22.婚約者一家と幼馴染一家の話し合い
シアン子爵家とホワイト男爵家達の話です。
リンカとリンカの父であるサーマンが食堂を出て行った後の食堂は、気不味い沈黙に包まれた。
「…。」
ウィラードは誰とも目を合わせたくなくて俯き、自分の目の前にあるテーブルを見つめる。何を言われてしまうのかと警戒し、怯える気持ちが大きかった。その一方で、何を言われたとしても悪いのはラリーとラリーの父であるアレン達の方だという怒りが混じってもいた。
「…シアン子爵、貴方は本当に何も知らなかったのですか?」
アレンが沈黙を破り、静かな口調でウィラードの父であるドラートに問う。
「…全ては息子の独断です。私は約束通り、秘密にするつもりでした。」
「違うっ!」
ドラートの答えをウィラードは勢いよく否定する。
「父上は全て知っていたではありませんかっ!」
ウィラードはドラートを睨みつけるが、ドラートは全く動じない。
「…何だ、今度はラリー嬢ではなく父親を陥れるつもりか?」
「なっ、違っ…!」
ドラートが冷たくウィラードを睨みつけるとウィラードは怯む。そんな2人の様子をアレンは不審そうに見つめる。
「…私を疑いたくもなるだろう。ウィラード、お前が男爵に説明しろ。私が知っていたと言う事についてな。」
「は…?」
ウィラードに説明させるなんて、ドラートにとって不利になるかもしれないのに何故だとウィラードは疑問を浮かべる。
「但し、嘘を言えば反論させて貰う。」
有無を言わさぬ雰囲気でドラートに言われたウィラードは、戸惑いながらも口を開いた。
「…リンカとの食事の後、僕は全てを父上に話したんです。父上は上手く事が済めばそれで良いと僕のした事を認めました。」
ウィラードはずっと此方を見るアレンから視線をずらしながら話した。何も嘘は言っていない。どうだと言わんばかりにドラートを睨みつけた。
「…彼の言っている事は本当なのですか?」
アレンがドラートに確認する。ウィラードは馬鹿正直にドラートが認める筈はないだろうと、心の何処かで思っていた。
「ウィラードの言う通りだ。」
「なっ!?」
だがあっさりとドラートは認めた。ウィラードもアレンも驚き、目を丸くしてドラートを見た。
「だが、ウィラード自身が言ったように私は全て終わった後に知ったのだ。ラリー嬢を陥れ、リンカ嬢に嘘をついたのはウィラードの独断だ。これで信用出来るだろうか?」
ドラートは何とも思っていないかとのように堂々と話した。
「っ、で、ですがノアール子爵には何も知らなかったと、この場で知ったかのような振る舞いをしていたではありませんかっ!」
ウィラードの指摘にアレンはそれが何だ、と言わんばかりに呆れた顔をした。
「その方がまだノアール子爵家の傷が浅くなると判断したからだ。お前に指示を出した訳でも、お前と共に企てた訳でもない。“全てが終わった後に知った”というのは本当の事だ。」
ドラートの主張に、ウィラードが納得出来ないとばかりに強く睨みつけた。
「なっ、そんな屁理屈を…! そもそも父上が僕の事を言わなければまだ…!」
「何とかなったかもしれない、と? お前がボロを出し過ぎたせいで何とかなる状況だったとはとても思えなかったがな。私がお前を庇えば非難の目はお前だけでなく私にも及び、シアン子爵家の評判は地に落ちる羽目になっていたかもな。」
「それはっ…。」
ウィラードはかなり追い詰められていた。悔しいが、ドラートの言葉は図星だった。だか、それでも言いたい事はある。
「子爵家の評判? 息子の俺よりも家の方が大事なのですかっ!?」
「馬鹿が、当たり前だろう。」
シアン子爵家の評判の為、そればかりを口にする父であるドラートに、ウィラードは息子である自分の事を考えないのかと声を張り上げる。しかしドラートは呆れたようにあっさりと答えた。迷いない返答に、ウィラードは絶句してしまう。
「っ…。」
「…本心はどうであれ、貴族とはそういうものだろう。でなければ政略結婚などというモノは存在しない。まさか、お前がこんなにも愚かだったとは…心底自分が嫌になる。」
ドラートはウィラードに呆れた様子を見せるばかりで怒らない。最早怒る事さえ諦めたように、疲れ切った顔をした。
