17.話し合いと暴かれる嘘 1
話し合いの回です。暫く続きます
「早速だが、今回の件について確認させて頂きたい。」
サーマンの声が室内に響く。ホワイト男爵家の食堂にリンカ、リンカの父であるサーマン、ウィラード、ウィラードの父であるドラート、ラリー、ラリーの父であるアレンの6人が集まっていた。ラリーの行いについて確認する為に何時集まれるのかを手紙や使用人を使ってやり取りをした結果、翌日の夜に話をする事が決まった。
「私の娘リンカと婚約者であるウィラード子息のデート中に、ウィラード子息の幼馴染であるラリー・ホワイト男爵令嬢がリンカに接触した、との事で間違いは無いだろうか?」
「はい。」
リンカは肯定した。
「はい、ウィラードも2人が一緒に居る所を目撃しております。」
ドラートも肯定し、隣に座るウィラードも頷いた。
「…はい、私も娘に確認しました。間違いありません。」
アレンは硬い表情をしながらも同じく同意する。父親の様子を気にする事なくラリーはそれが何か、とでも言うように澄ました顔をしている。
「ではリンカ、ホワイト令嬢に何を言われたのかお前から話しなさい。」
「はい。」
リンカが返事をすると、ラリーはリンカを険しい表情で見つめてきた。
「ホワイト男爵令嬢はウィラードに昔から想いを寄せている事、ウィラードと結婚したいと思っている事、そして私のような冷たい人はウィラードの婚約者に相応しくないと言いました。」
リンカは簡潔に淡々と報告する。リンカの言葉にアレンは気不味そうに目を伏せる。
「ホワイト男爵令嬢、何か言いたい事はないか?」
「…いいえ、ありませんわ。」
サーマンがラリーに質問すると、ラリーは反論せずにリンカの言う事は事実だと認めた。
「私の方がウィラードに相応しいですもの。その事実をノアール子爵令嬢に教えてあげただけです。」
「〜っ、申し訳ありませんでしたっ!」
娘の発言にアレンは深く頭を下げながら謝罪する。
「娘が何故そんな愚かな事をノアール子爵令嬢に言ったのか…恥じるばかりで御座います!」
「…。」
必死に謝罪をするアレンの隣で、ラリーは何か言いたげな目線を送っているが何も言わない。
「ホワイト男爵令嬢の今回の言動は彼女の独断なのか? 男爵は何も関与していないのか?」
「も、勿論です!」
アレンがラリーを唆したのではないのかと、サーマンは疑うような言葉をかけるとアレンはすぐに否定した。
「ホワイト男爵令嬢、今回の事は令嬢の独断でやった事なのか?」
「…ええ、そうですよ。」
ラリーは自分の判断でやった事だと認めた。ラリーの行動は男爵家にとって不利益でしかない。アレンがラリーにやらせたとはとても考えにくかった。とはいえ、今まで婚約者がいる幼馴染を何度も呼び出したラリーを赦してきた存在でもある。何らかの意図を持ってラリーを唆した可能性もあるかもしれない、とリンカは思った。
「何れにせよ。ホワイト男爵令嬢の言動は非常識であるとしか言いようがない。我がノアール子爵家の令嬢を侮辱し、シアン子爵家と決めた婚約を侮辱した。男爵令嬢の独断であったとしても男爵に責任がないとは言えないな。」
「…確かにそうですね。何も証拠はなく、ラリー嬢が認めている以上私は男爵は関わっていないと思ってはおりますがね。」
「…はい。」
ウィラードの父であるドラートはアレンを庇うような発言はするも、ドラートの意見に同意する。アレンは頭を下げたままで表情は見えない。
「シアン子爵、それにウィラード子息はホワイト男爵令嬢の想いに気が付かなかったのか?」
「はい、全く気が付きませんでした。」
「…僕もです。幼馴染として仲が良いとしか思っておりませんでしたから…。」
サーマンの質問に、ウィラードとドラートは気不味そうな顔をしながら頷いた。
「もう、ウィルは本当に鈍いんだから…。」
「黙っていろラリー…。」
ラリーが膨れっ面をして拗ねたようにウィラードに言うと、アレンが冷たい声でラリーに黙れと告げる。
「我がノアール子爵家としては今回の件を謝罪の言葉だけで有耶無耶にするつもりは全くない。」
「…分かっております。ノアール子爵がお望みになる額を支払いさせて頂きたいと思います。ですからどうか、今回の事は周囲に黙って頂けないでしょうか?!」
アレンは謝罪をするもラリーの醜聞を広められる事を避ける為、慰謝料だけで済ませて欲しいと懇願する。
「…令嬢の事はどうするつもりだ?」
ラリー本人に何のお咎めもなく済ませるつもりなのか、と被害者の父親としてサーマンは加害者の父親であるアレンに尋ねる。慰謝料の額によってはラリーの事を隠す事を考えるのかも知れないが、ラリーの行いを金で見逃せばノアール子爵家はアレンに舐められてしまう等とサーマンは考えているのだろうのリンカは思う。
「…ラリーは、社交界から外します。」
アレンの言葉にリンカもサーマンも目を見開いた。
「今更ではありますが、ラリーはウィラード子息の事でノアール子爵令嬢に不快な想いをさせてしまったと思います。そして今回の件も踏まえまして、こうするべきだと思いました。」
