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《SFファンタジー冒険譚》物理と知識で魔法世界を再定義!―拾った助手は2000年前の知識の管理者(旦那様)でした。追放された没落天才令嬢の私は最強の娘たちと「世界」を再構築!―合計5⃣7⃣0⃣0⃣PV  作者: ざつ
第2章:王国編:知識争奪戦とトライアドの崩壊

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第50話:【復活】セフィラの涙、12人の姉妹

 王都の復興が着々と進む中、新設されたばかりのアルテミシア工房地下ドックには、異様な緊張感と……そして、一人の大男の鼻をすする音が響いていた。


「……ぐすっ、まだか。エリー、まだなのかよぉ……」

「ヴォルフ、さっきからそればっかり! もうすぐよ、今、最終的な魔力回路の同期シンクロをかけてるんだから、静かにして!」


 私は、リディアから提供された最新の演算機と格闘しながら、作業用のゴーグルを跳ね上げた。


 メンテナンス・クレイドルの上には、数週間の突貫工事で作り上げた、最新鋭の「セフィラ専用素体」が横たわっている。


 銀色の装甲はそのままに、各部には私の趣味……もとい、シスターズとお揃いのフリル付きのデザインを施した、世界に一体だけの特注品。その胸部には、リディアと共同開発した新型の永久機関が、静かな鼓動を刻み始めていた。Adminの直接干渉を必要としない、純粋な物理循環とマナの共鳴による自律駆動系。それは魔法と物理、二つの天才が手を取り合って生み出した、新しい時代の生命の形だった。


「接続率、98\dots 99\dots 100\%! 人格データ、完全統合! ……セフィラ、起きなさい!」


 私がコマンドを叩き込むと、クレイドルがシュゥゥ……と蒸気を吐き出して開放された。

 銀色の睫毛がわずかに震え、やがて、吸い込まれるような碧眼がゆっくりと開いた。


「……光。……ノイズ。……ここは……?」

「セフィラ!!」


 ヴォルフが弾かれたように駆け寄る。


「……ヴォルフ? ……なぜ、そんなに酷い顔をして泣いているのですか。涙腺の故障ですか? 極めて非効率的な挙動です」

「な、酷い顔って……! 死ぬほど心配したんだぞ、セフィラ!」

「ちょっとセフィラ、そんな言い方ないでしょ! この人、あんたのパーツを一つ残らず拾い集めるために、瓦礫の山を三日三晩、素手で掘り返してたんだから!」


 私の叱責に続いて、横で見ていたリディアも肩をすくめて、呆れたように補足する。


「全くだわ。この大男の執念がなければ、貴女の修復率はあと30%くらいは落ちていたでしょうね。少しは感謝しなさい?」

「……そうですか。ヴォルフ、貴方の物理적労働については評価に値します。……ですが、私はイグニスの大剣に貫かれ、活動限界を迎えたはず。再構成は、不可能だったはずですが……」


 セフィラはぎこちなく自分の手を見つめた。銀色の指先。そして、二の腕を飾るフリル付きの装甲に気づき、小さな首を傾げる。


「……この形状、シスターズと酷似しています。……私の設計思想にはない、不必要な装飾……」

「不必要じゃないわよ! それは、あんたが私たちの仲間になった証拠なんだから! 文句ある!?」


 私は、起き上がろうとするセフィラを、正面から思い切り抱きしめた。

 冷たい金属の感触。でも、その奥からは確かに、私が作り直した温かな疑似心音パルスが伝わってくる。


「……母様?」

「そうよ。あんたはもう、古代技術の奴隷でもない。……私たちの、12番目の娘。……大切な家族なのよ、セフィラ!」

「……家族」


 セフィラがその言葉をなぞった瞬間、彼女の瞳の中で、論理回路が追いつかないほどのエラーが噴出した。

 喜び。安堵。愛されているという実感。

 システムの最適解を求めていた頃には決して現れなかった「不合理な水分」が、彼女の碧い瞳から一筋、頬を伝って零れ落ちた。


「……温かい。……目から、液体の流出が止まりません。……母様、これは、バグですか?」

「いいえ、それは『嬉しい』っていう名前の、世界で一番綺麗なプログラムよ」


 その瞬間、工房の扉が勢いよく開いた。


「「「セフィラちゃーーーん!!」」」


 長女チェロを先頭に、11人のシスターズたちが雪崩れ込んでくる。


「( ゜∀゜)アハハ八八ノヽノヽノヽノ \ / \! 復活おめでとうだお! これで正式に12人姉妹、あーしらが世界一の多人数アイドルグループ(?)だお!!」

「あらあら、セフィラちゃん。……そのフリル、とっても似合っていますわ(微笑)」


 姉たちに揉みくちゃにされ、セフィラは戸惑いながらも、その涙を拭うことなく小さな声で「……ただいま、お姉様方」と呟いた。その背後で、ヴォルフが「よかった……本当によかった……っ!」と地面を叩いて男泣きし、工房は祝福の声に包まれた。


