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今後の予定は無しにして下さい(連載版)  作者: 徒然草


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34/36

34.平民となった元婚約者の受難 1

 平民となったウィラードが領地で生活する話です。続きます。


「…いよいよだ。」


 遂にウィラードが心待ちにしていた、領地に行く日が訪れた。シアン子爵家から解き放たれ、ラリーを苦しめる日々を過ごせるのだと口元に笑みが浮かんだ。


「…ウィラード、行くぞ。」


「…。」


 ウィラードの父であるドラートと、母であるルリーナが部屋までやって来た。もう除籍の手続きは終わっており、ウィラードは現時点で既に平民となっていた。それでもウィラードが勝手な行動をしないように、ホワイト男爵家まではドラート達が送り届ける事になっていた。


「ええ、宜しくお願い致しますね。シアン子爵、子爵夫人?」


「っ…!」


「…。」


 ウィラードはもう、ドラート達の息子ではない。態とらしい呼び方をすればドラートは不機嫌そうに眉を顰め、ルリーナは悲しそうに俯いてしまった。ウィラードは嫌味な笑みを浮かべた。



◇◆◇



「…それでは、宜しく頼む。」


「はい…。」


 ホワイト男爵家に到着すると、ラリーとラリーの父であるアレン・ホワイト男爵がウィラード達を出迎えた。ドラートとアレンは互いに固い表情をしながら挨拶をした。


「っ!」


 ラリーはウィラードと目が合うと、怯えた様子で顔を背けた。ウィラードの顔を見ただけでこんなに怯えてくれるなら、ウィラードがラリーへの恨みを吐き出し、追い詰めればどんな反応を見せてくれるだろうかと期待に胸が膨らんでいく。


「ウィラード君。」


 これからが愉しみだと期待しているウィラードに、アレンがラリーより一歩前に出て話しかけてきた。


「君はもう平民だが、ラリーはまだホワイト男爵令嬢のままだ。領地に行っても私の娘であるという事実は変わらない。」


「…。」


 ウィラードは無表情でアレンを見た。ラリーに何かしたら貴族として介入するぞ、という脅しをかけてきたのだろうと察した。ウィラードの人生を滅茶苦茶にした加害者(ラリー)の父親の癖に何様だと思い、憎らしくなる。けれど、


「…はい、態々言われなくても理解しておりますとも。そして何れは僕と同じ平民になる事も、ね。」


「…。」


 言われっぱなしのままでいるつもりはウィラードには無かった。暫くはホワイト男爵家がラリーの力になるとしても、それが無くなる事は決まっている。ウィラードの言い返しに何も言えないのか、アレンは黙り込んでしまった。


「どうぞ、末永く宜しくお願い致しますね。」

 

 ウィラードは何も言わないアレンを小気味良く思いながら、笑みを浮かべだ。


「…ラリー、宜しくね。」


「っ…。」


 表面上でも、ウィラードはラリーを目上の者として呼びたくなくて、今まで通りの呼び方で呼んだ。ラリーは気不味そうにウィラードを見るだけで何も言ってこない。アレンも、そして傍観しているドラートとルリーナもウィラードを咎めない。

 

 当たり前だとウィラードは思う。ウィラードはラリーに陥れられた被害者なのだから、呼び方程度の事で咎める権利は誰にもない。ラリーが貴族のままでも苦しめる方法はきっとある。ウィラードはそう思い直した。




◆◇◆



 ウィラードはラリーとは別のホワイト男爵家の馬車に乗せられ、領地に到着した。到着後、ラリーが乗る馬車はまだ出入り口が閉まったまま停車し、ウィラードは先に降りるように言われた。ウィラードの荷物はホワイト男爵家の使用人が運んで行き、ウィラードは領地の住人である中年の男に着いて行くように言われた。ウィラードの姿が遠くなっても、ラリーはまだ降りてこなかった。


「それでは早速、仕事をして下さい。」


「…は? 今から僕に畑仕事をやれというのか!? 僕はついさっき此処に来たばかりなんだぞ!」


 案内されたのは広大な農地だった。まだ領地に到着したばかりで碌な案内もされていないのに、いきなり仕事をしろと言われたウィラードは納得が出来なかった。お世辞にもおしゃれとは到底言えない農作業の為の作業着と帽子、鍬を渡されてウィラードは渋い顔をした。


「今の時間は皆忙しいのです。案内はまたしますので、先ずは畑を耕す事から覚えて下さい。飲み水は用意してありますから小まめに水分補給をして下さいね。」


「っ…何だその態度はっ?!」


 ウィラードの訴えに聞く耳を持とうとせず、舐めた態度を取られたとしか思えない男の言動に、ウィラードは我慢出来ずに怒鳴った。


「男爵様からはラリーお嬢様が平民となるまでは、お嬢様の療養の為に此処まで着いてきた事になっているウィラードに最低限の生活を保障する事になったと承っております。」


「なっ…!」


 男に“ウィラード”と呼び捨てにされた事が気に入らない。しかしすぐに自分が平民になった事を思い出して口を噤む。


 ウィラードは領地で寝泊まりする場所を用意され、3食の食事を用意するという最低限度の生活環境はウィラードが働かなくても保障するとアレンから約束されていた。


「ですが、仕事をしなければ給料はありません。一文無しのままでいるのは不安ではありませんか?」


「それは…。」


 だが今のウィラードは一文無しだった。自分の資金が無いという状況に何も思わないと言えば嘘になる。とはいえ、アレンに必要最低限の生活の保障がされている以上、今すぐ働く必要なんてないではないかと思ってしまう。


