23.身勝手な行動をした結果 1
婚約者と幼馴染一家とのケジメをつける回です、続きます。
「ち、父上、俺は…」
「旦那様方、お話し中失礼致します。」
不安を抱くウィラードが何かを言おうとした時、食堂の扉をノックする音が響き、ホワイト男爵家の使用人の声が聞こえてきた。
「何だ。」
「ノアール子爵様からお話があるとの事です。」
アレン・ホワイト男爵が用件を聞くと、食堂の扉を開けた使用人がそう言った。
「「…。」」
ウィラードの父であるドラート・シアン子爵とアレンは無言で顔を見合わせる。互いの表情に変化はなく、無表情のままだがそれだけで確認を出来たらしい。
「…分かった、子爵達をお連れしろ。」
アレンの言葉に使用人は頭を下げるとリンカとリンカの父であるサーマン・ノアール子爵を迎えに行った。
「…。」
ウィラードは落ち着かなかったが、声を発する雰囲気ではなかった為黙り込む。リンカ達がやってくるまで、誰も一言も話さなかった。
◆◇◆
「ホワイト男爵からの慰謝料とラリー・ホワイト男爵令嬢の社交界からの追放。先程はそれで手を打つ予定だったが変更させて貰う。」
再び食堂にやって来たサーマンは開口一番にそう告げる。サーマンの隣に居るリンカは全員の様子を眺めている。
「ラリー・ホワイト男爵令嬢が自身を病弱だと偽り、我が娘、リンカ・ノアール子爵令嬢とウィラード・シアン子爵令息の婚約者としての時間を奪った事。両家の婚約に口を出した事、そして男爵令嬢が子爵令嬢を侮辱した事を公にさせて貰おう。」
「っ…。」
「…そう、ですよね。」
ラリーは気不味そうな様子でサーマンを見つめる。ラリーの父であるアレンは覚悟をしていた様子で諦めたように、けれどこの先の事を考え不安を滲ませる声を出した。
「アレン・ホワイト男爵、貴殿は自分の娘の嘘に長い間気が付けなかった。そして気が付いたにも関わらずホワイト令嬢の身勝手な行動を許してしまった。当主としても父親としても問題だ。」
「…はい。」
「っ…。」
娘が婚約者がいる幼馴染を病弱だからとはいえ、何度も呼んでいた事を諌めなかった時点で問題はあったと言える。しかし娘の嘘に今まで気が付けなかった愚かさ、気が付いた後に娘を監視する事を怠った怠慢さが知られれば、世間に失笑される事だろう。さらに他家の婚約破棄の原因になったともなれば、男爵の地位を維持する事も難しくなるかもしれない。
重い空気を発する父親を、ラリーは罪悪感を持った様子で見つめている。ウィラードの事で話をしていた時、アレンの言葉や様子を見て彼女の中で何か思う事があったのかもしれないとリンカは思った。
「そしてシアン子爵。」
サーマンが次にドラートの名前を呼ぶとドラートの顔に緊張が走り、その隣に居るウィラードはニヤけていた顔をさっと引き締めるのをリンカは目撃した。ウィラードの狙い通り、ラリーの悪評が広まる事に喜んでいたのだろうとリンカは想像した。
「…リンカとウィラード子息の婚約を、そちらの有責の婚約破棄とさせて貰おう。」
「なっ、お、お待ち下さいっ!! こ、婚約破棄だなんて、何でそんな、急に…っ!」
婚約破棄を告げられ、ウィラードが慌てた様子で声を上げた。
「…子息の今までの行いと評判、そして今回の企てで信用出来ないと判断したからだ。」
婚約者より幼馴染を優先し続けた事。それに伴う自分の悪評に対して上手く受け流せず、たち振る舞えなかった事。そして幼馴染を陥れ、婚約者を利用して自分の悪評を改善しようとした事。どれもウィラードが知っている事ばかりだ。
「だからそれはラリーのせいなんですよ! 彼女が嘘を付かなければ、こんな事にはならなかったんですっ!」
「…全てはホワイト令嬢の責任であり、自分には全く非はないと言うのか?」
「…そ、それ…は…っ。」
ラリーが悪いと言い訳をするウィラードだが、サーマンの質問に口籠る。その様子を見て、自分にも非があると認めてはいるのだとリンカは感じた。ラリーの方が悪いという気持ちと、被害者意識は持ち続けているのだろうが。
「で、でも僕は…」
「黙れウィラード。」
ドラートはウィラードを睨み付け、ウィラードを黙らせた。
「…そう言われるだろうと思っておりました。」
ドラートもまた、アレンと同じく覚悟していたのだろう。逆らわずに婚約破棄を受け入れる姿勢を見せ、リンカを申し訳無さそうに見てきた。
「…これまで、リンカ嬢の温情でウィラードの行いを容認して頂いた事は承知しております。本当に申し訳無かった。」
「…はい。」