他家の、しかも自分達より格上の家同士の結婚に口を挟むなんてあり得ない行動ではあるが、それだけで社交界から外されるのはとても重い罰のように感じる。しかしラリーの場合は今までリンカとウィラードの婚約者としての時間を奪ってきた事も踏まえた上での判断だとアレンは説明した。
「しかし、令嬢が社交場から消えれば良からぬ噂が広まるのではないか?」
リンカ達が今回の件を黙っていてもラリーが社交場から居なくなれば、何かやらかしたに違いないと噂は広がるだろう。サーマンとしては情けをかけるつもりは無いのだろうが、それで良いのかと確認するかのようにアレンを見据えた。
「…それについては、ノアール子爵にお許し頂けるのであれば療養の為に離れる、という名目を使わせて頂きたいのです。」
「…。」
サーマンはアレンから目線を逸らさずに腕を組んで黙り込んだ。サーマン以外の全員が、サーマンが何と言うのかを待って沈黙する。
「…リンカ、お前はどう思う?」
暫くすると、サーマンはリンカに質問した。サーマンとしては慰謝料とラリーの社交場からの追放で手を打つのは悪くない、と考えていると言う事なのだろう。後は今回侮辱されたリンカに確認をとって、リンカも了承すればそれで終わり、という事だ。
「…一つだけ良いですか?」
リンカとしてもサーマンと同じように慰謝料とラリーの追放で納得は出来ている。これ以上の罰は必要ない。だがある事を確認する為に発言する事にした。
「…何だ?」
娘の言葉に眉を顰めるサーマンの顔をリンカは見た後、他に目線を送る。何を言われるのかと警戒した様子を見せるアレン。この期に及んでも忌々しげにリンカを睨みつけてくるラリー。何処か気を張り詰めた様子でリンカを見るドラート。
「…。」
そして、リンカと目が合うと何かを期待するかのように口元を緩めるウィラード。全員の顔を確認した後、リンカはラリーに目線を固定した。
「ホワイト男爵令嬢の口から、謝罪の言葉を聞きたいのです。」
「なっ…!?」
ラリーが声をあげる。
「ウィラードへの気持ちを告白されるのはまだしも、私の人格を侮辱した事について貴女からの謝罪を聞いておりません。」
リンカは言い終わるとサーマンを見た。
「ホワイト男爵家からノアール子爵家への謝罪としては先程の提案に不満はありません。お父様の決定に従います。ですが私個人への謝罪として、ホワイト男爵令嬢からの謝罪を要求したいです。」
「…確かにな。」
この状況になれば、言われずとも謝罪の言葉くらいはとっくに口にしている筈だ。だが謝罪を口にしているのはアレンだけで、加害者のラリーは一言も謝っていない。サーマンもリンカの主張は最もだと言わんばかりに同意した。
「ラリー、今すぐノアール子爵令嬢に謝罪しろ!」
サーマンが何か言う前に、アレンがラリーを責める。
「な、なんで態々そんな事を言わなくてはならないのですか!?」
ラリーはどうしてもリンカに謝りたくないのか渋ってくる。
「慰謝料と私の田舎行きで話は終わったのでしょう? それなのにノアール子爵令嬢の我儘に付き合わないといけないのですかっ!? 本当に心が狭い方…」
――パァンッ!!
ラリーの言葉にリンカが何かしらの感情を抱く前に、アレンはラリーの頬を引っ叩く音と光景が広がりリンカは固まった。
「っ、お、お父…さま?」
「今すぐ謝れぇっ!!」
何が起こったのか理解出来ていない様子のラリーが引っ叩かれた頬に手を当てながら呆然とアレンを見ていると、アレンは憎しみを込めた目でラリーを見ながら怒鳴り付ける。その光景にリンカだけでなく、アレン以外の全員が目を見開いていた。
「…う、うぅっ…ひ、酷っ…い…。」
ラリーは涙目になっていき、嗚咽し始める。
「泣く前に謝れっ!!」
――バンッ!!
アレンは次にラリーの目の前にある机を力一杯に叩いた。威圧ある声と机の音にラリーは怯えたように顔を青褪めさせる。
「ひぃっ! ご、ごめんなさい…!」
ラリーは一瞬だけリンカに目線を合わせた後すぐに頭を下げた。リンカに対する謝罪の気持ちなんて欠片もない。アレンへの恐怖から謝罪の言葉を吐いたに過ぎないのだろう。
「…謝罪を受け入れます。」
けれどまさかアレンがラリーに暴力を振るだなんて思いもしなかった為、リンカはこれ以上面倒な事にならないようにこのまま謝罪を受け入れる事にした。
「う、うぅっ…。」
俯いたままのラリーから啜り泣く声が響く。
「…シアン子爵、ここから先は私達と男爵だけで話をしようと思う。」
慰謝料の額についての話はまだ残っているが、ドラートとウィラードが同席する必要のない話となる。
「えっ、…そ、そうですか。」
ドラートは戸惑った様子を見せる。別に驚くような事でもないだろうとサーマンは不思議そうにドラートを見た。
「い、いや、ちょっと待って下さいっ!」
納得出来ないと、言わんばかりにウィラードが急に焦ったような声を出した。
サーマンが裁判官みたいになってしまいました 笑 こういう場合になった時の話し合いってどんな感じになるんですかね。ラリーの言動に耐えられなくなった父、アレンが暴力を振るってしまいました。ラリーの心境や如何に…。そして最後に口を挟んだウィラードは何を言うのか? …といっても皆様は大体予想できてますよね 笑
ここまで読んで頂き有難うございました! もし宜しければ評価して頂けると嬉しいです!




