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配信再開

「何者って、あぁえっとそうでしたね、俺は白鷺白亜って言います」


 『何者なのか』


 その返信に対し青年は律儀に自己紹介をしてくれた。


 今の彼からは先ほどのような異常な強さは全く感じられない。それどころかダンジョン適正のない一般市民のようにも感じられる。……まるで先ほどの一連が嘘だったかと錯覚してしまうほどだ。

 だが、事実彼があのバケモノを一瞬にして倒したことには変わりない。


 彼ほどの実力者なら私の質問の意図を理解していないはずがない。

 

――もしかして答えたくない理由があるの……?

 

 というかそんなことより、


「配信は!?」


 先ほどから私の《《ライブコンタクト》》にコメントが表示されない。数分前のコメント欄の速度からして視聴者が自発的に配信を去ったとは考えられにくい。

 

 とすれば……


 不思議に思った私は周りを見渡し、コメントが流れない原因を見つけた。


「……あっ!」


 カメラが凍っている。

 私の配信スタイルはカメラにある。魔力操作、感知を得意とする私はスマホからではなく、完全にカメラから配信をつけるようにしている。片方の目にライブコンタクトを付けることで両手が空き、先頭に集中することが出来るからだ。


 そして、先ほどの彼の一撃で私と彼以外の全てが凍った――つまり、私の魔力による接続が切れ、ただ配信を映すだけとなったカメラも凍ったということ……


「きゅ、急にどうされたんですか?」

「え、あっ、そのぉ、配信カメラが壊れてしまったんです……あっいや、別にあなたのせいでとか言いたいのではないんです!ただ――――」

「配信者の方なのですか!?」

「……へ?」


……へ?

 

 私の『配信カメラ』という発言に彼は驚いた様子を見せた。


 彼はもしかして私が配信者ということを知らない……?

 だとしたら彼は配信から救助に来てくれた人じゃないの?いや、そもそも私のことを知らないの?


 自慢じゃないけど、私は最もS級に近い配信者と言われていて、探索者の中では名の知れた存在となっている。実際配信初めて1年という月日で登録者70万人までたどり着いた。

 

 そして、その情報をS級以上の探索者が知らないとは考えられない。

 A級探索者がS級に上がるためには厳しい試験を乗り越えたのち、S級探索者5名に認められる必要がある。

 だからこそS級は嫌でもS級に近いと言われている探索者の情報を確認しているはずである。


 それなのに彼は私のことを知らない様子。ますます彼についての不思議が深まる。


「あのぉ」

「へ?あっ、そうですそうです。私はハル――普段はダンジョン配信しています」


 そういえば彼は自己紹介をしてくれたが私はしていなかった。

 私のことを知っているかもと思っていたが、そうだとしても助けてくれた相手に挨拶すらしないのは礼儀に欠ける。


 そう思った私は完治した足で立ち上がり、埃をサッとぬぐって彼に向かって自己紹介を済ませた。


 すると、


「わぁ!ダンジョン配信者の方は初めて見ました!」

「え、あ、えぇ?」

 

 私がそういうと、彼――白鷺さんは突然少年のように目をキラキラさせたかと思えば私の目の前まで来て手を握られ、その手をブンブンと振る。

 まるでただのファンみたいだ……


 そんな白鷺さんに対してどう反応していいかわからず困惑していると、


「ってこんなことしている場合じゃなかった!」


 突然白鷺さんが掴んでいた私の手を離した……かと思えばまるでなにかを思い出したかのように焦りだした。


 なんなのだろう、もしかして先ほどのドラゴンはまだ死んでいないということ?


「あの、後ろのドラゴンって……」


 そう言って私は後ろにあるオブジェと化したドラゴンを指す。

 いくら凍っているからといっても近くでちゃんと見るとすごい迫力ね。まだ死んだと確定したわけではないから警戒を解いていいわけではない。


 そうして私は彼の言葉を待つ。


 すると、


「ドラ……あぁ、このトカゲのことですね、大丈夫ですよ……もう死んでます」

「へ?そうなんです――って、トカゲ!?」


 今のたった一つの発言によって気になることがさらに増えた私は恥ずかしながらも変な声を上げてしまった。


「あっ、コホン……失礼」

「いえ、最初は俺もこいつを初めて見たときは驚きましたからその反応もわかります」


 そう言って彼は子供のような笑顔を見せる。きっとそれは私を安心させるような、そんな笑顔なのだろうが、どこかかわいらしく感じてしまった。



「えっと、これ予備のカメラです……壊してしまってごめんなさい」


 そうして彼は申し訳なさそうに私にカメラを渡してくれる。


「いえいえ、私は命を助けてもらった身ですから、むしろもらっちゃっていいんですか?」

「はい、まだ予備はあるので!」


 命を救われたのに、さらに予備のカメラまでくれるなんて……

 ここまで強く優しい探索者にはあったことがない。


 いい人だなぁ


 そして私はそのカメラを受け取り、お礼を……


「ありが――――」

「それでは、俺は急いでいるのでこの辺で!」

「あっ、ちょ!」


 言おうとした時、何かに急かされるように彼はダンジョンの奥へ走り去ってしまった。


 呼び止めようとしたが、その時にはすでに声が届かない所まで行ってしまった。追いかけようと思ったがとても追いつけるとは思えない……


 さっきの実力と言い、やはり彼はS級探索者に違いない。

 このお礼は協会に戻った時にまたしよう……

 

 そうして落ち着いた私は今も心配しているだろう視聴者に生き残ったことを伝えるため、白鷺さんからもらったカメラを確認して配信再開の準備をする。


 一応バッグにスマホはある。だから配信は問題なくできるはずね……


 そうしてスマホとカメラの同機を確認している時、彼の発言の中に引っかかる点があったことを思い出す。


 そういえば彼、ヤツを《《初めて見たとき》》と言っていた。

 あのドラゴンは私、それと配信を視聴していた10万人の視聴者の誰も知らなかった……つまりはおそらくS級ダンジョンの、しかもその中でも強力な部類のモンスターなのかもしれない。


 そんな奴に対して初めて見たとき……?


 情報がないということは誰も知らないということ。

 ヤツと対峙したことがある人が全員命を落としたのか、それとも本当に誰も対峙していないのかはわからない。


 が、そんなヤツのことをまるで昔のことを思い出すかのような言い回しだ。彼は一度、もしかしたらそれ以上にヤツと対峙したことがあるということ。しかも彼はヤツをトカゲと言っていた。


……考えれば考えるほど不思議な人だ。

 

 いや、今はまず心配してくれてる視聴者のことが第一だ。


 そして、



♢♢♢



「あーあー、皆さんさっきぶりです!ハルです!」


〝戻った!!〟

〝ハクちゃん!!!!〟

〝生きてる!!!!〟

〝良かった……良かった……〟

〝推しがいきてたぁぁぁあ!!!〟


 そうして私は一度白鷺白亜さんのことを考えるのをやめ、配信を再開させるのだった。

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