24.身勝手な行動をした結果 2
前回の続きです
「ほ、本当に、秘密にして頂けるのですか?」
希望を見出したかのような表情でアレン・ホワイト男爵はサーマン・ノアール子爵を見た。
「…今回の件を公表しても、我がノアール子爵家が得する訳では無い。」
シアン子爵家とホワイト男爵家は評判が下がり、各々罪の代償を支払う。だがノアール子爵家には周りから同情される事はあっても何かを得られる訳では無い。
「…では、慰謝料の額の引き上げですか?」
公表しない代わりに慰謝料の額を増やすという事か、とドラートは質問する。
「金は大事ではあるが、金だけで貴殿らを赦す家などと思われたくないな。」
「…失礼しました。では何をすれば良いのですか?」
サーマンは憤っている様子を見せなかったが、ドラートは苦い顔をして謝罪した。サーマンは一瞬、ウィラードを見た後にドラートとアレンを見た。
「一番の要求としては、ホワイト男爵令嬢と共にウィラード子息も社交界から追放する事だ。」
「…へ?」
「っ!?」
サーマンの言葉にウィラードが間抜けな声を出し、ラリーは困惑したような顔になった。
「…ウィラードをラリー嬢と共に、ですか?」
ウィラードの父であるドラートも、何故ラリーと共に追放する事を望むのか意図を理解出来ない様子で聞き返した。
「ホワイト男爵、令嬢は表向きには療養の為に田舎に行く予定であったな?」
「は、はい。」
サーマンがアレンに確認すると、アレンは困惑しながらも頷いた。
「幼馴染である令嬢を心配したウィラード子息は、身分を捨てて令嬢と共に田舎に行く事にした、という事にする。」
サーマンは語り出す。秘密を隠し、この場にいる3家にとって最善となる為の筋書きを。
ラリーの病弱が中々良くならない為、アレンはラリーを田舎に療養させる事に検討し始めた。急を要してはおらず、徐々に準備を始める予定だったので誰にも言っていなかった。しかしここ数日でラリーの体調が急激に悪化してしまう。その為急遽、療養の手配をする事になった。
ウィラードはその事を聞き、ラリーの事が心配で着いて行くと言い出す。ドラートはウィラードが子息としての責任を投げ出す事に当然憤るが、ウィラードは意思を曲げない。ドラートはラリーの元に行くならシアン子爵家から除籍すると宣言する。ウィラードはそれを了承し、シアン子爵家から除籍され勘当される事になる。そしてウィラードはリンカと婚約破棄する事になった。
ウィラードが勝手に決めた事とはいえ、娘の為に除籍されてしまったウィラードに責任と感謝を感じたアレンはラリーの療養先でウィラードの衣食住を保障する事にする。ラリーは療養先で暫く過ごし、体調が改善されていった。しかし社交界への復帰は難しいと判断され、ホワイト男爵家とラリー自身の為にホワイト男爵家から除籍される事になった。
「…という筋書きだ。」
サーマンが話している最中、誰も何も言わなかった。
「…成る程。」
ドラートは納得した様子を見せる。ウィラードがラリーを優先し続けた事実は周りも周知している。身分を捨てるだなんて、常人では選択しない事を決断しても不自然には思われないだろう。
「…えっ、い、いや…ま、待って下さい! 僕が除籍? 追放? 嫌ですよ、どうしてそんな…しかも、ラリーの傍にいる為だなんて絶対にあり得ないっ! 何でですかっ!?」
ウィラードが慌てた様子で喚く。
「幼馴染を優先し続け、婚約者と周囲からの評判が下がった令息が、自身の評判を上げる為に当主に相談もせず、幼馴染を陥れて婚約者を利用しようとしていた。」
「?!」
サーマンの言葉にウィラードは固まる。
「幼馴染を優先し、貴族としての責任、立場、身分を捨ててまで寄り添う事を決めた。どちらの方がマシだと思う?」
「っ!? …そ、それは。」
マシなのはどちらか、それは勿論後者の方だろう。貴族としての責任を放り出す事は褒められた事ではない。しかし身分を捨ててまで幼馴染を、1人の女性を選んだとなれば敬意を抱かざるを得ないと考える者も存在するだろう。少なくとも、非難しか出来ない前者よりも後者の方が遥かにマシだと誰もが思う筈だ。
「い、いやそもそも、僕は除籍なんか…」
「ウィラード子息。」
ウィラードの言葉をサーマンは冷たく遮った。
