21.話し合いと暴かれる嘘 5
話し合いの続きです。
「…そう、です。僕がラリーにリンカに全てを話すように頼みました。」
ウィラードは観念したかのように俯きながら話した。
「…何故そんな事をした。」
「…僕の評判は全て、ラリーのせいですよ。それなのにラリーの嘘は隠蔽される事になった。納得出来なかったんですよ…何故僕だけが周りから悪者されなくてはいけないのですか?!」
リンカの父であるサーマンの質問に、ウィラードは泣きそうな顔をしながら答える。
「つまり、ホワイト男爵令嬢の嘘を世間に広めさせる為にやったという事か? 自分の口からではなく、リンカに言わせるつもりだったのだな。」
シアン子爵家とホワイト男爵家は互いに秘密にすると約束した。ウィラードがリンカに直接話し、リンカがこの事をサーマンを通じて世間に伝えればウィラードが約束を破った事になる。そうならない為にラリーに言わせる事にし、ウィラードは秘密にしようとしたがラリーが勝手に話した。リンカ達にそう思わせようとしたのだろうとリンカは察する。
「っ…。」
ウィラードは無言のまま肯定する。ウィラードの表情には、反省や後悔をしている様子は見られない。何故自分がこんな目に、という被害者意識を持っているような苦々しいものをリンカは感じた。
「…ホワイト男爵、何故令嬢の外出を認めたのだ?」
サーマンは暫くウィラードを見た後、ラリーの父であるアレンに質問した。ウィラードに教えられてラリーがレストランに来た事は分かった。しかしアレンがラリーの外出を認めなければ今回の事は起こらなかった。病弱だと嘘をつき続けて家族と幼馴染達を騙してきた問題児を軟禁しないのは可笑しいのではないか、とリンカも思っていた。
「…私の責任です。使用人からラリーが外出しようとしていると連絡はありました。しかし私は男爵として、父親としての責任よりも勝手にしろという投げやりな気持ちの方が強かったのです。ラリーが誰かに言い触らすとは思ってもいませんでしたし、これ以上問題を起こしようがないと油断していました。重ね重ねすみません…。」
ウィラードとは違い、反省と後悔の苦悶を浮かべた表情でアレンは頭を下げる。詰めが甘いとしか思えず、リンカは内心で呆れる。今更後悔したところでどうにもならない。そんな人だからラリーの嘘も見抜けなかったのだろうと納得してしまう。
「…成る程、よく分かった。」
サーマンは頷くと席を立つ。
「男爵、考えを纏める時間が欲しい。私とリンカを2人きりにして貰えないだろうか。何処か別室を用意して頂きたい。どうしても無理ならまた後日、話をしたいと思うのだが…。」
「…分かりました。すぐにご用意致しますのでお待ち下さい。」
アレンは食堂の外で待機していた使用人に指示を出して別室の準備を始めた。
「……。」
誰も一言も発しない。ラリーは鼻を啜りながら俯いており、ウィラードの父であるドラートはウィラードを見ようとはせず、苛立たしそうな顔をして腕を組んでいる。
「…。」
「っ…。」
リンカはウィラードと目が合った。ウィラードは縋るようにリンカを見てきたが、リンカはすぐに目線を外した。見てはいないが、ウィラードはショックを受けたような顔をしているのだろうと想像出来る。
「お待たせしました。ノアール子爵、ノアール子爵令嬢。」
急な来訪にも対応出来るように予め用意されていたのか、数秒後には使用人が案内する為に扉の前でリンカ達を待っていた。
「…そちらも私達抜きで話したい事があるのではないですか?」
サーマンは食堂に残るであろう4人にそう言うと食堂を出る。
「私も失礼します。」
リンカもサーマンの後に続くように頭を下げると食堂を出た。
◇◆◇
「リンカ、本当にお前はホワイト男爵令嬢の嘘を知らなかったのか?」
案内された客室でリンカと2人きりになると、サーマンがリンカに質問した。
「…いいえ、知っておりました。」
リンカは白状した。
「ですが、心の何処かで引っ掛かりを…ウィラードへの疑問を感じて黙っておりました。すみません。」
「…そうか。」
サーマンはリンカを責めず、ただ納得した様子を見せた。
「シアン子爵が関わっていたかは分からんが、ウィラード子息はお前を、私達ノアール子爵家を利用しようとした。」
「…はい。」
アレン・ホワイト男爵の詰めの甘さは問題ではあるが、先程の態度と対応から何も知らなかったのは間違いないだろうとリンカも思う。ドラート・シアン子爵も知らなかったのかは疑問だが、ウィラードの計画が失敗した以上もうどちらでも構わなかった。問題はウィラードがノアール子爵家を利用しようとした事だ。
「彼らに求める処遇は今から考えるが、お前とウィラード子息の婚約は向こうが有責の婚約破棄とするつもりだ。」
今までの行いと評判からサーマンのウィラードに対する印象は決して良くはなかった。それでもシアン子爵家との繋がりを持つ事がノアール子爵家の為と考えていたのだろう。しかし今回の件でウィラードへの信頼は完全に無くなった。ウィラードはノアール子爵家にとって不安因子でしか無い。
「はい、私も賛成です。」
心の底からリンカは同意する。サーマンが婚約破棄を決断してくれて安堵した。
「…お父様、ホワイト男爵令嬢の嘘を世間に話しますか?」
「態々秘密にしてやる義理は無いだろう。」
ラリーの真実を公にし、リンカとウィラードが婚約破棄すればホワイト男爵家とシアン子爵家の評判は地に落ち、嘲笑われる事だろう。
「だが、今回の事を秘密にしてやれば両家に恩を売る事が出来る…とも考えている。」
ノアール子爵家に利をもたらす対価を貰えるのならば秘密にする。サーマンならば言いそうな事だったのでリンカは大して驚かなかった。王家への謀反の企てや、麻薬の密売などの犯罪に関する事ならば秘密にするなんて流石にあり得ない。
恋焦がれた令嬢が病弱だと偽り、令息を繋ぎ止めようとした。ラリーの態度やその後のリンカが被った迷惑を考えれば笑い話などでは済まないが、秘密にしたところで罪に問われるモノではない。
「…お父様、もし宜しければ私の案を組み入れて頂けないでしょうか?」
「…何だ?」
サーマンが求める対価を支払わなければリンカの提案が受け入れられても実行されないだろう。しかし家の評判や名声を守る事を何よりも優先するならば、シアン子爵もホワイト男爵も条件を飲む筈だとリンカは考えた。
「ウィラードとホワイト男爵令嬢の今後について、シアン子爵とホワイト男爵に提案したい事があるのです。」
「…ホワイト男爵令嬢の今後については殆ど決まっているだろう。」
ラリーが田舎に行くのか修道院に入る事になるのかは知らないが、社交場から居なくなる事は決まっている。恐らく貴族籍を剥奪され、ホワイト男爵家から除籍される事になるだろう。
「ですが、ウィラードの今後は決まっておりません。」
「…。」
リンカの言葉に、サーマンは何となく言いたい事を察した様子を見せた。リンカが全て言い終えるとサーマンは了承した。
その後、サーマンはシアン子爵とホワイト男爵に要求する対価を考えている様子で無言になった。リンカは考えを纏めている父の様子を見ながら、食堂に残った彼らはどんな話をしているだろうかと考えるのだった。
この話で『話し合いと暴かれる嘘』は終わりになります。次は食堂に残った4人の話になる予定です。あと少しでこの連載も終わるのではないかと思っております。もし宜しければ最後までお付き合いをお願いします!
読んで下さり有難うございました! もし宜しければ評価して頂けると嬉しいです!




