!!」

間髪入れず姉の鋭い言葉が飛ぶ。

「死ぬ」という意味を私は理解出来てなかったが普段あまり取り乱さない姉の豹変にこれはただ事ではないと感じ私も続く。

「…い…やだ。」

しばらく続く静寂。粘着質にまとわりつく空気が重い。ふと見ると姉は泣いていた。

軽くうなだれる男はまた何口かタバコを喫む。煙いような香ばしいようなホープの香りが部屋に広がる。

「…そうかァ…そうだよなあ…俺がしっかりしないとなぁ」

そういうと男はタバコをもみ消して、私と姉に近づき、二人を抱きしめる男。

「こんな辛い思いさせてふたりともゴメンな。これからもっと俺がしっかりするわ。」

いきなり抱きしめられた事となぜか謝られた事に驚愕する私と大泣きする姉。

そのまま身体を固めながら、男に謝られたの初めてかもしれない。と思いつつ、どこか俯瞰した目線でこの謝ったらすべてが許されるような自分に酔った空間がひどく不快なものに見えた。

しばらくそのままの時間が続き、ある程度落ち着くと、夜も遅いからこのまま今日は寝ようという話になり、きれいに出来た部屋はここしか無いならとりあえずみんなで寝る。

そして朝に至るのだった。


とりあえずこの日、私が理解したのは、

もう女がここには帰ってこない事実ともうあまり動かない私の心だった。

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