6.婚約者との交流関係の差
婚約者と夜会に参加することになった話です。
婚約者として再び会う予定を立てたリンカとウィラード。話し合いの末、前にリンカがウィラードに来なくても良いと言った夜会に2人で参加する事になった。
「リンカ、とても似合っているよ。」
「…有難うございます。」
ウィラードが笑顔でリンカのドレス姿を褒めると、リンカは照れた様子を見せる事なくお礼を言った。
「…それじゃあ、行こうか。」
「えぇ。」
リンカはウィラードから差し出された手を取り、会場に入った。
「…あら、ノアール子爵令嬢とシアン子爵令息が一緒だわ。」
「本当だ…。」
「珍しいわね。」
態となのか、それとも聞かれても問題ないと思っているのか、リンカとウィラードを見た者達からひそひそと話す声が聞こえてきた。
「…。」
リンカがウィラードの横顔を見上げてみると、ウィラードは居心地の悪そうな顔をしている。ウィラードはリンカの視線に気が付いた様子でリンカを見てきた。
「あ、あのさリンカ…。」
「御機嫌よう、リンカ!」
ウィラードがリンカに何かを言おうとしたその時、リンカを呼ぶ声が響いた。
「あらアイリス、御機嫌よう。」
「ふふっ、…シアン子爵令息も、御機嫌よう。」
アイリス・リプリー子爵令嬢はリンカの友人だ。声のトーンも仕草もリンカへの親しみ故にフランクなモノになっていた。しかしウィラードへの挨拶は貴族令嬢に相応しい、礼儀正しいモノに切り替わった。
「…御機嫌よう、リプリー子爵令嬢。」
ウィラードも挨拶をすると、アイリスはリンカに視線を向けた。
「リンカのドレス、とても似合っているわ!」
「ふふっ、有難う。アイリスも素敵だわ。」
ウィラードが褒めた時とは違い、リンカは嬉しそうに表情を柔らかくして笑みを浮かべた。アイリスも褒められて嬉しそうにリンカを見て見ている。
「ねぇリンカ、この夜会が終わったらまたお出掛けの予定を立てましょう? この前の舞台、とても楽しかったから今度は別の舞台を観に行かない?」
「っ!」
アイリスの言葉にウィラードがピクッと肩を揺らす。舞台というのは、リンカとウィラードが一緒に見る予定だったあの舞台の事だと察したようだ。
「えぇ、勿論。楽しみにしているわ。」
「やったわ!」
「…アイリスすまない、遅れてしまって!」
仲睦まじく話すリンカとアイリスの下に、声を出しながら駆け足で近寄ってくる令息がいた。
「ジェルミ様!」
「御機嫌よう、サガータ伯爵令息。」
アイリスが嬉しそうな声を出し、アイリスはドレスの裾を持ちながら頭を下げて挨拶をした。
「伯爵…?」
ウィラードが小さな声で呟くと、その声を聞いたジェルミがウィラードを見た。
「貴方がウィラード・シアン子爵令息ですか。」
「えっ、あ、はい! 初めまして。」
ウィラードが少し慌てた様子で子爵の自分よりも格上の伯爵に挨拶をする。
「僕はジェルミ・サガータ。アイリスの婚約者です。アイリスの親友であるノアール子爵令嬢ともそれなりの付き合いがあります。」
ジェルミはにこやかな笑みをウィラードに向ける。
ジェルミ・サガータ伯爵令息はリンカとウィラードが婚約者になってから数日後に、アイリスと婚約者になった。ジェルミは友人の婚約者であり、リンカにとっては友人と言えるほどの関係ではない。だがジェルミはリンカを見かければ友好的な態度で挨拶をしてくれるし、リンカもジェルミの人柄に好感を抱いている。
「そ、そうですか。」
ウィラードはぎこちない様子を見せながらもジェルミに失礼がないように笑みを作った。
「ジェルミ様、リンカのドレス姿とても似合ってますよね?」
「ちょっと、アイリス…。」
アイリスがまるでリンカの事を褒めろとばかりにジェルミに話を振るので、リンカは困ったように声を出した。
「あははっ、うん。とてもお似合いですよ、ノアール令嬢。」
「…有難うございます。」
リンカが催促した訳ではないのだが、申し訳無さと居た堪れない気持ちになり、ぎこちなく微笑みながらお礼を言った。ジェルミはリンカの心情を察しているかのような様子を見せつつも好意的な笑みを浮かべている。
「ふふっ、そう言えばこの前…」
