13.幼馴染の今後と婚約者への誘い
前半ウィラード、後半はリンカの話です。
「ラリーの事を公にしないのですかっ!?」
ウィラードは納得出来ないとばかりに声を張り上げてドラートを見た。
ウィラード達がホワイト男爵家を訪れた翌日、ホワイト男爵家から手紙が届いた。ラリーの今後についての報告と改めて謝罪の場を設けさせて欲しいという言葉と、ラリーの今後について一先ず決定した内容が書かれていた。
ラリーが病弱だと偽っていた事は秘密にする事。ラリーは体調は良くならず、悪化し続けている事にして療養の為という名目で男爵家が所有している田舎の屋敷に閉じ込める事。ラリーがこの先反省しても社交界の場に復帰させず、貴族との結婚を赦さない事をドラートの口から読み上げられた。つまり、公言はしないがラリーをホワイト男爵家から除籍するという事なのだろう。
「ホワイト男爵は自分の立場が悪くなるのを回避しようとしているんですね…。」
アレンだってラリーに騙されていた被害者である事をウィラードは頭では理解している。しかしアレンが娘の嘘に気が付かなかったせいでウィラードが酷い目にあっているのにという怨みの気持ちもある。ラリーへの処遇は全て、ホワイト男爵家の立場を悪くしない為の処置としかウィラードには思えない。
「男爵の立場を守る為も当然あるな。だが私達の立場も考えれば妥当とも言えるな。」
「は? 僕達の事を考えるなら真実を公表して謝罪するべきでしょう!?」
ドラートの言葉にウィラードはすかさず反論する。ホワイト男爵がラリーの嘘を公にしてウィラード達に謝罪する事が、ウィラードの名誉を回復させる最善の手段だとウィラードは思っている。
「それに、ラリーは田舎に連れて行かれるだけで何の罰も受けないではありませんか!」
ラリーの事が知れ渡れば、ラリーを非難する噂が広まりそれを口実に修道院に押し込める事が出来るかもしれない。修道院の戒律はとても厳しいらしく、甘やかされてきたラリーへの罰として相応しい筈だ。
「ウィラード、公になれば非難されるのはホワイト男爵家だけではない。私達もだ。」
「…え?」
ウィラードの考えを見透かした様子でアレンは言う。
「男爵令嬢の嘘に騙され続けた見る目のない子爵令息、と噂が出るだろうな。それにお前が本当にラリー嬢の嘘に気が付かなかったかと、疑問に思う声も出るかもな。」
「っ、な、何ですかそれ…!」
ウィラードの声が怒りに震える。被害者であるウィラードを愚か者だと嘲笑われるだけでも耐え難いのに、ラリーが嘘をついていると知っていたのに会っていたと思われるだなんて…。
「お前とラリー嬢は両想いだがリンカ令嬢との婚約があるから結ばれない。何とかしようと思ったお前とラリー嬢、そしてホワイト男爵が協力していたと思う輩も現れるだろうな。」
「ふ、巫山戯ないで頂きたいっ!」
「それが噂というものだ。」
顔を真っ赤にして憤るウィラードにドラートはあっさりと言い返す。ある事ない事を時に面白可笑しく、時に悪意を持って広まるのが噂というものである。
ウィラードに約束を破られ続けた被害者であるリンカだって悪く言われている事を忘れているのか、ウィラードは何故自分も悪く言われなければならないのかと納得出来ずにドラートを睨みつける。
「我が家の為にもこの提案を受け入れた方が良い。病弱な幼馴染を心配し、婚約者より優先していたというお前の評価も、ラリー嬢が療養を選択する程悪化していたという事にすれば多少はマシになる筈だ。」
「っ…。」
ラリーの嘘は両家の秘密にする事が最善策だと判断したドラートの主張に、何も反論が出来ずにウィラードは悔しそうに下唇を噛んだ。
ウィラードは誰も味方がいない、気が休まる事のない社交場に居続けなくてはならない。それなのに全ての原因であるラリーは社交場から離れて田舎で呑気に過ごしていく…とても納得が出来ない。
「良いかウィラード、くれぐれも妙な真似をするなよ。」
ウィラードの様子に何を思ったのかドラートは釘を刺すように忠告する。
「私もホワイト男爵に思う所はある。だがラリー嬢の嘘に気がつけなかったのは私とお前も同じだ。」
「…。」
ドラートの言葉にウィラードは顔を顰める。ウィラードだってそんな事は分かっているが、自分が被害者である事実も変わらないだろうという理不尽さも感じている。
「周りに何を言われても、リンカ令嬢の態度に思う事があっても受け入れろ。お前が何もしなければこれ以上状況が悪くなる事はない筈だ。」
「…。」
“これ以上悪くなる事はない”という言葉に、ウィラードが感じたのは前向きになる希望的な気持ちではなく、ウィラードの今の辛さを汲み取ってくれない父親に対する苛立ちだった。
「もうラリー嬢とお前が関わる事はない。気持ちを切り替えろ。」
「…待って下さい、父上。」
ラリーとウィラードが会う事はもうない。その言葉にウィラードは反応した。
「最後に一度だけ、ラリーに会わせて下さい。」
「…何だと?」
ドラートは眉を顰めながらウィラードを見た。
「ホワイト男爵がラリー嬢に何を言っているかは知らないが、昨日の今日で反省するとはとても思えない。昨日も言ったがお前達の今後の接触は禁止だ。」
当然のようにドラートは許可しない。昨日のラリーのウィラードへの愛情と非常識さを思い出せばそう思うのは当然だとウィラードも思った。
「分かっています。でも無駄かもしれませんが最後に、最後に一度だけ話をさせて欲しいのです。もしラリーが反省してくれたとしても、二度と会いたいだなんてお願いしません。」
ウィラードはドラートに頭を下げる。
「最後に一度だけ、どうかお願いします。」
「…。」
ドラートはウィラードを静かに見つめた。
◆◇◆
「リンカお嬢様、シアン子爵令息からお手紙が届いております。」
「ウィラードから…?」
アイリスとの時間を楽しみ、ノアール子爵家に帰宅して部屋で寛いでいたリンカの元にウィラードからの手紙が届いた。
リンカは封を開けて手紙を読む。そこには夜会の後の自分の発言について謝罪する言葉と、近い内に一緒に食事をしないかという誘いが書かれていた。
希望日は何時が良いか。何処の店に行きたいか。リンカに希望が無ければウィラードのお気に入りの店を予約したいがどうだろうか。それとも食事ではなくて他に行きたい場所があるだろうか。等と何も問題がない丁寧な誘い文章だ。
「…特に行きたい場所はないわね。」
断る理由は何もない。リンカはウィラードのお気に入りの店での食事で良い事と、希望日を返事の手紙に書いていく。書いた文章に誤字脱字、不備がないかを確認すると使用人に手紙を届けるように頼んだ。
「…さて、何を着て行こうかしらね。」
ウィラードへの希望日は明後日以降で希望を出した。近い内にと書いてきたのはウィラードである為、明後日か3日後くらいでどうかと返事が来るのではないかとリンカは予測する。
集まりではないがそれなりの装いをしなくてはならない。楽しみだなんて感情は全くなく、少し面倒臭いと思いながら何を着ていこうかとリンカは思案するのであった。
リンカがほんの少し、殆どウィラードの話でした。ウィラードの今後の行動については予想されやすいと思います。小説において、『何もするな』というのは何かをするフラグですよね 笑 主人公はウィラードの方なのではないかと思えてしまう程出番の多いウィラードです。
こんなお話ですが最後まで読んで頂けると嬉しいです。読んで下さり有難うございました!




