11.幼馴染の嘘 2
シアン子爵家とホワイト男爵家の話し合いの続きです。
「病弱なのは…嘘だと?」
アレンが信じられない様子でラリーに聞くと、ラリーは悪そびれた様子もなく頷いた。
「ええ、そうよお父様! 私は健康そのものだわ!」
「っ!? …だ、だったら何故そんな嘘をずっとついていたんだ…!」
顔色を悪くしながらも必死な様子で詰め寄るアレンの様子に気が付かないのか、ラリーは悪戯を発見されても反省しない子供のように平気そうな顔をしながら嘘をつき続けた理由を話し始めた。
「私は気が付いた時にはウィラードの事が好きだったの。私はウィラードさえ傍に居てくれれば他の人なんか要らなかったわ。でも、ウィラードは私以外の人と仲良くなろうとしてた。それが凄く悲しくて、許せなかったの。」
「……。」
ラリー以外の人と仲良くなろうとした、というのは貴族同士の集まりに参加しようとした事を言っているのだろう。それは貴族としての義務である為ウィラードは全く悪くない。寧ろウィラードへの異様な愛情と、ウィラードだけで良いなどと言って周りと交流しようとしないラリーの発言と態度に、ラリー以外の3人は眉を顰めた。
「でもある日、私が高熱を出して倒れてしまった事を覚えているかしら? そうしたらウィルは他の人との約束を破って私を心配して来てくれたわよね! そしてその後も、私に何かあれば私を優先してくれた!」
「……。」
つまりラリーは、体調不良だと言えば自分の元にウィラードが来てくれる事を理解して、ウィラードを離さない為に病弱な振りをする事に決めたという事なのだろう…。
「…僕を傍に置き続ける為に、病弱だと嘘をつき続けたんだな。」
ウィラードは穏やかな笑みを浮かべてラリーを見ている。しかし内心は穏やかではいられなくなっていた。本当は心の何処かでラリーの病弱さは嘘なのではないか、と疑問に思う事は何度もあった。それにリンカの話を聞いてその疑惑は強くなっていた。けれども大切な幼馴染のラリーを信じたい気持ちと、自分が騙されていただなんて思いたくなくて目を逸らし続けていた。
「そうよ! ウィルを愛していたから…。」
ラリーは照れている様子で、けれど切ない恋心を抱いているかのような熱の籠った目でウィラードを見つめる。
「…そっか。」
ラリーと距離を置く事をドラートに強要され、話し合いが始まった時はラリーと距離が離れる事を心からウィラードは悲しんでいた。しかしラリーがウィラードを恋愛対象として想っていた事を知り、ウィラードの中で嫌な予感が膨れ上がった。違っていて欲しいと願いながら、結婚の可能性を浮上させてラリーを試してみればその予感は的中してしまった。
その事実はウィラードのラリーに対する感情を、ラリーとは正反対に冷え切ったモノへと変えていく…。
「それなのにウィルはノアール子爵令嬢と婚約者になってしまって…私がどんなに辛かったか分かる? でもウィルだって辛かったわよね。私と結婚出来ないだけじゃなくて、あんな冷たい女なんかと…。」
幼馴染のラリーの為に、そう思って諦めた交流の場と婚約者であるリンカとの約束。そして今の自分の現状…。
「シアン子爵、ノアール子爵令嬢はウィルの事を愛しているとは思えません。それに、とても冷たい性格の持ち主なんです! そんな人とウィルが結婚しても幸せになれるとは思えません!」
ラリーは自信たっぷりな様子で言い放つ。ドラートとアレンはラリーの衝撃的な発言の数々に何を言えば良いのか分からない様子で呆然としていた。しかし次第にドラートは眉を顰めてラリーに怒りを浮かべていく。
「僕に悪い事をしているとは思わなかったのか?」
口を開こうとしたドラートの前に、冷めきった無表情になったウィラードがラリーに問いかけていた。
「嘘をついて僕の時間を奪って、何とも思わなかったのか? ラリーに罪悪感はなかったのか?」
「えっ…、ウィル?」
ウィルの変わりようとその問いに、ラリーは困惑した様子を見せる。
