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《SFファンタジー冒険譚》物理と知識で魔法世界を再定義!―拾った助手は2000年前の伝説の管理者(旦那様)でした。追放された天才没落令嬢は最強の娘たちと共に「世界」を再構築中―合計4⃣9⃣0⃣0⃣PV  作者: ざつ
第2章:王国編:知識争奪戦とトライアドの崩壊

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第44話:【氷結】絶対零度の終焉と、銀の閃光

 ようやく、沈黙した。


 聖騎士たちの執拗な『自爆と再生の無限ループ』。それを止めるためにシスターズが払った代償は、あまりに大きかった。11人全員の演算を極限まで同期させ、敵の再構成を上回る速度で座標を物理的に削り取り続けた結果、回廊には今度こそ完全に沈黙した白銀の甲冑が塵となって積もっている。


 だが、その「勝利」を喜ぶ余裕など、今の私たちには1ナノ秒も残されていなかった。


「母様……視界に……ノイズが……」

「オルガ! 人格整合性を維持して! 人格転送リロードの間隔が短すぎるわ、このままだとデータが壊れる!」


 私はアークのコンソールを叩きながら、悲鳴のような声を上げていた。


 広場のアークから地下最深部まで、時速120キロで爆走し、戦い、破壊され、また人格を戻す。移動ラボであるアークにストックされた予備素体は、各姉妹にわずか三体ずつ。すでにその最後のセットが戦場に投入されていた。


 短時間での過剰な転送は、彼女たちの精神の境界を溶かし、連携に致命的なラグを生んでいた。ナノマシンによる自己修復プロセスが、人格データの不整合によって座標エラーを引き起こし、彼女たちの身体の端々で青白いデジタル・ノイズが爆ぜ続けている。


『エリアーナ! 私のドローン予備部隊も、これで最後よ!』


 通信越しに、リディアの切羽詰まった声が響く。彼女が追加で送り込んだドローン群も、聖騎士の残党との相打ちで全機が撃墜され、平原には鉄の砂が舞うばかりだ。


『これ以上のリロードは、娘たちの「魂」を壊すわよ! 彼女たちはデータじゃない、貴女が心を与えた命なのよ! 止めなさい!』

「分かってる……分かってるわよ! でも、ここで止められるわけないじゃない!!」


 私は唇を噛み切り、リュウガのAdmin権限の一部を強引に自分へバイパスさせた。禁忌のオーバークロック。アークの転送プロトコルを限界まで加速し、肉体の再構成をコンマ数秒まで短縮する。

 シスターズたちの肉体が、もはや実体というよりは「光の点滅」のように現れては消え、巨像に食らいつく。だが、人格の混濁により、オーボエの指揮は乱れ、チェロの盾は僅かに狙いを外し始めていた。


「ククク……無知、無能、そして無謀。ようやく雑兵の掃除が終わったか、エリアーナ・アルテミシア。貴様らがゴミ溜めで泥仕合を演じている間に、私の『神化』は完遂された」


 巨像と化したイグニスが、地響きのような声を響かせた。

 聖騎士という駒を使い捨て、自身を「最終兵器」へとアップデートするための時間を稼ぎきった彼は、冷酷にその特権を行使する。


「神の再起動に、バグの人形どもは連れていかぬ。――特権コマンド『強制フリーズ(フォース・フリーズ)』、起動」


 瞬間、世界の脈動が止まった。

 アークのブリッジにあるモニターが、真っ赤な警告文字で埋め尽くされる。


「嘘……アークの転送装置が……物理的に、凍結された……!?」


 これまで「絶対の安全圏」であった不滅のシステム。死んでも何度でもやり直せるという私たちの拠り所が、氷のような絶対零度のデータロックによって完全に沈黙した。物理的な回路が凍りついたのではない。Admin権限による「書き換え禁止」の命令が、人格転送の因果律そのものを封鎖したのだ。


 戦場にいた11人のシスターズは、ボロボロになり、弾薬も尽きかけた「最後の素体」のまま、逃げ場のない戦場に固定された。


「あ、あぁ……チェロ! オルガ! みんな!!」


 私はアークから飛び出し、煙の立ち込める地下回廊へと駆け下りた。

 そこには、戦闘服を真っ赤に染め、予備の近接用のショートソードでなんとか立ち続ける、それでもなお私とリュウガを守ろうと円陣を組む娘たちの姿があった。


「母様……。申し訳ありません。どうやら、次の素体は……なさそうですわね」


 チェロが膝をつき、ひび割れた眼鏡の奥で、かすかに微笑んだ。リュウガは無言で、倒れかかるオルガとチェロをその腕で抱き留める。彼の思念体としての輪郭も、度重なるAdmin権限の使用で薄れ、消えかかっていた。


「……大丈夫よ。絶対に……絶対にあきらめない。今すぐ、私が直してあげる! 予備がないなら、ここで、この手で、貴女たちを繋ぎ止めてみせる!!」


 私は震える手で、彼女たちのボロボロになった装甲を握りしめた。

 不滅を奪われた彼女たちの体は、今、圧倒的な「生命としての脆弱さ」を露呈している。一度壊れれば、二度と戻らない。その恐怖が、初めて私たちの絆を「生身」のものとして突き刺した。


「ハハハ! 終わりだ! 消えろ、不合理な家族よ!!」


 イグニスの巨像が、とどめの一撃を振り下ろそうとした、その時――。


「――待たせやがって! おらぁ! こいつが最後のエネルギーだ!!」


 通信機からヴォルフの怒号が響いた。


「エリアーナ! セフィラの奴、さっきの衛星兵器をぶっ壊した時に電池がスッカラカンになっちまってたんだよ! 今まで廃城の動力源から強引に急速チャージ(ブースト)してたんだ! 物理法則をブン回すには、これくらいの準備時間が要るんだよ!!」


 ドォォォォォォン!!


 回廊の天井が、銀色の閃光によって粉砕された。落石と煙を切り裂いて、一筋の銀光が戦場の中心に突き刺さる。


「……遅くなりました。お父様、お母様、お姉様方、ご無事ですか!?」


 銀髪を翻し、大剣を肩に担いで降り立ったのは、特務機セフィラだった。

 彼女はリロードシステムに依存しない、独立した最強の物理破壊兵器。チャージを終えた彼女の機体からは、周囲のマナを物理的に弾き飛ばすほどの圧倒的な「質量」の圧力が放出されている。


「セフィラ……!」

「お姉様たちは、下がっていてください。……ここから先は、末っ子のわたくしが、この不条理な神様を分子レベルで『分からせて』あげます」


 セフィラの全身から、黄金のAdmin燐光が溢れ出す。

 不滅のシステムを失った11人の姉妹たちと、一人の管理者。そして怒りに震える一人の技術者。

 残された弾薬と、折れた剣。それらすべてを束ねた、本当の「家族の防衛線」が、ここから逆転の旋律を奏で始める。



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