第36話:【極光】精鋭8騎士、絶対氷結の光速領域
王都アステリア、第1外壁の城門。
瓦礫の山を越えて突入しようとするアークの前に、その「神罰」は降り立った。
「……これ以上は、神の領域への冒涜だ。主のデータを盗む悪魔ども、排除を宣言する。貴様らの存在そのものが、世界に対する不合理なノイズだ!」
白銀の甲冑に身を包んだ金髪の美少年アルフレッドが冷徹に言い放つ。彼の背後には、聖騎士団長イグニスが誇る最強の武力、『精鋭8騎士』が揃い踏みしていた。
彼らが掲げる聖遺物からは、過剰なマナが漏れ出し、不快な熱歪みとなって空気を陽炎のように揺らしている。非効率な演算がもたらすオゾンの匂いが鼻を突く。
「あら、素敵な殿方ばかりですわね。……でも、母様を泣かせる方は、わたくしの盾が許しませんわ。ですので、皆様には安らかな眠りを……。母様をいじめて良いのは、わたくしたちだけですもの(微笑)」
「ちょっとオルガ! 地味に余計ないこと言ってるわよ!!」
次女オルガが聖母のような慈愛の笑みを浮かべ、エリーのツッコミをスルーし、アークの前面に巨大な魔導盾を展開する。
「排除開始! 聖なる光の下に、すべてを還元せよ!」
アルフレッドの号令と共に、8騎士が鮮やかな連携を見せた。
それだけではない。彼らの背後からは、狂信に突き動かされた数千の一般兵と教団騎士たちが、波のように押し寄せてきた。
「チェロ! オルガ! 雑兵たちを近づけないで! この『8人』は他の子たちで叩くわよ!」
ブリッジで私は、震える手でタクトを振り回しながら絶叫した。
『了解。……ですが母様、数が多すぎます。戦域が分断されますわ。雑兵の処理にリソースを割かれ、8騎士への対応が後手に回ります!』
長女チェロのダブルマシンガンが火を噴くが、敵の物量はそれを上回っていた。
「くっ、このままじゃ押し潰される……! リディア、あんた何してるのよぉぉ!!」
「騒がしいわね、泥棒猫。……私の知性を、ただの見物人だと思わないことね」
アークのルーフに立つリディアが、空中に巨大な仮想コンソールを展開した。
「全ドローン、展開。……5種20機、救済のフォーメーションを。……世界を壊すバグどもに、本物の『計算』を叩き込んであげなさい!」
リディアの合図と共に、アークから20機のドローンが飛び立った。
爆撃用、修復用、ジャミング用、および精密集団戦用。それらが複雑な幾何学模様を描きながら、教団の一般兵たちを掃射していく。
「リディア様ぁぁ! その弾道計算、完璧です! 物理的に、惚れ直しましたぁぁ!!」
ヴォルフがバギーを駆りながら叫ぶが、8騎士の攻撃はさらに熾烈を極めた。
◇◆◇◆◇
「美しき我が槍の錆となるがいい! 神の恩寵は、我が流麗な槍術に宿るのだからな!」
神槍使いベルハルトがナルシストな笑みを浮かべて三女コルネを突き、重装歩兵ヒルダが「……可哀想な子供たち。神の御許へ送ってあげましょう」と穏やかな顔でハルバードを振り下ろす。
「マジでヤバい! 信仰心バーストしてて言葉が全然通じないっしょ!」
五女ユーフィがツインテールを振り回しながら悲鳴を上げる。三馬鹿(コルネ、ユーフィ、十女ボーン)が必死に応戦するが、8騎士の個々の実力はシスターズ単体を凌駕していた。
さらに狙撃手セドリックと遊撃手グレイスの光の矢が、後方の物資を狙って降り注ぐ。
「私の備蓄を狙うなぁ! テューバ、防御の弾幕を!!」
『……(激しくドリルを回転させ、顔を真っ赤にして重力場を展開する)』
八女テューバが無言のまま、コミュ障ゆえの殺気で重力障壁を維持する。しかし、光の矢の連射は止まらない。
そして、アルフレッドが動いた。光属性のナノマシンを自身の細胞に過負荷で強制循環させ、一切の予兆をデリートした視認不能な「光速」に近い機動を実現する。
「……無駄だ。神の光を、汚れた機械で捉えることはできぬ!」
光の尾を引いたアルフレッドが、1瞬でテューバの重力場を潜り抜け、アークの走行ユニットにレイピアを突き立てようとした。
「リュ、リュック! あいつ速すぎる! 物理的に見えない! ああもう、どうすればいいのよぉぉ!!」
私は完全にテンパり、タクトを無茶苦茶に振り回した。
「落ち着け、エリー。……速度とはエネルギーの移動に過ぎない。熱を奪え。空間の粘度を上げれば、その『光』はただの遅い粒子に成り下がる」
背後から響くリュウガの冷静な理論。だが、今の私の脳細胞はオーバーヒート寸前で、その高度な理屈を処理する余裕なんて1ナノ秒も残っていない。
「ご、ごめん、リュック! 全然意味わかんない~~~! 理屈はいいからあいつを止めてよぉぉ!!」
「……やれやれ、不器用な奥様だ。なら、強制介入をかけるから、少し俺に任せろ」
「あううぅぅぅ。お願いしますぅ」
リュウガが私の背後に立ち、その冷たい手が私の震える手を上から力強く包み込んだ。単なる補助ではない。彼のAdmin権限から溢れ出す黄金の光が、私の魔導タクトへと直接流れ込み、事象を直接書き換えるための高次元コマンドが展開される。
