20.話し合いと暴かれる嘘 4
話し合いの回の続きです。
「ラリー、ノアール令嬢に何故全てを話した?」
ウィラードが何も言わずに沈黙が続く中、ラリーの父であるアレンが口を開いた。
「…ウィラード子息に頼まれたんじゃないのか?」
「…。」
ラリーは何も言わずに俯く。
「か、勝手な事を言わないで頂けませんかっ!?」
ウィラードはアレンを睨みつけると、アレンは眉を顰めて見つめ返した。
「先ほど、ラリーに“全部言うように”と言っておりましたよね。」
「そ、それは…こ、混乱して、意味のない言葉が出てしまっただけですよ!」
冷たい目で見るウィラードを見るアレンからは、ウィラードを信用する気は全く感じられない。
「…ノアール子爵、ノアール子爵令嬢。」
アレンは諦めたような、けれど真剣な表情でリンカとリンカの父であるサーマンを見た。
「私はラリーの嘘の事を知っておりました。そして、シアン子爵とウィラード令息も知っております。」
「〜っ!」
「だ、男爵っ! いきなり何を…っ!」
ウィラードとドラートの表情に焦りが浮かぶ。アレンは2人の様子を横目で見た後、リンカ達に話し続けた。
夜会の翌日、今後の為にウィラードとラリーは距離を置くべきだと話し合っていた時にラリーの嘘が判明した事。ラリーのウィラードへの想いもその場で聞いていた事。ラリーの嘘は秘密にし、ラリーが社交場から遠ざかる事で見逃して貰う事になった事をアレンは打ち明けた。
「…私が娘の嘘に気がつけなかったばかりに周りを騙し、ノアール子爵令嬢に迷惑をかけました。そして秘密にしたまま事を済ませようとしました。申し訳ありません。」
「…。」
リンカは何も言わずにアレンを見つめる。
「ですが、今回のラリーの行いについては私は本当に何も知りませんでした。そして、ラリーの独断での行いだとは思えないのです。ウィラード子息の様子をみるに、彼に指示をされたとしか思えません。」
「なっ! 何を勝手な事を言って…っ! ち、違いますからねノアール子爵! 僕は何も知りません!」
「…。」
アレンの主張に焦ったように声を上げたウィラードは、サーマンに何も知らないと訴える。サーマンはウィラードから目を逸らし、隣に居るウィラードの父であるドラートを見た。
「シアン子爵、ホワイト男爵の言っている事は本当か?」
「……。」
ドラートは難しそうな顔をして何も答えようとしない。違うなら違うと言えばいいだけなのに、何も答えない。その沈黙が、アレンの言っている事が本当だと肯定するようなモノだった…。
「…はい、全て知っておりました。」
「っ、ち、父上…何故ですかっ!?」
長い沈黙の後、ドラートは認めた。ウィラードは愕然とした様子で父であるドラートを呆然と見つめた。
「…という事はつまり、私とリンカ以外は知っていたと言う事で間違いないか?」
「はい、その通りです。ラリー嬢の件は我らシアン子爵家とホワイト男爵家の秘密にすると話しました。」
サーマンが確認するとドラートは素直に認めた。
「ホワイト男爵がラリー嬢の行いに加担しているとは思っておりませんでした。私はラリー嬢の独断で今回の事が起こったのだと考えていたのです。でもまさか、息子が絡んでいるとは思ってもみなかったものですから…黙っていてすみませんでした。」
「ち、父上…っ。」
「ノアール子爵…。」
父であるドラートに見限られたウィラードは絶望したようにドラートを見た。アレンの事は疑っていないと主張するドラートを、アレンは何とも言えない顔で見ている。
「…成る程。ウィラード子息が指示を出していたならホワイト男爵令嬢がリンカが1人になった時に部屋に入る事は難しく無いだろうな。」
「…そうですね。ウィラードがノアール子爵令嬢と会う前日に2人は会っていましたから。最後に2人で話がしたいとウィラードに頼まれましてね。」
サーマンの推測にドラートが同意し、さらにウィラードとラリーが会っていた事を話した。リンカと会う前日には、レストランに何時に集合するかとっくに決まっている。
「ち、違うっ! …違う違う! 違いますっ!!」
「「…。」」
「ウィル…。」
ウィラードは必死な様子で違うと主張する。だが誰もがもう、ウィラードがラリーを唆したとしか思っていない。孤立無援に等しい中、たった1人だけウィラードを心配そうに、不安そうに見つめるラリーとウィラードは目が合うと、ラリーをキッと睨みつけた。
