推定SS級以上モンスター
さかのぼること数分前、奥に人のいる気配を察知した俺たちは散歩あるあるの『人との出会い』が体験できると思って足早になりながら音のする方へ走っていった。
結果的にはなんとダンジョン配信者さんに出会うことが出来たのだが、気づくとリルとハクの姿が消えていたのだ。思えばボス部屋?に繋がっていた扉を開いた時にはあの子たちの気配は消えていた気がする。
今までも突然に姿を隠すことはあったが、俺の先を進んでいた二匹が後ろにいるとは考えづらい。だから俺は勝手に先に奥へと進んでいると思っていたのだ。
が、
「ハクー!リルー!でておいでー!」
どんだけダンジョンの奥へ進んでもあの子たちの気配がしない。
リザさんいわくランダムデーで繋がったダンジョンは家のダンジョンのレベルよりも低くなるらしいので、家のダンジョンでものびのびしているあの子たちに万が一があるかもという心配はない。が、それでも心配になってしまうのが飼い主である。
それにダンジョンの奥に進むということはだんだんとモンスターのレベルが上がっていくということ。もしかしたらダンジョン特有の罠があるかもしれないし、突然に大量のモンスターに囲まれてケガしてしまうかもしれない。
おそらくあのダンジョン配信者さんと出会った場所は所謂《《下層2階》》なのだろう。1階のボス部屋を通り過ぎたのだから間違いないはずだ。
「ったく、どこまでいったんだよぉ」
どこまで進んでも二匹がいた気配がすることはなく、困った俺は頭をかく。
ハルさんを見かけたとき、あのでっかいトカゲっぽいモンスターに苦戦していたようだったので手助けに入った。あのモンスターは少し強いので下手をすれば命を落としていたかもしれない。
あの子たちならあのモンスターくらいはケガ無く倒せるし、死にかけの人を見捨てるとは考えにくい。
それにハクとリルがもし姿を隠していなければもっとハルさんと交流しても良かったとは思うのだが……なんならハルさんに『大きなワンちゃんと普通サイズの白猫見なかった?』とダメもとで聞いても良かったかもしれない。
「もしかしてどこかで通り過ぎたのか……?」
思えばあの子たちは俺と出会った時も警戒していたことだし、
まぁ、今はそんなことを考えても仕方ないか……
そうして俺はハクとリルを探しにダンジョンの奥へと進んでゆくのだった。
♢♢♢
〝ハルちゃんよがっだよぉぉぉぉ!!〟
〝てか後ろ何あれ!?〟
〝氷のオブジェ?〟
〝躍動感すごいな……〟
〝え、てかもしかしてさっきのドラゴンじゃね!?〟
〝ほんとじゃん!え!倒したの!?〟
〝てかハルちゃんケガが治ってない!?〟
〝ほんとだ!どうやったの!?〟
〝さっきの声ってやっぱり救助部隊の声?〟
視聴者のコメントが今までにないくらいの速度で流れる。
白鷺さんからもらったカメラを使って生存報告をするために配信を付けなおした。同時接続は現在20万人。おそらく皆後ろのドラゴンが氷漬けになっていることや私のケガが完治していること、そもそもあのバケモノドラゴンを倒せていることに多くの疑問を浮かべているだろう。
この機会だ、さっき起きた信じられない出来事を話して全部信じてもらえるとは思はないが、でもそれを通してファンが増えるかもしれない。
それに、もしかすると白鷺さんのことを知ってる視聴者がいるかもしれないし……
よし、
「実はさっき信じられないことが起こったんだけどね!」
そうして少し思考した私はカメラの前で少し大げさに手を広げ、さっき起こった出来事を話そうとした。
その時、
――――ッ!?
刹那、今までに感じたことのない魔力によって押しつぶされる。
もしかしてさっきのドラゴンが!?……いや、さっきのドラゴンを見たが変わらずに凍っている。
それに、さっきのドラゴンの魔力なんて比にならないくらいの量だ。
立つことが出来ないくらいの魔力圧によって地面に倒れてしまう。こんなことは初めてだ。
まるでトラックが突然に私の上に振ってきたように、それほどまでに前兆なく押しつぶされてしまった。
〝あれ?〟
〝また画面が消えた?〟
〝ハルちゃん?〟
〝また切れた……?〟
〝でもコメントは打てるぞ?〟
〝もしかして魔力障害?だとしてもカメラが見えなくなることは無いからな……〟
〝声も突然途切れたし、どうなってるの……?〟
コメントを確認する限りおそらく配信は続いているのだが、音と画面が消えている。
「何……コレ……?」
起き上がりたくても起き上がれない。1度S級探索者と模擬試合をしたことがあるが、その時でもここまでの圧は感じたことがなかった。
汗が額を通り抜ける。
頭に浮かぶ『死』の文字……さっきのドラゴンがまるで赤子のように感じられる。
一体何が……起こって――――
「……悪いの、これもあるじのためなんじゃ」
ッ!?
何、今の……女の人の声……?
その時、目の前に一匹の白猫が現れた。
そう、《《ダンジョンのここ80階》》に現れた。状況からして普通の猫ではないことはわかる。そんな白猫が私の目の前に座り、私のことをじっと見つめている。
もしかして今の魔力圧をこの白猫が……?
「あな……た……は……?」
「ん?あぁスマンの、ちと魔力を出し過ぎてしまったわ」
――――ッ!?
体が……軽くなった……?
それにまたあの声……
恐る恐る起き上がって周りを見渡したが、それらしい女性はいなかった。ここにいるのは氷漬けになって死んだドラゴンと、そして……目の前の白猫……
……もしかして!?
ある一つの可能性が浮かんだ私はその白猫をじっと見つめる。
一見普通の猫のように思えるが、よく視ればそれが普通じゃないことがわかる。おそらくそれは魔力感知が得意な私しかわからないが、白猫の中の魔力を探ってみればわかった。いや、余計にわからなくなった。これはおそらく……《《例外案件》》だ。
普通魔力を持つ者には魔力の流れが存在する。その魔力を視ることでどの程度の実力かを把握できる場合がある。が、時に例外が存在する。この例外が起きた時は魔力を感知することが困難だと言われている。
一つは先ほどのイレギュラーのように、まるでワープかのように突然現れた場合。
二つには先ほどの白鷺さんのように、必要な時以外魔力の流れを最小限にとどめている場合。
そして三つ目。
――――《《SS級以上》》のモンスターの場合