「……シスターズ全機、吸熱モード。空間の強制氷結を開始せよ。……エリー、これは俺たちの共同作業だ」
リュウガの魔力と私の構築した回路が完璧にシンクロし、絶対零度の旋律が放たれた。魔法のような発光現象はない。ただ、周囲数キロメートルの分子運動がAdmin権限によって強制的に「停止」された。
11人のシスターズとリディアのドローンが1斉に周囲のマナから熱エネルギーを強引に吸い上げ、アークの周囲の温度が瞬時にマイナス100度へと急降下した。
「な、なんだ……!? 空気が、凍る……!? 体が,動かぬ……!」
アルフレッドが滑走していた「光の道」――空気中のナノマシンが物理的に凍結し、氷の檻と化した。光速機動の生命線を奪われた彼は、空間に縫い付けられたように静止した。
「そこだ、セフィラ!!」
「……了解。……管理者。……切り刻む」
ルーフから弾丸のように飛び出したセフィラの振動剣が、身動きの取れないアルフレッドの肩口を深く切り裂いた。物理的な共鳴振動が白銀の甲冑を原子レベルで解体し、光の粒子として散らしていく。
「ぐ、ぅあぁっ! だ、だが……覚えておけ。教団は既に地下の『母機』を掌握した。この世界は、神のデータによって再編されるのだ……撤収だ! 全軍撤収せよ!!!」
血を吐きながらも狂信の笑みを崩さず、フィオナの盾に守られながら8騎士は撤退していった。
戦闘が終わり、アークの中に静寂が戻る。私は全身の力が抜け、椅子に座り込んだ。
「……死ぬかと思ったわ。なんなのよ、あいつら、全員狂ってるじゃない……」
安堵からくる震えが止まらない私を見て、シスターズたちが次々とブリッジに雪崩れ込んできた。
「母様! 頑張りましたわね! さあ、私の胸で心ゆくまで癒やされてください!」
「次女オルガ、さっきからそればっかり! 離しなさいよ!」
「エリーちゃん、またブルブルしてる! ボクが物理的に抱きしめて止めてあげるよ!」
「あーしも! 母様、マジてぇてぇすぎて尊死しそう!」
「離しなさいよバカ娘共ーーー! リュック、助けて!!」
私が叫ぶ中、リュウガは少しだけ口角を上げ、私の眼鏡を指先で直した。
「良い指揮だったぞ、奥様。おかげでアークの『胃袋』は無事だ」
『あたしのライブ配信、同接100万突破ですよぉぉ! この圧倒的な無慈悲! 痺れますよぉぉ!』
十女ボーンの絶叫が響き、私は思わず頬を引きつらせて冷静なツッコミを入れた。
「……ちょっと待ちなさい。インフラが壊滅して電力も不安定なこの王都の、一体どこの誰がそんなに見てるのよ?」
『母様、甘いです! あたしがMNWの広域プロトコルをジャックして、全世界の魔導端末に強制プッシュ通知を送ってますから! 現在、全世界が母様の赤面を同時視聴中です!』
「世界規模で恥をさらすなーーー!!」
六女ヴィオラが冷淡に、ボーンのスピーカー出力を物理的に絞りながら告げる。
『……迷惑系配信者みたいな真似はやめなさい。うるさいわ。少しボリュームを絞ってくださる? 私の耳の演算が狂うわ』
ドタバタが少し落ち着くと、リュウガが再び表情を引き締めた。
「……だが、地下の『母機』という言葉が気になるな。王都アステリアの深部……そこには、俺さえもアクセスできていない『特権領域』が眠っているらしい」
その時、セーラが厳しい表情で歩み寄ってきた。
「エリアーナ、リュウガ。……わたくしは、カイルと共にここに残ります。路頭に迷う市民たちの救済――食料の配給と医療支援を、この外郭キャンプで継続しなければなりません」
「……本気? ここはまだ、教団や技術院の残党がいつ襲ってくるかわからないのよ」
私の問いに、セーラは静かに頷いた。
「わたくしは公爵家の人間ですもの。民を見捨てることはできません。……ですが、この状況で丸腰というわけにはいきませんわね」
リュウガが少し考え、静かに宣言した。
「……リディア。お前はドローン部隊と共に、ここに残りセーラを護衛しろ。……セフィラ、君もだ」
「……えっ!? 管理者、私も……?」
セフィラが黄金の瞳を瞬かせる。
「ああ。アークには11人のシスターズがいる。だが、地上の市民を守るには、君の『守護者』としての力が必要だ。リディアの知性と君の武力、およびカイルの護衛隊50人がいれば、ここは鉄壁になる」
「……了解。……Adminの代わりに、この場所を……掃除する」
「ふん、泥棒猫の尻拭いをするのは癪だけど、最高効率の防衛網を敷いてあげるわ」
リディアとセフィラ、そしてカイル隊。
最強の守護者たちを後方に残し、アークは11人のシスターズと共に王都の深部――技術院と王宮保守派が待ち構える、システムの核心へと舵を切った。
救済キャラバンは、戦いの爪痕を残しながらも、崩壊の核たる王都深部へと、再びその轍を刻み続けた。
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