「〜っ、ぜ、全部ラリーのせいですっ!」
「ウィ、ウィル…?」
ラリーは驚きと怯えの混じった声を出した。
「ラリーの嘘が、ラリーの存在が僕の人生を滅茶苦茶にしているんですよっ!! 僕は被害者だっ! こんなにも責められるだなんて可笑しいじゃないかっ! 僕は悪くないっ! 僕じゃないっ! 悪いのは全部ラリーだぁっ!!」
「…っ。」
醜い形相でラリーを罵倒するウィラードに、ラリーは愕然とした顔をする。そんなウィラードの様子をリンカは軽蔑した眼差しで見つめた後、ラリーを見た、
「…ホワイト男爵令嬢。先ほどホワイト男爵が質問されておりましたが、何故貴女は私に全てを話したのですか?」
「…え? あ…っ。」
ウィラードに怒鳴られた事が余程ショックなのか、リンカを睨みもせずに呆けたような顔でラリーはリンカを見返した。
「貴女の今までの言動と今回の件は貴族令嬢として常識がない恥ずべき行為です。今後貴女がどんなに非難され、辛い環境に身を置かれる事になったとしても自業自得です。」
「…。」
正論だろうとリンカの言葉はラリーを非難し、怒らせるモノばかりだ。しかしリンカの言葉はラリーの胸に届いていないのか、聞き流しているのか困惑した顔でリンカを見てくるだけだ。
「…ですが、貴女の嘘はウィラードと一緒に居たかったからでしょう? 貴女がウィラードの傍にいる為に、貴女が考えた策略だった。」
「っ…。」
ウィラードの名前が出た瞬間、ラリーは表情を歪ませて瞳を潤ませた。
「今回の件も、貴女がウィラードと結婚する為に行われたのだと思います。ですが、私に全てを話せば私とウィラードが婚約解消される。何をもってそう考えたのですか?」
「そ、れは…。」
リンカの質問にラリーは口籠る。
リンカとラリーは一回だけだが2人で話をした事がある。そしてラリーはリンカを冷たい女だと評価した。そんな冷たい女にラリーが何を言ったところでウィラードと婚約解消するだなんて流石のラリーも考えていないだろう。
「…分からないのですよね、貴女にも。貴女は指示に従っただけなのだから。」
「っ、リ、リンカ違うっ! 僕は何も知らない!」
ウィラードが焦ったように声を出すがリンカは見向きもしない。
「貴女は指示に従ってやるべき事をした。それなのに貴女は父親に暴力を振るわれ、愛する人に罵倒された。こうなると想像出来ていましたか? これが貴女の望んだ事ですか?」
「〜っ…。」
ラリーの頬に涙が伝っていく。苦しそうに、悔しそうに膝の上で握りこぶしを作り震わせる。先程リンカが言ったように全てはラリーの自業自得だ。けれど彼女だけが悪い訳ではない。こんな馬鹿げた事を企てた首謀者も罰を受けるべきだとリンカは思う。
「…ラリー、もう一度聞く。何故お前はノアール子爵令嬢に全てを話したんだ?」
娘の姿に父親として何を思ったのか、厳しい声質の中に同情するような、心配する響きが混ざった声で質問した。
「……ウィ、ウィルに」
「で、出鱈目を言うなぁっ!」
ウィラードの名前が出た瞬間、ウィラードの怒鳴り声がラリーの言葉を遮る。
――バァンッ!!
「っ!?」
だがそこで、机を強く叩く音が響きウィラードの怒りを遮った。
「黙れっ、ウィラードっ!!」
「っ…。」
机を叩いたのはドラートだった。ウィラードは父親から圧に押されて固まり黙り込む。
「…ウィルに、頼まれたん…です。ウィルの言う通りにすれば、私と結婚出来るから…って。」
ラリーの告白が静かに響き渡る。ウィラードの言動から彼が絡んでいるとほぼ確定で考えていた。リンカだけでなく、サーマンもアレンも…そして怪しくはあるがドラートもだろう。それでもラリーが独断でやったと言い張る限り、ウィラードが言い逃れする隙がほんの僅かだが存在はしていた。
しかし、たった今、ラリーが真実を話した事でもうウィラードが逃れる隙は完全に無くなった。
「……。」
処刑される前の罪人のように青白い顔で佇むウィラードを、リンカは心底軽蔑した目で見つめるのであった。
まだ話し合いは続きますが後1、2話で区切りをつけたいと思っております。どんどん墓穴を掘り、本当に墓穴を作ってしまったウィラードでした。ラリーを皆の前で責めなければまだ救いはあったのかもしれません。けれど人は追い詰められると冷静でいられないものですよね…。
ここまで読んで頂き有難うございました!




