19.話し合いと暴かれる嘘 3
ウィラードが追い詰められる回の続きです。
「…あ、その…。」
ウィラードは周りからの視線を避けるようにオロオロとしながらあちこちに視線を彷徨わせている。
「…っ、そ、そうだ思い出した! ほらリンカ、あの時君から聞いたんだよっ!!」
「“あの時”…?」
ウィラードが何かを思い出したかのようにリンカを見た。
「食事をした日だよ! ラリーが居なくなった後に何を話したのか聞いたじゃないかっ!! その時にさ、君はそう言ったんだよ!」
「…。」
全員の視線がリンカに集まる。しかしリンカは表情を変えない。
「何を言っているのですか? 私はそんな事言っておりません。ホワイト男爵令嬢がウィラードを好きだという事、私はウィラードに相応しくないと言われた事を話しましたよ。この話し合いの時に言った内容と同じです。」
「えっ…、い、いやそんな筈…。」
ウィラードは認めたくないのか、リンカの言う事を受け入れようとしない。
「ホワイト男爵令嬢から病弱は偽りだった、そんな事を言われたら真っ先にお父様に報告する筈でしょう? それにこの話し合いで話すに決まってます。まさかウィラードには聞いたと話して、この場では聞いていないと私が嘘をついていると言いたいのですか?」
「…。」
勿論、リンカはラリーから聞いていた。けれどウィラードも関係しているような気がして敢えて黙っていた。リンカは何も知らない、という事にする為に父であるサーマンにも秘密にしていた。
ウィラードが何を考えてリンカが言った筈だなんて言い出したのかは知らないが、その挙動不審な態度がウィラードが絡んでいる事への証明に他ならない。
「…そ、その…えっと、…あの…っ。」
ウィラードは何も言い返せない。ウィラードの父であるドラートは何も言わずにウィラードを睨みつけているだけである。もうウィラードに言い逃れる術はないとリンカは思った。
「…そ、そうだっ! ラリーから聞いたんですよ!」
「…ホワイト男爵令嬢から?」
リンカの次はラリーから聞いたと話すウィラードを、サーマンは冷たい目で見つめる。
「そ、その…ラリーとリンカが一緒に居る所を見て、僕はラリーを部屋から連れ出したんです! 別れる間際にラリーがリンカに病弱なのは嘘だった、て言ったのを聞いたんですよ! だからその…リンカも当然知っているのだと思い込んでしまったみたいです!」
ウィラードは不自然な態度と笑みで精一杯言い訳をする。確かにウィラードはラリーを連れ出してその場を離れた。2人のやり取りをリンカは見ていない。けれどその言い訳は無理があった。
「その割には、ホワイト令嬢が姿を消すのが早すぎると思います。私がウィラード達の後を追うまでに1分もかかっておりませんでしたよね?」
リンカはすかさず指摘した。
「貴方はホワイト令嬢は“すぐに帰って行った”と言ってました。その僅かな間でそんな重要な話が出来たのですか?」
病弱だと思っていた幼馴染が実は嘘をついていて健康だった。そんな事実を知れば当然衝撃を受けるだろう。帰ろうとするラリーを引き留めてどういう事かと問いただす筈だ。
「そ、それは…歩きながらラリーが話したんだよ! 嘘をついていたんだって!」
「貴方への愛の告白はしないままで? ウィラードは私にホワイト令嬢と何を話したのか聞きましたよね。その時に私がホワイト令嬢が貴方を好きだと話したら驚いていましたよ。初耳だったのでしょう?」
病弱なのは嘘だったなんて、それだけを話す意味が分からない。必ずウィラードへの想いも話す筈だとリンカは指摘する。
「〜っ、そ、それはもしかしたら…俺が聞き逃したのかもしれない。その、病弱が嘘だった事が衝撃過ぎて…ラリーは俺の事が好きだとその時に言っていたのかもしれない…。」
短時間でそこまでの会話なんてまずは不可能だ。それにウィラードはさっきラリーに“どうして言わなかったんだ”と言っている。誰もウィラードの言葉なんて信じられないだろう。
「ウィラード、ホワイト男爵令嬢がすぐに帰った…いえ、貴方がすぐに帰る事を許した理由を覚えてますか?」
「え…?」
それでも、完全に言い逃れ出来ないようにリンカはさらに追い打ちをかける。
「“体調が悪くなったから”、そう言ったんですよ。」
「…あっ。」
ウィラードは思い出したのか、顔色を悪くして固まった。
「変ですよね。もう貴方はホワイト男爵令嬢が病弱ではないと知っているのに…そして、貴方は今まで騙されていたのですから聞きたい事も言いたい事も沢山あった筈です。」
