10.幼馴染の嘘 1
シアン子爵家、ホワイト男爵家の親子同士のお話です。続きます。
「急な来訪にも関わらず、迎えてくれた事に感謝する。」
「いえ、私達の仲ではありませんか!」
翌日、ウィラードとドラートはホワイト男爵家を訪れた。事前の連絡もなく突然やって来たウィラード達にラリーの父親であるアレン・ホワイト男爵は驚きつつも2人を招いた。
「…本当に感謝する。一刻も早く直接伝えたかったのでね。それに、ラリー嬢にも話を聞いて欲しかった。体調は大丈夫か?」
「は、はいっ。今日は調子が良いんです!」
ウィラードの父であるドラートに笑みを浮かべてラリーは元気だというアピールをする。
アレンに呼ばれてきたラリーはウィラードの姿に笑みを浮かべるが、ウィラードの何処か沈んだ様子とドラートも居た事で不穏な空気を感じ取ったのか少し緊張した様子を見せた。
「…では、単刀直入に言わせて貰う。家のウィラードとそちらのラリー嬢との私的なお付き合いは今後控えさせて頂きたい。」
「えっ…!?」
「なっ!?」
ラリーとアレンは目を見開いて固まる。
「ウィラードの評判をこれ以上下げない為です。男爵もラリー嬢も、私が言いたい事は理解出来るだろう?」
「それはっ…し、しかしラリーの事もありますし…。」
アレンはウィラードの噂とそれに伴う現状を理解している様子だが、愛娘のラリーにとって心の拠り所であるウィラードとの距離を置かれる事を避けたい様子を見せる。
「ウィラードの将来がかかっている。それにラリー嬢としても幼馴染とはいえ、婚約者のいる令息とばかり一緒に居るのは良くないのではないか?」
「…。」
「そ、そんな…。」
ドラートの指摘にアレンは何も言い返せずに黙り込み、ラリーは悲しそうな顔をした。
「他家の事に口を挟むのはどうかと思うが、ラリー嬢の将来の事を考えるのであればウィラードと距離を置く事が彼女の為にもなるのではないか?」
将来、病弱なラリーを結婚させるかどうかはアレン次第だ。だがこのまま婚約者の居る令息と一緒に居続ければまともな相手が出来なくなるかもしれない。
「それはっ…分かってはおります。しかし、ラリーの不調を支えられるのはウィラード君しか居ないものですから…。」
アレンもラリーの将来が危うくなる事は理解している様子だ。しかし辛そうな娘の姿に耐えられず、ウィラードを頼ってきたのだろう。
「…ラリー嬢、残酷な願いだと承知の上で言わせて貰う。ウィラードの将来の為に我慢して頂きたい。」
「っ!?」
ドラートはラリーを真っ直ぐ見る。ラリーはショックで表情を歪めた。ラリーを気の毒に思う気持ちはドラートにもある。しかしドラートが優先すべきはシアン子爵家とウィラードの未来だ。
「…い、嫌です。ま、待って下さい! わ、私はウィルが居ないと…。」
「ラリー…。」
ラリーは涙目になりながら首を振って拒否する。ウィラードも悲しそうにラリーを見た。
「…ウィラードが居なくても大丈夫になる方法を私も探すと約束する。だから聞き入れて欲しい。」
「ちがっ、…違いますっ!」
ドラートに何か考えがある訳ではない。しかしドラートもラリーを心配する気持ちはある。その場を凌ぐ為ではなく、心から協力するつもりで言った。しかしラリーはドラートの言葉にも首を振り、ウィラードを真っ直ぐに見つめた。
「わ、私はウィルの事が好きなんです! 離れたくなんてありません!」
「っ!?」
「ラ、ラリーっ…?」
ラリーの告白にドラートとウィラードは驚愕した。
「わ、私はずっとウィルの事を愛しているんです。だ、だから離れたくありません!」
「ラリー…。」
アレンはラリーを気遣うように背中を優しく擦る。
「ほ、本当は…、私がウィラードと結婚したいんです。わ、私じゃダメなんですか!?」
「…。」
