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 59階を突破した私は息を整え、その階段を下りる。


「いつ見ても不思議な階層ね……」


 そう呟いて私は60階に繋がる扉を開いた。するとそこにはまるで現実世界に戻ったかのような青空が広がっていた。



 新宿ダンジョン60階は所謂『特殊領域階層』という階層である。


 特殊領域階層――かつてはイレギュラー階層と呼ばれていたほどにそのダンジョンに見合わないような強力なモンスターが出現する階層である。そしてなぜかその階層にだけ自然が存在し、空がありそして天気まで存在する。

 そしてここ新宿ダンジョン60階はどんな場所でも周りを見渡せる砂漠のようなフィールドであり、そこに少しの水、緑、木々が存在している。

 

 普通高難易度ダンジョンの、しかも下層以降にしか現れない存在であり、特殊領域階層が存在するだけでC級ダンジョンがA級まで跳ね上がったこともある。

 

 そしてそんな特殊領域がここ新宿ダンジョンにも存在している。それも難易度B級として。

 元々B級の新宿ダンジョンにそんな特殊領域が、しかも中層にあるのにも関わらず難易度がA級以上に上がらないのは、その階層のボスを"倒す必要がないから"である。

 

 この新宿ダンジョンに特殊領域階層が出現した時、はじめは難易度をS級に変更しようと協議されていた。だが、ある時からモンスターが一匹残らず消えていたのだ。普通誰かが倒したとしても一定の時間が経てばモンスターは復活する。

 しかし、この新宿ダンジョンの特殊領域階層だけはなぜかそれがなく、モンスターは1度だけしか現れなかったのである。


♢


「……よし」


 そして私はいつものようにダンジョンを突き進む。


 この階層を通るといつも不思議な感覚になる。

 夜なのにこのダンジョンの空はいつまでも明るい。それに砂や岩、少しの緑と私の住む日本では見ない景色が広がっている。

 そんなところに来るとまるで自分が別の世界にやってきてしまったような気持ちになる。

 

 砂埃が混じった風が吹き通り、私の髪をかき上げる。肌や服に砂が張り付くが、今はそんなことを気にしている余裕はない。

 私はただその魔力のする方向へ走る。



 そうして私はその男の前にたどり着いた。

 そこでは葛林が丁度いい大きさの岩に座って私を待っていた。ダンジョンという危険と隣り合わせの場所に黒と赤のスーツ、そして指輪やネックレスを何個も付けているのを見るに、最初から最後まで護衛に守られてここまでたどり着いたのだろう。

 

「来ると思っていたよ、ふふふ、どうだい今の気持ちは?」

「…………」

「ククク、一人でここまで来たのは誉めてやろう。あぁ一つ言っておくぞ、この階層にはあらかじめ細工をしている。支部長室と同じように録音機などの機会は使えないぞ?」

「……それくらいは予想してるわ、わざわざ誰も入れないように新宿ダンジョンを封鎖するなんて流石に怪しいもの」

「あぁ、ありがたいことに先日イレギュラーが生じるという封鎖する口実が出来たから楽だったよ」

「…………」


 そう、この男が黒い噂はあってもその確証までには至らずに今まで支部長の地位に居続けられることが出来ているのは"証拠を取らせない"からである。

 新宿ダンジョンのダンジョン協会には支部長室周辺に、そして今の状況のように彼が取引などをする場合は外部に情報が漏れないようにという口実の元、録音や録画機器の阻害アイテムが使用されている。

 ほかにも彼はどこで手に入れたかもわからないようなダンジョン産アイテムをいくつも持っている。……が、それもどうせ親の金と地位を利用して手に入れたのだろう。


 それに、


「……あなたたちは隠れているつもりなの?」


 私がそう言った瞬間、彼の後ろに突如10人護衛が現れた。いや、魔力を隠していなかったということは透明化していたのだろう。そしておそらくこの透明化もダンジョン産アイテムによるものだ。

 護衛は全員西洋風の黒色の甲冑を着ており、顔を識別することは出来ない。

 以前一度だけ遠目で見たことあるが、こうして間近で見るとやはり重そうだなとは思う。


「隠していたわけじゃない。俺のような立場になると念のためにボディガードが必要になってくるものなのさ」

「別にここであなたに危害を加えようなんて思ってないわよ……」

「そうかそうか、それを聞けて安心したよ。つまりは琥春の答えは決まっているってことであってるか?」

「……えぇ」


 そう、私はここに皆の疑いを晴らしてもらうためにやってきた。

 正直葛林が取引の約束を守るかどうかは私にはわからない。ただ、ここで白鷺さんの情報を渡してしまえば私含め桜花の城の皆の疑いが晴れる可能性が上がる。


 それにもし葛林が白鷺さんの情報を手に入れ、襲いに向かったとしたとしても触れることすら出来ずに返り討ちにあるだろう。それはもし葛林がS級を連れて行っても……だ。

 そうすれば私は無事でいられるかもしれない……白鷺さんの情報を売るだけで――……


 だから


 だから、


 そして私は地面にひざまずき、両手を前について額を地面につける。


「お願いします……私は今からあなたの女になります。なのでどうか……どうか桜花の城の皆に危害を加えるのは辞めてください……」


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