「それにラリーお嬢様が平民となれば保障はなくなります。それが何時になるかも分からないのに、悠長に構えていて良いのですか?」


「っ…。」


 ラリーが平民となれば、今後の生活はウィラードの資金でやりくりしていかなくてはならない。少しでも多く働いて稼いだ方が良いのではないか、という男の意見に憎たらしくなるも、一理あると思ってしまった。


「ちっ…。」


 舌打ちをしたウィラードは鍬を乱暴に掴むと、荒れた農地に鍬を振り下ろした。


「ウィラード、ちゃんと着替えて帽子を被って下さい。」


「五月蝿い、今から働くだなんて言っていない。今日はやり方を教えて貰うだけだ。」


「…分かりました。」


 男に言われるがままに働く事が気に入らないウィラードはそう言った。ウィラードの態度に何とも言えない表情をしながらも、男はウィラードに鍬の持ち方や耕し方の説明を始めた。ウィラードに労働を強制するつもりは無いようだ。


 ほんの数分、やり方を聞いて鍬を振り下ろしたウィラードは見学すると言って鍬を手放した。男はその後、ウィラードの様子を気にしつつも農地を耕し続けた。慣れた手つきで耕していく男の作業を見ると簡単そうに見える。


「…。」


 だが実際はそうはいかない事を、先程鍬を握った事でウィラードは察した。これから先、こんな仕事をしなくてはならないと思うとウィラードは億劫な気持ちになった。


「…何だ、この食事は。質素すぎるんじゃないか?」


 昼食の時間になると、男の妻がウィラードの食事を用意をした。ウィラードは昼食を一目見ただけで顔を顰めて愚痴を溢した。用意されたのはパンと肉が入ったスープ、サラダと牛乳だった。シアン子爵令息として過ごしてきたウィラードからすれば、全体的に質素でパッとしない見栄えの料理だった。


「平民の中では豪華な方だと思いますよ。農地で採れた野菜の中で、見栄えが悪く販売出来ない物を使っております。ですが、どれも新鮮な物ばかりです。」


「そんな物を食べろと?」


 男の妻としては、新鮮な野菜を使っている事を良い意味でアピールしたつもりのようだが、販売出来ないような見栄えの悪い野菜を使用しているという言葉に、ウィラードは不快な気持ちになった。


「嫌なら下げますが、他の用意はありませんよ?」


「…。」


 ウィラードは空腹だった。このまま何も食べないのはマズいと思い、サラダ以外の品を口に入れた。


「……。」


 パンはシアン子爵家で食べていた物に比べて固い。スープの味はコクが感じられずあっさりとし過ぎている。肉も柔らかくない。牛乳が1番マシではあったが、子爵家で飲んでいた物より味の質は下だった。


「…この料理は僕への嫌がらせなのか?」


「私達の普段の食事ですよ。」


 ウィラードが女を睨みつけると、ウィラードと同じ昼食を食べている男が口を挟んだ。


「我々平民は、このような食事を食べて生活しています。ウィラードは不満を感じているみたいですが、妻が言ったようにこれでも豪華な方なんですよ。一般的な家庭ではもっと固いパンを食べておりますし、こんなに野菜を食べられません。牛乳だって時々飲める飲料として扱われ、私達のように毎日飲む事なんて出来ませんよ。」


「っ…嘘だろう?」


 男の言葉が信じられなくて、ウィラードは絶句してしまう。


「貴族であれば豪華な食材と調味料を使った格別な料理が当たり前だったのでしょう。しかし、平民とはこんなものですよ。」


「い、いやしかし、調理方法を工夫したらもっと美味しく出来るのではないか?」


 食材の品質が悪くても、今よりもっと美味しくする事は出来るのではないかとウィラードは口を出した。


「私が料理下手だと言いたいのですか?」


 ウィラードの言葉に、女は不機嫌そうな顔をした。


「確かにお貴族様専用のシェフには到底叶わないでしょうね。それに飲食店を開く料理人も居ります。プロの方達は私なんかよりも上手に作るでしょうね。でもプロに作って貰うにはお金がかかります。それを毎日、毎食作って貰う為のお金なんて用意出来る筈はありません。」


「それは…。」


「料理下手で悪かったわね…。」


 女はウィラードを睨みつける。ウィラードは気不味くなってしまった。


「私は君の料理がこの世で1番だと思っているよ。スープのお代わりを貰っていいかな?」


「あら…ふふっ、勿論よ。」


 男は心の底からそう思っているのか、それとも妻の機嫌を取る為の嘘なのかはウィラードには分からない。しかし夫である男の言葉に女は機嫌を良くして微笑みながら男の皿にスープを盛り付けた。


「…。」


 ウィラードはまだ空腹を感じながらも、目の前の食事に中々手を伸ばす事が出来なかった。

 

 

 初めての田舎、平民暮らしにウィラード君は慣れるでしょうか。そしてラリーを苦しめる事が出来るのでしょうか。というお話でした。領地の男である妻の料理は普通に美味しい設定です。決してメシマズではありません。平民の食事の基準は適当に決めましたのでツッコミどころもあったと思いますがご了承下さい。


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― 新着の感想 ―
ウィラードやっぱり口先だけの覚悟でしたね。 それにしても、いくら平民になったと言っても元貴族って分かってるのに平気で呼び捨てにしてる農民夫婦結構度胸ある気がする……。
元両親のシアン子爵家と、ラリーのホワイト男爵家という「貴族」に対して、嫌味言って許された成功体験が、後に自分の首を絞める事になりそう。というかなれ。
平民になったって嫌味たらしく言っていたけど、まだ貴族に何かしたらヤバそう、ウィラードまだへこみが足りない感じ嫌がらせ狙っている場合じゃない。
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