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だ……れ……?

「はぁ......はぁ......はぁ......なんでこんなことに......!」


 私――ハルこと花白琥春はなしろこはるは現在登録者70万人のダンジョン探索配信者である。

 ソロでA級到達という偉業を成し遂げた私の知名度は世に知れ渡り、人気配信者の仲間入りを果たした。

 そんな私は今日もB級ダンジョンで雑談兼探索配信をしていた。が、そんなときに事件は起こったのだ。



―――GYAAAAAAA!!


 ヤツの方向が薄暗いダンジョンの洞窟に響き渡る。どんだけ走ってもヤツとの距離が広がる気がしない。ヤツと遭遇してまだ5分ほどしか経っていないのが信じられないほど時間がゆっくりに感じる。

 湧き上がる絶望、今の私ではあんなバケモノに勝てるわけがない。


 ヤツの垂れ流している魔力に当たるだけで意識がくらくらする。ただでさえ疲れていたのに、そんな中ヤツが突然現れた。最悪のサプライズである。

 もう持っていた剣は壊れた。足は今にも引きちぎれそうで、視界もぼやけ始めた。


「……ッ!?」

 

 その気配がした瞬間、私は横に飛ぶ。振り返るとそこにはマグマのように溶けた地面が浮き上がっていた。


「なによそれ……反則じゃない……」


 その残骸を見た私は余計にヤツの異次元さを実感する。化け物だ……と。


 刹那、


「しまっ……!」


ドゴォォォォン――――


〝ハルちゃん!!〟

〝大丈夫!?!?〟

〝お願い死なないで!!〟

〝逃げて!!〟

〝協会の探索者が救助にきてくれるって!あと少し耐えて!〟


 間一髪でヤツの打撃に気づいた私は腕を前に出し、防御の構えを取る。が、それでも防ぎ切ることは出来ず、10m先まで吹き飛ばされてしまった。

 

「ケホッケホッ、心配しなくても大丈夫よ……あんなもの、痛くもかゆくもないわ」


 嘘だ。

 

 今の一撃で腕はもう使い物にならなくなってしまった。足ももうとっくに限界を迎えてる。だけど私は私の弱さを視聴者には最期まで見せたくない。これは私のプライドだ。


「クッ、足が……」


 そうして立ち上がろうとしたのだが、足に力が入らない。おそらく本当の限界だ、根性だけじゃどうしようもできないとこまで来てしまったのだ。


「そんな、ここまでなの……?」


〝ハルちゃん逃げて!〟

〝あいつが来てる!!!〟

〝耐えて!〟

〝俺もう無理だ落ちるわ、推しの死ぬとこなんて見たくない〟

〝救助部隊が着くまで逃げてお願い!〟


 ごめんねみんな、もう動けそうにないや


 そう、心の中でここまでついてきてくれた視聴者達に謝る。

 

 魔力が切れたことで追跡カメラの浮遊接続がついに切れて私の近くに落下する。良かった、これなら私が死ぬシーンが映らないだろう。

 

 まさか自分がイレギュラーに遭遇するなんて思ってもいなかった…… 


 "イレギュラー"――本来そこにいるはずのないモンスターが現れることであり、そして現在、ここB級ダンジョンで推定S級越えモンスターのドラゴンが突如現れた。

 

 極稀に起こる事故でこのイレギュラーによって命を落とす探索者は少なからず現れる。ただ今回はそれが私だっただけの話である、これは仕方のないことだ。本当に運が悪かった。


 いつものように配信していつものようにボスを倒して帰るはずだったのに……

 A級の私はB級ダンジョンのボスならたとえソロで話しながらでも危なげなく勝てるが、今回はそうはいかなかった。

 ボスがいつもより強かった。そしてそれをコメント欄でイレギュラーの片鱗と指摘された時にはもう遅く、ボス部屋から出ると同時に突如ヤツが現れたのだ。 

 

 視界が霞む、いつもよりも何倍も速くコメント欄が流れる。人間皆ハプニングが好きな生き物だ、きっと私が死ぬ瞬間をリアルタイムで見ようと集まったのだろう。


 ハハッ……ばぁーか、そんな弱いとこは見せねぇよ……


〝今どうなってるの!?〟

〝スプラッタはよ〟

〝ハルちゃんおねがい死なないで!!〟

〝誰かお願い、ハルちゃんを助けて……〟


 今の一撃で敵を仕留めたと確信したドラゴンがのっしりと目の前までやってきた。そんなドラゴンの顔を見上げるとヤツ笑っていて、まるで餌を取ったと誰かに自慢するかのように咆える。

 そうしてヤツはトドメだと言わんばかりにその爪を振り下ろす。


 その攻撃にスローモーションなって見える。死の瞬間世界がゆっくりになるって本当だったのかぁ、アハハハ、ハ……

 

 あぁ、死にたくないなぁ……


 そんな叶うことのない願いを、弱音を心の中で零す。どんなに強くなったと思ってもやっぱり私は弱虫のままだ……


 ごめん、みんな――――


 今日何度目かもわからない謝罪を皆に告げた私の顔からは涙が垂れ始める。


 そして死を覚悟し、すべてを諦めた私は目を閉じた。


――――


 しかし、いくら待ってもそのドラゴンの攻撃が私に当たることは無かった。


「大丈夫ですか?」

「……へ?」


 刹那、こんなとこにいるわけない人の声が聞こえたことに不思議に思った私は目を開けた。するとそこには、ドラゴンの攻撃を片手で受け止めて振り向き、私に心配そうに声をかける細身の男の人がいるという信じられない光景が映るのだった。

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