26.身勝手な行動をした結果 4
話し合い最後の回となります。
「…。」
自分がリンカを尊重しなかった事を自覚したのか、リンカから拒絶されてショックを受けているだけなのかはリンカには分からない。ウィラードはただ呆然と座り込んだまま何も言わなくなってしまった。
「…ウィラード、今回の決定は貴方自身の為にもなると思いますよ?」
「…?」
ウィラードは呆然としたまま顔を上げてリンカを見る。何を言っているんだ、と訳が分からない様子だ。
「貴方は周囲からの目線、評判に耐えられなかった。だからホワイト男爵令嬢を陥れて、自分の評判をすぐにでも回復させようとした。」
ウィラードが何を言われても我慢し、節度ある常識的な行動を取り続けていれば悪評は薄まり、社交場で態々噂をされる事はなくなっていた筈だが、それが何ヶ月後、何年後になるかは分からない。ウィラードはそれに耐えらなかった。
「このまま貴族として過ごし続ける限り、貴方は悪評に晒され続けますよ。それに今回の件も加われば今まで以上に非難を向けられる事になります。」
「だけど、それは…。」
「誰が悪いかなんて関係ありません。」
それはラリーのせいだ、とウィラードは言い返したいのだろうと察したリンカは言葉を遮る。
「社交場では真実ではなくても相手を陥れる話で盛り上がるものです。」
相手を蹴落とし、自分の家の利益を得る為なのか、面白可笑しく盛り上がる為なのかは状況に寄るだろう。だからこそ、意図はなくても誤解を招くような真似は避けるべきだった。
「…仮に、今回の件を秘密にして無かった事にしたとしましょう。」
絶対にあり得ない事を、あってはならない事を例え話のために無かった事にする。
「ホワイト男爵令嬢は元々、シアン子爵との約束で社交場から追放される事は決まっておりました。ウィラードの傍から彼女は居なくなります。そしてウィラードは私の婚約者として社交場に出席されるでしょう。」
「…。」
「今まで通りの悪評に晒され続けるのですよ。」
「そ、れは…っ。」
ウィラードは苦悩の表情を浮かべる。
「そして私は、今まで貴方が私を蔑ろにして自分と幼馴染を優先してきたように、私も貴方を蔑ろにして他の人を優先していきます。」
「リンカ…。」
ウィラードは悲しげに表情を歪める。
「周囲からの悪評、婚約者との信頼はない。貴方の味方はいない状況になります…それでも残りたいのですか?」
味方、というのはラリーの事を指した。ウィラードをこの状況に陥れる事になった原因だが、ウィラードと仲が良いと言える唯一の存在だった筈だ。父親であるドラートは問題を起こし続けたウィラードを労る事はないだろう。つまりラリーが居なくなる以上、ウィラードは精神的に孤立する事になる。
「……。」
リンカに言われた事を想像したウィラードは、唇を噛み締めて俯く。それでも除籍されたくない、追放されるのは嫌だとは言い返してこない。
「…でも、ラリーと共に追放されるなんて納得出来ない。」
俯きながらも、ウィラードはそう言った。憎らしい幼馴染が一緒である事が赦せないようだ。
「貴方が貴族を辞める理由として、幼馴染の為だと言うのが妥当だからですよ。」
「っ、けど、それじゃあまるで僕がラリーの事を好きみたいじゃないかっ!」
ウィラードは立ち上がり、ラリーを睨みつけた。
「冗談じゃない、こんな嘘つき女っ!!」
「っ…。」
ラリーは言葉を詰まらせ、気不味そうな様子でウィラードを見返した。
「仕方がありませんよ。今はどうであれ、真実を知る前は好きだったのでしょう?」
「っ、僕はラリーの事は幼馴染としての感情しか無かったよ!」
リンカの指摘にウィラードは一瞬言葉を詰まらせるが、恋愛対象だと思った事はないと反論してきた。
「恋愛的な意味だろうが、幼馴染としての親愛だろうがどちらでも良いです。好きだった事は間違い無いでしょう?」
「それはっ…。」
次のリンカの言葉には言い返せず、ウィラードは悔しそうな顔をする。
「何度も言いますが、ウィラードは婚約者の私を尊重した事なんて一度も無かったです。他の人に対してはどうだったのかは分かりませんが、私から見た貴方は自分さえ良ければそれで良いという振る舞いが目立ちました。」
「っ!」