リンカは返事をした。ウィラードの行いを諫める事が出来なかったドラートを信用するつもりはない。息子の行動を管理出来なかったという点ではアレンと変わりはない。けれど婚約破棄に素直に応じたのだから、リンカがこれ以上思う事など無かった。
「っ、で、でも僕達の婚約は両家に利益を齎すんですよ!? それなのに破棄しても良いんですか?」
「ウィラードいい加減にしろっ!!」
ウィラードは未だに納得出来ない様子で婚約破棄に異を唱える。ドラートはまた怒鳴りつけるが、ウィラードは今度は怯む事なく縋るようにサーマンとリンカを見た。
「ウィラード子息、君の評判は即ちシアン子爵家の評判にもなる。君の悪評を改善させようとする事は家の利益にも繋がる訳だ。」
「えっ…はい。」
サーマンは何も理解出来ないウィラードに説明するかのような口調で話し始める。ウィラードは戸惑いながらも頷く。
「自分の評判を改善する為に策を練る。それは問題ない。だが何故当主である父親に、シアン子爵に相談しなかった?」
「それは…。」
家の為になる計画があるならば、当主に相談するのは当然の事だ。その計画を実行すれば本当に成果を得られるのか、その計画に穴はないのか、失敗した際にどのようなリスクを負うのか等を話し合うべきだ。
「自分の事しか考えていなかったからだろう?」
「っ!」
サーマンの指摘にウィラードは息を呑んだようだ。
「家の為だなんて考えてもいない。自分が嫌だから、納得出来ないから…自分の為だけに勝手な行動をしたと私は感じたが、違うか?」
「っ、ち、違う! 僕は自分の為だなんて…。」
ウィラードは反論しようとするがその後に続く言葉は出ない。図星だったのだろう。
「君は家の為に耐える事は出来ず、気に入らなければ身勝手な行動をする。その上計画は上手くいかなかった、圧倒的な能力不足だ。君は当主の、子爵になれる器ではないと私は判断した。」
「〜っ、!」
ウィラードは羞恥心からか頬を赤らめ顔を顰めるも何も言わない。他家の次期当主を非難するのは本来であればマナー違反だ。だがドラートは何も言い返さず、ただウィラードを睨みつけているだけだった。
「そんな男の元に娘を嫁がせて上手くいくとは思えない。我が家の為になるどころか沈められる可能性が浮上したのだからな。」
シアン子爵家との結びつきで得られる利益よりもウィラードと共に居る事へのリスクの方が上回った、それだけの事だ。サーマンにとって今回の企てがなければウィラードは考えが足りない、思考が浅い男という評判だったのだろう。それだけならリンカがウィラードの手綱を握れば済むと考えていたのかもしれない。
しかしウィラードは相手を陥れ、利用する為に行動する事が出来る存在だと判明した。リンカと結婚し、当主となった後に自分の都合だけで判断し、勝手な振る舞いをする可能性が浮上した事でサーマンは婚約破棄を決断したのだろう。
「〜っ、ぼ、僕だって好きでこんな事をしたのではありません! 僕はただ…」
――パァンッ!!
似たような音、光景をリンカはすでに目の当たりにしていた。
「…ぁ、へっ?」
ウィラードは何が起こったのか分からない様子で、呆けたような顔をしている。
「黙れと言っているだろう! 何故そんな事も出来ないのだっ!!」
ウィラードを平手打ちしたドラートは、忌々しいとばかりにウィラードを睨みつける。
「…っ、申し訳ありません。」
ドラートはウィラードから目を逸らすとリンカ達に謝罪する。ウィラードは叩かれた頬に手を当てて、ようやく自分が今殴られたのだと認識したらしかった。
ラリーは自分と同じ目に遭ったウィラードを何とも言えない顔で見ている。アレンは自分と同じように我が子を殴った気持ちが分かるのか苦い顔をした。サーマンは眉を顰めるだけで何も言わない。
「…ウィラード子息が企てた事も隠すつもりはない。慰謝料も請求させて貰う。」
「…。」
温情のないサーマンの言葉にドラートは沈黙する。否定する事は出来ないが、受け入れた先に待ち受ける苦労を想像して苦悩しているのだろう。
「だが、今から提案する事を受け入れるのであればウィラード・シアン子爵令息とラリー・ホワイト男爵令嬢の事を公表しないと約束しよう。」
「「っ!?」」
サーマンの言葉に、ドラートとアレンは驚愕したように目を見開いた。
ウィラードが醜態を晒しまくっております。サーマンが提案する事とは何なのか…という感じで終わりましたがそんなに大した事ではありません、はい 笑
ここまで読んで頂き有難うございました!