ラリーの訴えにどう答えるべきか分からずドラートは黙る。ホワイト男爵家よりノアール子爵家の方が地位が上なのは誰にでも分かる。それに両家に利益があるからウィラードとリンカの結婚を望んだ。だがウィラードへの報われない想いに悲しむ病弱な令嬢に、その事実をそのまま言うのは気が引けてしまう…。
「わ、私が病弱だから、認めて貰えないのですか…?」
病弱である、確かにそれも理由の一つだ。当主だけでなく夫人にも役割がある。それに跡継ぎを産む事も必要だ。ウィラードが傍に居ないと不安で堪らない程の体調不良を起こすラリーに、夫人としても務めが果たせられるとは思えない。
「…ラリー、仕方が無いだろう。」
ドラートが返答を考えていると、アレンがラリーに諦めるように優しく声をかけた。アレンはドラートの思いを理解している様子でドラートが答える前に言った。
「お前の体調が少しでも良くなるように、今まで以上に方法を探そう。」
「私が病弱じゃなくなれば、ウィルの婚約者にして貰えるのですか?!」
ドラートの態度とアレンの言葉に何を思ったのか、ラリーが希望を見出したかのようにドラートを見た。
「ラリー、どうしたんだ?」
「ウィル! 貴方も私と結婚出来るならその方が良いでしょう?」
ウィラードがラリーに声をかけると、ラリーは笑みを浮かべる。ラリーが健康になったところで結婚出来るとは言っていない。政略が絡む限りウィラードとラリーが結ばれる事はない。
「…ラリー嬢。」
ドラートはラリーの異様な様子に内心頭を抱えながらもウィラードとの結婚は無理だと話そうとした。
「そうだ、と言ったら?」
だがその前に、ウィラードが口を開いた。
「…! おい、ウィラード…?」
勝手な事を言うウィラードに、ドラートが文句を言おうとするとウィラードが意味深にドラートを見返した。ウィラードに何か考えがある様子を察し、ドラートは眉を顰めながらも口を噤んだ。
「…ほ、本当ね?! それならそうと早く言ってくれれば良かったのに!」
「ラ…ラリー?」
はしゃぐように喜ぶラリーに、アレンは困惑する。
「…でも、すぐにでも良くなって貰えないと無理だな。此方の都合があるからね。」
「大丈夫よ! もう治ったから!!」
ウィラードが困ったようにそう言うと、ラリーは力強くそう答えてきた。
「「は?」」
ドラートとアレンは訳が分からないといった様子で目を見開いてラリーを見た。
「…でもそれはラリーの気の所為じゃないか? 今は良くても、明日には体調不良になっているかもしれないだろ? 暫く様子を見てみないと分からないじゃないか。」
ラリーは何時も突然体調が悪くなったと言う。何の前触れもなく急にだった。本人こそそれを分かっている筈なのに、ウィラードと結婚したい為に強がっているのだろうとドラートとアレンは思った。
「ラリー、気持ちは分かるがもうこれ以上は…。」
アレンは耐えられなくなったのか、ラリーを止めるように声をかけた。
「…残念だけど、ラリーの体調不良が治ったかどうか分かる頃にはもう僕達が結婚するのは無理になっているだろうな。」
ウィラードが残念そうに言う。ドラートとアレンはラリーに諦めさせる為にそんな嘘をついているのだろうと思った。結局ラリーを傷付ける事に変わりはないが、最善策を思いつけなかったのはドラート達も同じな為、何も文句は言えない。
「大丈夫よウィラード!」
しかし沈んだ空気の中で、ラリーだけは嬉しそうな顔をしてウィラードを見ている。
「実はね、私が病弱なのは嘘だったのよ!」
ラリーの衝撃の告白にドラートとアレンは口を半開きにして固まり、ウィラードは無表情になった…。
ラリー、やってしまいました 笑 もっと気付けるタイミングあっただろうとか、何故正直に話すんだとか、ツッコミ所が満載だったと思います。主人公が出てこないまま話が続くなんて…と思いますがご勘弁下さい。
ここまで読んで下さり有難うございました! もし宜しければ評価して頂けると嬉しいです!