「まぁ、何れにせよ私がお前の愚かな行いに気が付かず野放しにしてしまった事実は消えない。ノアール子爵達の私への信頼は無くなったに等しい。私の足掻きも無意味かもしれないな。全てはお前と、私の責任だ。」
「…っ、そ、そんな言葉で誤魔化されるとでも?! 男爵達も聞いているんですよ、この状況を分かっておりますかっ!?」
ショックで一瞬放心していたウィラードだが、ドラートがウィラードの行いを知っていたという事実はアレンとラリーも聞いている。ノアール子爵に話せばバレるぞと脅すようにドラートに言った。
「…今の話は、聞かなかった事にします。」
「…は?」
アレンの言葉にウィラードは間抜けな声を出した。
「私が子爵の立場だったならそうしたでしょうからね。」
「ま、待って下さい! 父上だけが被害者みたいな話で終わってしまうのですよ?!」
必死に説得しようとするウィラードを、アレンは哀れむような目で見てきた。
「被害者だろうが何だろうが、身内の責任は当主の責任となる。無傷ではいられないんだよ、ウィラード君。」
「っ…、で、でも!」
「私の娘の、ラリーの気持ちを利用して陥れようとしたのはウィラード君だ。シアン子爵にはそんなつもりは全くなかった。」
「っ!?」
「…お父、さま。」
アレンの目線に怒りが含まれているように感じ、ウィラードは言葉を詰まらせる。何も言わず、俯いたままだったラリーは顔をゆっくりと上げてアレンを見た。
「…何を、被害者みたいに言っているんだ。」
アレンの言葉とラリーの様子にウィラードは苛立ちを募らせる。ラリーはハッとしたようにウィラードを見た。
「そもそも、ホワイト男爵家のせいでこんな状況になってるんだぞっ!! 僕の気持ちを利用して、こんな状況に陥れたのは誰だと思ってるんだっ!!」
幼馴染として大切に想っていたウィラードの気持ちを利用し、ウィラードの人生を悪い方へ陥れたのはラリーだ。そしてラリーを諌めなかったアレンだ。
「わ、私はウィルの傍に居たかっただけで…別に、ウィルを陥れるつもりなんて…。」
「お前の考えなんか知った事か!!」
涙目になったラリーの言葉なんて聞きたくもなく、ウィラードはすぐに怒鳴ってラリーを黙らせようとした。
「うっ、うぅ…ウィルは、ウィルはこんな酷い人じゃなかった…昔のウィルに戻ってよぉ…。」
「〜っ、いい加減に…」
「止めなさい、ラリー!」
泣き始めたラリーをさらに怒鳴ろうとしたウィラードの声を遮り、ラリーを注意したのはアレンだった。
「…何も言い返す言葉はない。事の発端はラリーと私に責任がある。ウィラード君が私達を恨むのは仕方が無い事も分かっている。それもあるからこそ、シアン子爵の事を責めれないんです。」
アレンはドラートを見た。
「この程度の事を秘密にしたところで、意味があるかは分かりませんがね…。」
「…。」
ドラートを案じているのか、嫌味のつもりなのかは分からないがアレンは苦笑いしながらそう言った。ドラートは感謝も謝罪もせず、ただ静かに目を伏せた。そもそもの原因はホワイト男爵家にある。だから何の言葉を返したくなかったのかもしれない。
ドラートはきっと、自分が知っていた事をアレンに話しても穏便に済むと予想していたのだろうとウィラードは察した。
「っ…。」
だが、そんな事はウィラードにとってはどうでも良い。結局、ドラートの事は秘密にする事になったという事だ。当主の責任だなんだと言われつつも、ドラート自身は何の罪も犯していないと認識される事になる。その事がとても納得出来ない…。
「私を恨むのは勝手だが、それよりも今後の自分の事を考えたらどうだ?」
「…はっ?」
ウィラードの睨みを受け止めつつ、ドラートは険しい表情でウィラードを見返してきた。
「もうお前は評判を気にしていれば良かっただけの立場では無くなったと言う事だ。」
「なん、ですって…?」
“評判を気にしていれば良かっただけ”…ウィラードの苦しみをそんな表現で言ってくるドラートに対する怒りよりも、不安感がウィラードを襲ってきた。
前回のノアール子爵家親子が話している一方で、残りの人達がどんな話をしていたかというお話でした。ウィラードの愚かさが話が続く事に進化してしまっております…最後くらいはまともになって欲しいのですがね 笑
いつも読んで下さる皆様、誤字脱字報告してくれる皆様、本当に有難うございます。もし宜しければ最後までお付き合い頂けると嬉しいです!