「文句があるならば後にしてくれ。君とホワイト男爵令嬢にも関係があるから同席して貰っているが、私は両家の当主に話をしているのだ。彼らに要求の内容を説明するのが先だ。」
「ウィラード。」
「っ…。」
サーマンが言い終わった後、ドラートが威圧感のある冷たい声を出した。殴られたショックが影響していたのか、ウィラードはドラートを怯えたように見た後で黙り込んだ。
「…ラリーとウィラード子息の事を公にされるよりは貴族に相応しくない子を持ち、除籍する事にした家だと思われる方がマシなのは同意します。しかし、私とシアン子爵がその案を実行しても、ノアール子爵が事実を公にすれば…私達はさらに追い込まれる事になりますよね?」
非があるのはシアン子爵家とホワイト男爵家でありノアール子爵家の要求を可能な限り飲む必要があるのはアレンも当然理解しているのだろう。しかし言う通りすれば絶対に言わないという保障、アレン達が納得出来る何かがなれば頷く事が出来る筈もない。サーマンもアレンの心情は理解している様子だ。
「ラリー嬢の病弱が悪化した、という噂はリンカに流して貰う。」
サーマンの言葉にリンカは頷いてアレンを見た。
「はい。私の口からホワイト男爵令嬢の体調の事を周りに話します。令嬢の体調が悪化する瞬間に立ち会い、この目で見た事にして周囲に伝えます。」
つまりノアール子爵家がアレン達に協力するという事だ。嘘に加担した後で掌を返すなんて真似をすれば、世間にバレた時にノアール子爵家の品位も下がる事だろう。
「…それは有難い事です。ですが、ノアール子爵の筋書きにする事で子爵はどんな得をされるのですか?」
サーマンを信用する事にした様子のアレンだが、ノアール子爵家が得をする理由が見つからずに質問する。
「ウィラード子息とホワイト男爵令嬢を共に追放するのは一番の要求だ。まだ要求したい事がある。」
サーマンはドラートを見た。
「シアン子爵、今後我々は友人としてそれなりの付き合いをして頂こう。」
「えっ…?」
ドラートは驚いたような顔をした。
「我々が交友関係にあればリンカとウィラード子息の婚約破棄は互いに納得したモノであると周りも周知するだろう。」
「…それは、そうでしょうな。」
「当然、友人としてそれなりの援助や取引にも応じて頂きたい。」
「…。」
ドラートの表情に緊張が走ったようにリンカは感じた。同じ子爵家同士である以上、本来であれば対等な立場で交友するものだ。しかしサーマンの提案は、ノアール子爵家の方が立場が上だと認識しろというモノである。過度が過ぎればシアン子爵家側から恨まれる可能性もある案ではあるが、サーマンならばシアン子爵家に恨まれない可能な範囲内で上手く要求していく事だろうとリンカは思う。
「…承知しました。」
ドラートの表情は硬いが他に選択肢は無いのだろう。サーマンの案に頷いた。
「そしてホワイト男爵、貴殿にはウィラード子息とホワイト男爵令嬢が今回の件を露見させないように追放後の彼らを監視して頂こう。」
「監視、ですか。」
「ホワイト男爵令嬢を除籍後、彼女に援助をし続けるかどうかは男爵の判断に任せる。しかし、常に彼らを監視し今回のような問題を犯さぬように気を配って頂きたい。」
ウィラードとラリーが何をしたところで社交場に返り咲く事はまず無いだろう。しかし彼らの行動によって、3家に不利益を与えられる可能性は充分にあった。
「彼等の問題行動を野放しにするような事があれば、我々の評価は下がるだろうな。」
「承知致しました。」
アレンはサーマンを真っ直ぐに見ながら誓うように頷いた。
シアン子爵家とホワイト男爵家の悪評は最小限に留められ、ノアール子爵家はシアン子爵家との結び付きを得られる。思いの差はあれど、この場にいる当主達はサーマンの提案に同意した。
「っ…、せ、説明は終わったんですよね?!」
「「…。」」
この場の全員が分かっていた、と言わんばかりにウィラードを見た。
リンカのセリフが少ないです。次回辺りで沢山話させてあげたいと思っております。そしてラリーも無言のまま…8割以上男達が話し合うだけの華のない回でした 笑
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