16.婚約者の報告と企み
シアン子爵家での親子の会話です。
「…今なんと言ったんだ。」
呆然とするドラートに、ウィラードは満足そうな笑みを浮かべた。
「ラリーがリンカに全てを話しました。僕を愛している事、僕を繋ぎ止める為に病弱だと嘘をついていた事をね。」
リンカがサーマンに報告している時間と同じ時刻に、ウィラードもドラートに話をしていた。
「それと、リンカは僕に相応しくないと彼女を侮辱しました。」
「なっ! …何故お前とリンカ嬢が居る店にラリー嬢が来ていたのだ?! それにどうしてそんな事が起こってしまったんだっ!?」
ドラートは焦ったように声を荒げた。
「僕がラリーにお願いしたんです。」
ウィラードの言葉にドラートは固まり、反対にウィラードは余裕そうな笑みを浮かべた。
「今頃リンカはノアール子爵にラリーに言われた事を全て報告しているでしょう。リンカは僕がラリーの嘘に気が付いていないと思ってます。これでリンカにとって僕は可哀想な被害者となりました。」
――ダァンッ!
ウィラードが話し終わった途端にドラートが机を両手で強く叩きつける音が響き渡る。
「何故そんな勝手な真似をしたっ!!?」
「っ!」
ドラートの怒りの形相にウィラードは一瞬怯えた様子を見せるがすぐにドラートを睨み返した。
「…リンカと周りからの僕の悪評を回復させる為です。それにラリーの事が赦せないからですよ。」
ラリーへの処遇はウィラードからすれば罰なんてとても言えない生易しすぎるものだ。ラリーのせいでウィラードは大変な思いをしているのだからその償いをして貰っただけだ。
「あの時か…。」
ドラートは忌々しげにウィラードを見ながら呟く。ウィラードとラリーの接触を禁止した後、ウィラードは最後にもう一度ラリーに会いたいと懇願してきた。その2日後にホワイト男爵家に行き、短い時間の間だけ最後の情けにウィラードとラリーを2人きりにしたのだった。
「…お前はリンカ嬢と約束をした後、ラリー嬢にあの店で会う事を教えたんだな。」
「そうですよ。」
「…ホワイト男爵、何故ラリー嬢の外出を許可したんだ!」
ウィラードはドラートに感謝するような穏やかな声で頷くが、ドラートはウィラードとラリーを2人きりにした事への後悔と、ラリーの外出を許したであろうホワイト男爵を責めるかのように顔を顰める。
「…それで、ラリー嬢にお前は何を言って協力させたんだ?」
「ラリーと結婚する良い方法を考えたから協力して欲しいと言ってお願いしました。何も疑う様子を見せませんでしたよ。」
ウィラードはラリーに、リンカに全てを話して文句を言ってくれれば結婚出来るから協力して欲しいと頼んだ。迷わずに頷いたラリーの姿を思い出し、その愚かさをウィラードは嘲笑う。
「〜っ、そんな嘘で騙したのか!」
ウィラードの言葉と笑みに、ドラートはウィラードの非道な行いを非難する。
「先に騙したのはラリーの方ではないですか! 僕だけでなくて皆も騙したんです! 自業自得ですよ。」
ウィラードはすかさず反論する。ラリーへの罪悪感なんて欠片もなかった。ウィラードからしてみれば、やり返してやっただけに過ぎない。
「リンカとノアール子爵達はホワイト男爵家に抗議する筈です。ラリーには僕に頼まれた事は言わないように言ってあります。全てはラリーが勝手にやった事であり、全ての責任はホワイト男爵家にあります。」
ラリーの嘘が世間に広まれば、ウィラードがラリーの嘘を見抜けなかったマヌケだと言われるかもしれない。しかしラリーを非難させる事は出来るし、リンカが同情してウィラードを気にかけてくれれば何れは誰からも非難されなくなる筈だ。非難されるのはホワイト男爵家だけであり、シアン子爵家に影響が及ぼされる事はない。
「まさかとは思いますが、僕のした事をノアール子爵達に言いませんよね? そんな事をすればシアン子爵家はとても不味い事になりますよ?」
「っ、誰のせいでこうなったと思っているんだっ!!」
念を押すようにウィラードがドラートに言うと、ドラートは否定してこなかった。しかしそもそもこの状況を作り出した責任はウィラードにある、と言わんばかりに怒鳴ってきた。
「っ、五月蝿い! そんな事は分かっているんだぁっ!!」
「っ!」
ウィラードはドラートの言葉に我慢出来ずに怒鳴り返した。ドラートはウィラードの豹変ぶりに目を丸くする。
「僕にも責任がある事は重々承知しておりますよ! だから、僕は何とかするために行動したんです! …でも一番悪いのはラリーでしょう? 僕は自分の置かれた状況とラリーの待遇が赦せなかっただけですっ!」
声を荒げたウィラードは、自分を落ち着かせるように息を吐いた。
「はぁっ、…ラリーの嘘が知れ渡れば、ラリーは田舎ではなく修道院に送り込まれますかね。」
「ウィラード…。」
騙されていたとはいえ、少し前まで大切に思っていた筈の幼馴染を追い詰めようとするウィラードの行動にドラートは息を呑んだ。
「ラリーとは二度と会わないように言われましたが、ノアール子爵家とホワイト男爵家での話し合いに呼ばれたら僕もラリーも同席する事になるでしょう。それは仕方がないですよね?」
ウィラードがリンカとラリーに関わりがあり、そして店でリンカとラリーが会っている現場の目撃者である限り、ウィラードとラリーのどちらも欠席させる事は不可能だ。
「ホワイト男爵が僕達を道連れにしようとしてきても、僕達は否定し続ければ良いだけです。ラリーは僕が不利になる事はしませんし、僕と父上が黙ってさえいれば上手くいきます。」
ホワイト男爵からしてみてもラリーの身勝手な行動としか思わないだろう。だがリンカ達にバレてしまった以上、シアン子爵家もこの事実を知っていた等といって巻き込んでくる可能性をウィラードは考えていない訳では無い。だが何の証拠も無い以上、ウィラードが企みがバレる事はない。
「…もしお前のした事がバレてしまったら、罰を受ける覚悟はあるか?」
ドラートの脅すような、低い声がウィラードの耳に届く。
「っ、ええ、勿論ですよ。」
ドラートの圧に気圧されながらもウィラードは自信のある笑みを取り繕い頷いた。万が一にもリンカにバレたらウィラードはただでは済まなくなる。周囲からの評価も今以上に下がり最悪な環境に置かれるだろう。
「必ず上手くいきます。」
ウィラードを冷たく睨み付けながらも、ウィラードの提案を受け入れるしかないドラートを、ウィラードは真っ直ぐに見つめ返した。
ウィラードのダメっぷりとクズ感を感じる回でした。最後まで読まなくてもウィラードの計画が上手くいかないと分かりますよね 笑 ラリーが赦せないという気持ちに同情と共感する人もいるかもしれませんが、やり方が駄目ですよね。父親も子爵家の為に沈黙する事を選んでしまいました。そんなお話でした。
ここまで読んで下さり有難うございました! もし宜しければ評価して頂けると嬉しいです!!