またしてもウィラードの表情は歪む。自分がやりたい事をしたい、自分の思いを尊重して欲しい。そんな事を思うのはおかしな事ではない。けれど相手との良好な関係を築きたいなら、自分の本心を飲み込んで我慢する事も必要だとリンカは思っている。リンカにとってのウィラードは、あまりにも幼稚で身勝手すぎた。
「けれど、貴方は幼馴染であるホワイト男爵令嬢の事だけは尊重しているように見えました。それは私だけでなく、誰もが納得する事実です。」
「っ…。」
ウィラードは固まってしまう。今更言うのも何だが、大事なのはウィラードの意思ではなく周囲を納得させられる理由が何であるかだ。そして、この理由を作ったのはウィラードである。
「お父様、ウィラードとホワイト男爵令嬢は共に追放される事にはなりますが、結婚する必要は無いですよね?」
リンカが父であるサーマンに質問すると、サーマンは頷いた。
「あぁ、結婚までする必要はない。2人が近くにいた方がホワイト男爵は監視しやすいだろうが、監視の目が届くのならば距離を置いても構わない。」
表向きは幼馴染を心配したウィラードが一緒に田舎に行く事になった、という理由になる。病弱なラリーを心配しているのだから、すぐにラリーの傍を離れる事は認められない。そしてラリーも体調不良が悪化した事になっているのだから、暫くは療養先の家に籠っていて貰う事になる。
だが暫く過ごし、ラリーの体調が良くなったという事にすれば離れて暮らしても問題はない。平民となった2人で結婚しようが、他に伴侶を得て過ごそうがノアール子爵家としては制限するつもりはない。ただ今回の件を言い触らしたり、問題行動を起こす事だけは防がなければならないだけだ。
「ホワイト男爵令嬢と仲睦まじくする必要はありません。それに平民に政略結婚なんてありません。ウィラードの望んだ、愛し合う伴侶を得られるかもしれませんよ?」
「…。」
ウィラードはショックを受けた訳でも希望を見出した訳でもない、ただ困惑した顔になった。納得出来てはいないのだろうが、喚く程反対する事ではないと分かったのかもしれない。
「勿論、社交場ではウィラードとホワイト男爵令嬢の関係について暫くの間、噂は出回る事になるでしょう。2人はやっぱり両想いだったのでは? …という内容が殆どでしょうね。」
「…。」
「でも気にしなくて良いと思います。」
ウィラードは嫌そうな顔をすると、リンカはまるでウィラードを安心させるかのように穏やかな声を出した。
「私とは違い、何を言われても社交場に居ない2人の耳には届きません。それに社交界に何の影響も及ぼさないお話なんてすぐに消えますから。」
ウィラードの婚約者であったリンカを馬鹿にするような輩は存在するだろうし、リンカの耳には当然入る。しかしそんな事は今更な話だ。ウィラードと婚約者になってからリンカがウィラード絡みで嫌味を言われない日なんて無かったのだから。
「…リンカは、本当にそれで良いのか?」
ウィラードは確認するように聞いてはいるが、心の底ではリンカが何と答えるのかを予想しつつ、何処か縋るような様子を見せた。
「はい、言いたい人には好きに言わせておけば良いだけですから。それに私には新たな婚約者が出来るでしょうし、そんな事を気にしていられなくなると思います。」
ノアール子爵家の為にリンカは必ず何処かの家に嫁ぐ事になる。この話し合いが終わればサーマンは早速リンカの婚約者を探し始めるだろう。利益の為とはいえ、今回の件で令息に何の問題もないのか念入りに調べてからにして貰いたいとリンカは願う。
「…。」
リンカの答えにウィラードは縋っていた何かが消えて、諦めたような悲しげな顔になったように見えた。
その後、ウィラードは大人しくなり何事もなく解散する事になった。ドラート・シアン子爵、アレン・ホワイト男爵は内心はどうであれ温情を与えたサーマン・ノアール子爵に再度感謝の言葉を述べた。ラリーは俯いたまま何も言わずにホワイト男爵家から去るリンカ達を見つめていた。
リンカがウィラードを黙らせて終わりました。ウィラードがリンカに最後にした質問は、第1話と全く同じです。全員のその後を書いて、余力があれば過去話も書けたらなと思っております。
ここまで読んで頂き有難うございました! もし宜しければ評価して頂けると嬉しいです!




