真実
「どう……いう」
「はは、アハハハハ!いい表情をするじゃないか!そうだ、これは正真正銘お前を殺そうとした諸悪の根源であるドラゴンだ」
「なんで……なんであの時のS級のドラゴンがいるのよッ!!」
あの日のドラゴンと同じなはずがない。だってあのドラゴンは白鷺さんが倒してくれたから……だとすれば、同じ種族の別のドラゴンということになる。だけど、そんなこと聞いたことがない。
イレギュラーによってそこにいるはずのないモンスターが現れるならわかる。ただ、そのイレギュラーが連続で、しかも全く同じモンスターが現れるなんて聞いたことがない……
それに、
「ッ!?魔力が……感じられ……ない……?」
どんなに弱いモンスターにも必ず存在する魔力が目の前のドラゴンやトロールからは一切感じられなかったのだ。
「アハハハ!答え合わせをしようじゃないか!」
「どう……いう」
「君が最初に出会ったドラゴン……あれは俺が《《隷属させた》》モンスターだったのだよ」
「ッ!?」
「琥春が配信している時、大勢の視聴者が見ている時に、ドラゴンをイレギュラーに見せかけて襲わせた。そして瀕死にしたところで自爆し、まるで『ダンジョン配信者ハルがギリギリの力を振り絞って倒した』ように見せかけるつもりだったのだよ!……まぁ、変な男に邪魔されてドラゴンの素材もろとも消滅してしまったのは想定外ではあったが、それでもカメラが壊れたのは幸いだったよ!そうなれば君は人々に賞賛されるはずだからな!」
「そういう……ッ」
そうか、この男は本当に最初から私を貶めるつもりだったのだ。もし私がS級並みのドラゴンを瀕死の状況で倒したとなれば人々に賞賛されるだろう。そして、同時にある疑惑が上がるはずだ……『そんなことはあり得るのか?』と。
S級昇格条件は協会本部からの試練の他に『現存するS級探索者5名に認められる必要がある』
そしてS級が配信を通して私が"疲弊した状況でS級モンスターに勝った"と知れば私の実力を認めざるを得ない。
私たちの事務所は『可愛くて強い』が売りだ。女性所帯なのにS級がいて、そしてA級もいる。そして次のS級は私では?と言われていた。
だからこそ自然と注目が私に集まる。
だが、もしもその流れが全て自作自演だと発覚したらどうなる?私をS級に上げるために日本中の人間を騙したと分かったらどうなる?
「アメリカのギャングから取り寄せた禁忌アイテムでね、S級以下であればどんなモンスターであっても隷属させられる代物なのだよ。これを使えばモンスターの魔力の流れを自由に操作できるからね……それこそ、ドラゴンの情報を偽造することなんて他愛もないことだ」
そう、その後ドラゴンが偽物だったと協会が発表してしまえばその疑惑は確信へと至る。
モンスターを倒した後、ドロップ報酬を換金所で解析、換金することで、そのモンスター素材の強さに応じて金へと交換することが出来る。そして、その強さを決めているのが『内蔵魔力量』だ。
内蔵魔力量とはその名の通りその素材がどれだけの魔力を内蔵できるかの指標になる値を目視可したものある。その素材を加工することで探索者の防具や武器など、様々なアイテムへと変貌するのだ。
そして、内蔵魔力量はそのモンスターの純粋な強さを表す。
つまりは、もし私が換金した素材がS級どころかC級にも満たないなんてことがあればもう疑惑が晴れることなんてない。
「……どうして」
「あ?」
「どうしてそこまでして私たちを貶めようとしたのッ?」
「あぁ簡単な話だ。ただ、お前が俺の物にならずにゴミみたいな事務所に取られたのがムカついたから、それだけのことだよ」
は?ただムカついただけ……?
それだけの……それだけの為に無関係な皆を酷い目に合わせたの……?今まで代表が、事務所の皆が必死に努力して積み上げてきたものを、たったそれだけの理由で?
……ただ、ムカついたというだけの理由で――
「ッ!き、貴様ァァ……ッ!!あ、がッ」
「茂雄様に向かってなんて口の利き方だ……これは仕置きが必要そうだな」
許さないッ!許さない許さない許さないッ!!
残りの力を振り絞って抜け出そうとしたが、目の前の護衛に顔を殴られて無力化されてしまった。
「そうだな、俺の女になるという女が俺に向かって貴様なんて、確かに口のききかたがなってないなぁ……よしお前ら、やれ」
「はっ!」
葛林が指示した次の瞬間、私は両腕を掴まれる。そしてそのまま無理やり立たされ、他の護衛によって腹や顔を何度も殴られる。
「うぐっ、あ、がッ……」
もう防御魔法を使う魔力すら残っていない。視界がかすれてきた……気づけばひまわりちゃんの顔すらよく見えなくなってきた。
あんなに近くにひまわりちゃんがいるのに、目の前でひまわりちゃんがこんなに傷だらけになっているのに……っ
「まずはトロールにこのガキを犯させるとしようか、そしてボロボロにした後フフフ、目の前で大切な仲間がモンスターに犯させるのはどんな気分だ?ただ、こいつらにボコボコにされ過ぎて全然目を覚まさないから悲鳴を聞くことが出来ないのが残念だがな」
「く……そ……ッ」
私は何も出来ない……目の前で傷だらけになったひまわりちゃんがトロールに嬲られるのをただ見ていることしかできない……ッ。
――動け、動け動け動け動け動け……動いてよ体ッ!
どんだけ動こうとしても何もできない……っ。私はただ、見ていることしかできない……
ひまわりちゃんごめん……っ
私のせいで、私が弱いせいで……私が馬鹿なせいで……っ
自分の情けなさに涙が溢れ出る。
ごめんなさい――
ごめんなさい、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい……私のせいで、私のせいで……本当にごめんなさい――
お願いします、誰か、誰かお願いしますッ、ひまわりちゃんだけは助けて下さい……っ!
どうしようもない絶望的な状況で私に出来るのは、来るはずもない誰かに助けを求めることだけだった。
本当に情けない。皆の場所どころか、たった一人の友達すら守れない。守るどころか……こんなの、私が殺したようなものではないか……
お願い……誰か……ッ
そして、一体のトロールがひまわりちゃんに手を伸ばした……
次の瞬間。
ドパァァァン――
「……は?」
突如ドラゴンが爆発して、血しぶきが雨のように舞う。
そして、
「……のうおぬし、その矮小な魔力を一体誰に向けているのかわかっておるのか?」
聞き覚えのある、そして……どこか安心する――そんな声が聞こえるのだった。