アイリスが楽しそうに話し、リンカとジェルミが耳を傾ける。話をしているうちにリンカ達の友人や知人が話し掛けてきて談笑の輪が広がっていった。
これは珍しい事ではない。リンカが集まりに参加すればアイリスを始め、リンカの友人や知人が話し掛けてきてくれた。リンカが婚約者を連れていない事で好奇の目に晒されてもあまり気にしなかったのは、リンカの性格だけではなくて周りにリンカの味方をしてくれる存在が居てくれた事が大きい。
「――と、いう事だったんですよ!」
面白可笑しく話される内容に、周りは笑い声を上げる。
「ふふっ。」
リンカも取り繕う事なく笑った。
◇◆◇
「…シアン子爵令息、話に参加されていませんね。」
「っ!」
リンカが楽しそうに周りと談笑する中、ただ1人参加せず…いや、参加出来ずに佇んでいたウィラードの耳に、リンカ達ではない誰かの声が聞こえてきた。
「…あの中にシアン子爵令息の友人はいないのか?」
「誰も話し掛けておりませんね…。」
「…っ。」
ウィラードは声のする方向に顔を向ける勇気が持てず、目線はリンカ達に固定したままだ。だが耳は、意識はウィラードの話をする声に持っていかれていた。
「これでは、お一人で出席されていた時と何も変わりませんね?」
「〜っ!」
…その“お一人”が、誰の事を言っているかなんて嫌でも分かってしまった。ウィラードは怒り、恥ずかしさ、悲しみが入り混じったような気持ちに支配されて下唇を噛んだ。
「ノアール子爵令嬢もそう思いませんか?」
「ええ、そう思います。」
ウィラードの様子に気が付かないリンカは、微笑みを浮かべて相槌を打っている。ウィラードと一緒に居る時には、そんな楽しそうな表情をした事なんて無かったというのに…。
「…やはりノアール子爵令嬢は、シアン子爵令息に愛想を尽かしたのではないかしら?」
「っ…。」
もう声を聞きたくない。そう思うのにウィラードの耳に入ってきてしまう。この場から離れれば声は聞こえなくなるだろうがその後に何を言われるのかと考えると離れられない。
リンカと一緒ならそんな事を気にしなくても良いのだろうが、リンカは暫くこの場から離れるつもりなんて無いのだろう…。
「…。」
リンカにアイリスのような仲の良い友人が何人か居る事はウィラードも知っていた。けれどアイリスの婚約者であるジェルミやその他のとの繋がりをウィラードは知らなかった。ウィラードと婚約者になる前からの繋がりなのか、ウィラードが居ない時に出来た繋がりなのかも分からない…。
「…リンカ。」
思わず小さな声でリンカの名前を呟いてしまう。婚約者の交流関係を理解していない現状。そして周りに囲まれているリンカと誰も居ないウィラードとの差に、ウィラードの心に情けなさと悲しみが襲ってきた。
「…。」
「…っ!?」
リンカを見ていたウィラードは、リンカの傍に居たアイリスと目が合う。にこやかに笑っていたアイリスの表情が一瞬無表情になり、ウィラードを冷たく見てきた。それは本当に一瞬の事で、すぐにアイリスは笑顔を作りリンカに話し掛ける。
「っ…。」
ウィラードは挨拶をした時から、アイリスのウィラードに対する思いが決して良いものでないとうっすらと気が付いてはいた。けれど勘違いであって欲しいと思い、ウィラードは気にしないふりをしていた。それにこれからウィラードはリンカと過ごしていくのだからすぐに挽回出来ると自分に言い聞かせてもいた。
だが、今はそれがどれだけ楽観的な考えだったのかを思い知らされた。アイリスだけじゃなく、きっとリンカと仲の良い人達はウィラードを快く思っていない。誰も味方が居ないこの状況で、敵意を持たれる事にウィラードはショックを受けてしまう。
「ふふっ…。」
ウィラードの苦悩に気付かぬまま、相変わらずリンカは楽しそうに笑っている。ウィラードはそんなリンカを、何とも言えない表情で見つめる事しか出来なかった…。
コミュ障な婚約者のお話でした。そして悪口聞こえすぎですよね 笑 周りは全く隠す気ないですよね。それともウィラードが地獄耳過ぎたのか…。
更新が遅い中待ってくださる皆様、本当に有難うございます! これからもどうぞよろしくお願いします。