 騒がしい地下ドックを離れ、私は地上階にあるリビングへと戻った。

 そこには、一人の青年が窓の外を見つめながら、静かに椅子に座っていた。


「……リュック、終わったわよ。セフィラ、完璧にリブートしたわ」


 リュウガ・アスカとして生きる彼が、ゆっくりとこちらを向いた。

 今日、彼はついに一つの決断を下した。地下で眠るオリジナル・アスカの肉体。 Admin(管理者)権限の源泉たるその身体へ戻ることを、彼は拒否したのだ。


「……戻らなくて、よかったの? あっちの貴方は、まだ眠り続けてるわよ」


 私の問いに、リュウガは少し困ったように微笑み、自分の透き通るような実体アバターの手を見つめた。


「ああ。あそこに眠る肉体は、マザーと世界の物理定数を繋ぎ止めるための『生体アンカー』だ。Admin権限を完全に焼失させた今、俺があの肉体で目覚めれば、システムの整合性が崩れ、王都周辺のマナ循環が完全に停止してしまう。……世界を維持するためには、オリジナルはあのまま眠り続ける必要があるんだ」


「それじゃ、あんたはずっと、そのまま……?」


「……不合理な懸念だな。俺はこの姿のまま、ナノマシンを用いて自分の存在定義を『人間』として固定した。Adminとしての永遠の寿命は捨てたが、君の隣にいたいと願う『意志』だけは、この身体に焼き付けてある。……俺は、あの冷たいカプセルの中の神様より、不純物まみれのコーヒーを飲む不完全な助手の方が、ずっと性に合っているんだ」


 Adminとしての権能を捨て、あえて「投影されたアバター」という不安定な器を、自らの終の住処として定義し直した男。その選択に、私は目頭が熱くなるのを感じた。


「……そう。だったら、責任とりなさいよ。あんたのメンテナンスは、一生私がやってあげるんだから」

「ああ。……頼むぞ、エリー」


 私は彼に、淹れたてのコーヒーを差し出した。


 リュウガはカップを口にし、その強烈な苦味にわずかに顔を顰めた。だが、次の瞬間、彼は心底幸せそうに、目を細めて微笑んだ。


「……ああ。……生きている味がする」


「ちょっとリュック、あんた今まで味覚とかなかったの? 散々、私の淹れたコーヒーが不純物まみれだのなんだの文句言ってたじゃない」


 私が思わずツッコミを入れると、リュウガはカップを見つめながら静かに首を振った。


「データとしては理解していた。……アバター(思念体)だった頃の俺は、味物質の化学組成と感覚信号のシミュレーション結果を『情報』として処理していただけだ。不純物の多さも、温度も、すべては数値でしかなかった。……だが、今のは違う。神経が直接、脳を揺らすような『実感』だ」


「実感、ねぇ……。……あ!」


 その言葉を聞いて、私はある光景を思い出した。

 私の30歳の誕生日。あの時、リュウガが私の涙で塩辛くなったケーキを口にして、なんとも言えない、驚いたような複雑な顔をしていたことを。


「……だから、あの時の私の誕生日パーティの時、あんな変な顔してたのね。あんた、あの不合理なケーキを食べて、初めて『味覚』のバグ……じゃなくて、実感を知ったってわけ?」


 リュウガは一瞬だけ気まずそうに目を逸らしたが、すぐに穏やかな声で答えた。


「……否定はしない。あの『塩辛さ』こそが、俺がデータを超えて、君という不合理に触れた最初の衝撃だったのかもしれないな」


 味覚という実感。有限の命という実感。その一言に、私たちのこれまでの戦いの全てが報われた気がした。


「パパ! ……あ、パパじゃないです。お父様。……データの整理、終わりました」


 いつの間にか上がってきたセフィラが、リュウガの服の裾をちょこんと掴んだ。彼女は地下で眠る「オリジナル」を一瞥し、それから目の前の「リュウガ」を見て、満足げに頷いた。彼女にとっても、自分を救ってくれたのはシステムとしての神ではなく、この不合理な「父」だったのだ。


「な、セフィラ!? 今なんて……パ、パパ?」


 リュウガがコーヒーを吹き出しそうになりながら動揺する。それを見た私が、負けじとセフィラの肩を抱き寄せた。


「ちょっとセフィラ! 彼がお父様なら、私がお母様よ! いい? 『お母様、ママ大好き』って言いなさい!」

「……不合理です。母様は、さっき工房で測ったリュウガ様の身体データを見て、また鼻血を出しかけていました。教育上、不適切かと」

「ちょ、何バラしてんのよあんた!!」


「( ゜∀゜)ヒョウ! お父様を取り合う母娘! 泥沼不倫劇の始まりだお!!」

「ボーン! 変な実況するんじゃないわよ!!」


 平和を取り戻したアステリア。


 神様を辞めて「助手」の姿を選んだ青年と、恋する天才人形師。そして、あまりに賑やかな12人の娘たち。

 バグだらけの家族の絆は、これから訪れるであろうガレリア帝国の影など露知らず、新しい時代の輝きの中で、最高に騒がしい幸福を奏でていた。


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