「ど、どうしたのよウィル! 私と一緒に居られてウィルだって嬉しかったでしょう?」
「…何とも思ってないんだな。」
ウィラードは苦しそうな笑みを浮かべた。
「ははっ…、やっぱり君は、自分の事ばかりで僕を尊重してくれた事は今まで一度もなかったんだな。」
心の拠り所を求めて忘れていたラリーへの不満が膨れ上がり、ウィラードの心は支配されていく。
「…奪われていたのは婚約者との時間だけじゃない。今までの時間、僕は何て無意味な事に浪費していたんだ…。」
「なっ! “奪われていた”って、何よその言い方は!? そ、それに“無意味”…? な、何でそんな酷い事を言うのよウィル! おまけに“尊重”って、あの女みたいな言葉を言うだなんて…っ!」
「黙りなさいっ、ラリー!!」
ラリーの言葉を静止するようにアレンが大声を出した。
「ひっ! お、お父様…!?」
普段怒られた事がないのであろう。ラリーは身体をビクッと震わせながらアレンを見た。
「…どうやら、問題は解決しそうだな。」
ドラートの言葉にアレンは気不味そうに、ラリーは目を輝かせてドラートを見た。
「で、では私とウィルの婚約を認めて下さるのですね!」
「そんな訳無いだろう! …も、申し訳ありませんでしたシアン子爵、それにウィラード君! こんな、こんな嘘に今まで気が付かなかった自分が恥ずかしい限りです!」
能天気なラリーを叱り、頭を深く下げるアレン。ラリーは状況を把握していないのか呆然とアレンを見つめている。
「…ウィラードとラリー嬢の交流についてだが、距離を置く等と言わずに、今後一切禁止にしたいのだがどう思う?」
「えっ…ど、どうしてですかっ!?」
冷めた目つきで冷たく言うドラートに、ラリーは衝撃とショックを受けた様子で声を上げた。
「…はい、従います。」
アレンは頭を下げたまま抵抗せずに受け入れた。
「え、いや…ま、待って下さい! 私とウィルの婚約の話はどうなるのですか? 私は病弱じゃないんですから認められるんですよね?」
「認められる訳がないだろうがっ!! いい加減にしろっ!! これ以上何も喋るなっ!!」
「っ…!」
現状を理解出来ていないラリーに、アレンは苛立ちと怒りを娘にぶつける。流石のラリーも怯えた様子を見せて黙り込んだ。
「…ホワイト男爵、親子で話さなければならない事が沢山あるだろう。我々はこれで失礼させて貰う。だがラリー嬢の今後の方針が決まったら、私にも教えてくれないだろうか?」
「っ! も、勿論です…本当に、申し訳ありませんでしたっ…。」
アレンは再び頭を下げる。ラリーは病弱だと偽り、アレンとウィラード達だけでなくてホワイト男爵家を知る者達を騙した。しかしラリーのした事は罪に問える程の事ではない。それにラリーの嘘を見破れなかったのはアレンやドラート、ウィラード達の失態でもある。
しかしラリーのせいで迷惑をかけられた事も事実である。とくに迷惑をかけられたシアン子爵一家には罪に問えずとも文句を言う権利はある。男爵家よりも上の地位なのだから尚更だ。ホワイト男爵の謝罪だけでは満足なんて到底出来ない。ラリーの今後の処遇について納得できなければドラートは家の力を使ってでも口を出させて貰う予定だ。
「…な、何で私が怒られないといけないの? ね、ねぇウィル、何とか言ってよ…!」
「…。」
怯えながらも文句を言うラリーの声はウィラードの耳に届いている。しかしウィラードはラリーと目線を合わせようとせずに俯いた。
「それでは失礼させて貰う、帰るぞウィラード。」
「…はい。」
まだ何かを言おうとするラリーをアレンが静止する姿を見ながらドラートとウィラードはホワイト男爵家を後にする。疲れ切った様子で今後の事を考えるドラートと、冷たい光を宿した目をした無表情なウィラードは帰り道を無言で歩き出した…。
何だかラリーが愛の重いヤンデレに近いキャラになってしまったような気がします 笑 次回はリンカを登場させたいです!
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