ひまわりちゃん
無理だ。いくら私が無事でいられる選択肢だとしても……恩人達との約束を破るなんて、恩を仇で返すなんて非道なことは出来ない。そんなことをするくらいなら死んだ方がマシだ。
だから私は自分を売ることにする。葛林が皆の疑いを晴らしてくれる確証はない。けど、もしかしたら私が葛林に尽くすことで皆が無事でいられる選択肢が生まれるかもしれない……そんなかすかな可能性に賭ける。
「ククク、アハハハハ!そう答えると思っていたよ……いいだろう琥春の大切な事務所は救ってやる」
「あ、ありがとう……ございます」
良かった……これで――
「だがなぁ、ただでは許さねぇ。一度取引を断ったんだ。琥春には二度と俺に逆らえないようにしてやらなければいけないよなぁ!」
「ッ……!」
なるほど……、そういうことね。あの日私が取引を断ることが分かっていたから……だから最初からそう言うって決めてたのね。
あなたが嵌めておいてそれを言うなんて……本当にクズ……
私と最初に取引した時、葛林はわざとああ言ったのだ。そうすれば私が白鷺さんの情報を出さないと分かっていたから……
きっと今までもこうやって生きてきたのだろう。ただ、私一人の命でみんなの疑いが晴れるのならば構わない……それに、私は本当はあの日ドラゴンに殺されていた。
白鷺さんに拾われた命だ。だからどんな酷い目に合うとしても怖くなんてない……少し死ぬのが遅くなっただけ、心が死ぬか体が死ぬか……ただそれだけの違い。
だから、
「私をここで犯すの?好きにすればいい、今更抵抗なんてしない……みんなが無事でいてくれればいいから……」
私はどんな目に合おうとも怖くはない……
「フフフ、潔いな。それでこそ俺の女だ!……だが、俺は酷い男じゃないからな、それはこんな場所ではなく帰ったら二人きりの時にゆっくりと……だ。なぁ琥春よ、これを見たまえ」
なに……?
言われて頭を上げるとそこには葛林ほどの大きさの木箱が突如出てきた。これもおそらく透明化のアイテムによるものだろう。
なぜ急に?それに、この木箱が一体なんだというのだろうか。その中に洗脳魔道具があるとでもいうの……?
そう思考していた次の瞬間その木箱が開き、その中身が映し出される。
が、その中に入っていたのは良くわからない機械なんかじゃなかった。
「ッ!?ひまわりちゃん!!」
そこには傷だらけになって縛られたひまわりちゃんが閉じ込められていた。
「ひまわりちゃんッ!!」
そう叫び、私はひまわりちゃんのそばに駆けよろうとする。
しかし、
「うぐ……っ」
立ち上ろうとした瞬間、控えていた葛林の護衛によって腕を掴まれて地面に抑えつけられてしまう。
突然の出来事で頭が混乱し、反応できなかった。私はこれでもA級トップクラスだ。だからこそわかっていた……葛林の護衛は皆A級クラスだ。
1人だけならなんとかなったかもしれないが、ここには10人いる。葛林の後ろに残っている護衛の魔法で余計に動けなくなってしまった。
「いやッ!離してッ!!」
それに、ここまでの戦闘で私はかなり疲労してしまっている。私がどんなにその腕を振りほどこうとしても抜け出せる気配がしない。もうそこまで力が出ない。
そうか、葛林はこのためにわざわざ60階まで来させたのか……私の体力を削るために。私に目の前で傷だらけのひまわりちゃんを見せるために……
あの日、ひまわりちゃんが心配して私の家に来てくれた日。思えばあの日以降ひまわりちゃんとの連絡が繋がらなかった。……つまり、葛林はその後、ひまわりちゃんが配信を終えた後に襲ったのだ。
もしひまわりちゃんが抵抗したとしても葛林の護衛にはたとえ1対1でも勝てる希望は薄い。そんな護衛が10人もいたなら無力化するくらい苦じゃないはずだ……それなのに、それなのに……こんなに傷だらけになるまで酷い目に合わせたの……?
「ひまわりちゃん!!……離してッ!離してよッ!!」
「ククク、さて、ではこれから琥春の目の前でこのガキを殺すとしようか!君には一生消えない傷を付けるとしよう」
「ッ……!?」
油断していた……私さえ葛林に従えば他の皆に手を出さないと思っていた。
殺す……?心優しく、いつも周りを笑顔にしてくれるひまわりちゃんを……?なんの罪もないひまわりちゃんを……?
助けないと……早く、早くひまわりちゃんの元へ行かなきゃいけない。なのに、葛林の護衛に邪魔されて身動きが取れない……っ
クソッ、クソッ!
「どうして!皆には手を出さないって言ったじゃないッ!」
「あぁ?《《俺は》》手を出してないぜ?それに、これからこのガキに手を出すのも俺じゃあない」
瞬間、
ドゴォォォン――
突如階層が揺れるほどの衝撃が起こり、目の前に突如土煙が立ち上る。
なにかが落下した……?
しばらくすると土煙が晴れて目の前の状況が目に映る。
そこには、
「……は?」
56階見たモンスターであるトロールが2体。
そして、
3日前のあの日、私が死にかけた日……私を殺そうとしたヤツが……あの時のドラゴンが突如現れたのだ。