体調不良ではないと暴露したのに、体調不良を理由に帰ろうとするラリーも可笑しいが、それを理由に見逃すウィラードも可笑しい。ウィラードの言葉が嘘であるという証拠でしかない。
「貴方の言葉は矛盾しています。本当の事を話して下さい。」
「〜っ…。」
ウィラードはリンカから視線を外して俯く。反論する言葉を探しているのかもしれないが何も言わないままだ。
「…ま、待って!」
突然ラリーが声を上げた。全員の視線がラリーに向けられる。
「わ、私はちゃんとノアール子爵令嬢に話しました!」
「…何だと?」
「…。」
リンカの父であるサーマンは眉を顰める。ラリーの父であるアレンは何を言い出すのかと、憎々しげにラリーを見ている。
「わ、私はウィルへの想いも、ノアール子爵令嬢の性格が冷たくてウィルに相応しくない事も、私の病弱は嘘だった事も話してます!」
ラリーはハッキリとそう言うと、リンカを睨みつけてきた。
「ノアール子爵令嬢は嘘をついています!」
「…どういうつもりですか、ホワイト男爵令嬢。」
ラリーがそんな事を言い出す意図が分からずにリンカは不思議そうな顔をした。
「ウィ、ウィルは何も悪くありません! 私は全てノアール子爵令嬢に話しました!」
「…。」
ラリーはウィラードを庇おうとしているのだとリンカは感じた。父親であるアレンに怒鳴られ、頬を叩かれて、そしてウィラードにも文句を言われたにも関わらずに…。ラリーの非常識さと言動が原因とはいえ、ウィラードへの想いに対しては素直に凄いとリンカは思う。
「…リンカが嘘をついていると言いたいのか、ホワイト男爵令嬢。」
「は、はい、そうです!」
「何の為に?」
娘が嘘を吐いているのだと言われたサーマンは、嘘を吐く理由が何なのかとラリーに問う。
「そ、それは…。」
ラリーは口籠る。彼女にリンカの意図が分かる筈もない。
「…リンカ、お前は本当にホワイト男爵令嬢の病弱が嘘だった事を聞いてないのか?」
「そんな筈ないです! 絶対に言いました!!」
「黙れラリー。」
サーマンがリンカに質問すると、ラリーが口を挟む。そのラリーをラリーの父親であるアレンが非難すると、ラリーは怯えた様子で俯いてしまった。
「…。」
実は聞いていました、なんて正直に答えても問題はない。けれど何故黙っていたのかとこの場で問われるのは面倒になるとリンカは思う。だからといって聞いてません、と嘘をつき続ければラリーと言った、言わないの言い合いになるのも予想出来た。
「…もしかしたら、私がホワイト男爵令嬢の言葉を聞き流してしまったのかもしれません。」
「…は?」
ラリーから間抜けな声が漏れる。他の人達は目を丸くしてリンカを見た。
「ウィラードとの食事中にホワイト男爵令嬢がいきなり現れて、侮辱され、ウィラードへの想いを告げられて…予想外の事ばかりで混乱していたのかもしれません。」
先程のウィラードの発言を真似して、リンカは聞き逃してしまったかもしれないと言い返す。ラリーの主張を否定せず、リンカが知らなかったのも仕方が無い…という事にする。
「そ、そんな筈がないでしょう!? あんなに大事な事が印象に残らないなんて…。」
「大失態ですよね。でも、私が秘密にする理由は無いでしょう? ホワイト男爵令嬢が私に言ったというのなら、もうそれしか考えられませんよ。」
「っ…。」
ラリーは困惑した様子のまま口籠る。何も反論出来ないのだろう。サーマンは何を思ったのか意味深な目線でリンカを見てくるが何も言わない。
「…リンカはホワイト男爵令嬢が病弱では無かった事を知らなかった。知らなかったのならウィラード令息に言える筈もない。」
サーマンの言葉に誰も反論出来ない。そもそもリンカが知っていたどうかは問題ではない。リンカが言っていないにも関わらず、ウィラードが知っていた事が問題なのだ。
「ウィラード令息、先程のホワイト男爵令嬢への態度からして君が彼女に指示を出したのか?」
「っ…。」
再び視線はウィラードに集まる。青褪めるウィラードの顔をリンカは静かに見つめた。
まだ話し合いの回は続きます。ウィラードの駄目っぷり満載回でした。ウィラードは追い詰められ、混乱する中で頑張って抵抗したのではないのでしょうか 笑 ラリーもウィラードを庇うために発言する行動を見せました。でもラリーの好感度は上がらないのでしょうが… 笑
ここまで読んで頂き有難うございました! もし宜しければ評価して頂けると嬉しいです。




