第23話:【不協】不協和音の防衛戦と管理者の失策
「……リュック! なんで場所がバレたのよ! ここ、セーラが用意してくれた極秘の隠れ家じゃなかったの!?」
ラボを包む赤いアラート。私は、モニターに映し出されるリディアのドローン編隊を見て、悲鳴に近い声を上げた。
「……計算ミスだ。……いや、定義の齟齬と言い換えるべきか」
リュウガは珍しく、苦虫を噛み潰したような顔でモニターを見つめていた。その黄金の瞳には、膨大なログが流れている。
「先ほどの動力炉の再起動か。……旧文明の規格での『アイドリング』が、現在のMNWの許容値を超えた」
「ど、どういうことよ?」
「教団が管理する脆弱なネットワークにとって、Admin権限による正常な電力供給は、暗闇で太陽を点灯させたようなものだ。隠密プロトコルが機能する前に、空間そのものが熱歪みを起こして座標を露呈させた。まぁ、居場所を特定されてしまったようだ、すまん」
「つまり、リュックが目立ちすぎたってこと!? なんてこったーーー!!」
「ハッ! それだけじゃねえぜ、お嬢ちゃん。俺のトレーラーの排気熱を追跡された跡がある。教団の連中、原始的な『赤外線追尾』を非効率な魔法と組み合わせてやがるな。ナノマシンの揺らぎを追うより、俺のエンジンの直火を追う方が確実だって判断したわけだ」
「それ、誇ることじゃないからーーーー!!!!」
ヴォルフが忌々しげにスパナを肩に担いだ。
魔法を信じないヴォルフの「物理的な足跡」と、魔法を超越したリュウガの「あまりに巨大な力」。その両方が、皮肉にも隠れ家の平穏をブチ壊したのだ。
『【実況】出ました! 父様の「力加減ができない」属性と、ヴォルフ氏の「物理的なうるささ」のコラボレーション。……てぇてぇ崩壊を通り越して、拠点が崩壊しそうですわ』
『ヴィオラ、敵軍解析。前方よりリディア・スカーレットのドローン群。さらに右舷後方より教団の「魔導騎士団」。……挟み撃ちですわ。あちらの魔導回路、発動のたびに1.5秒のラグを伴う『溜め』が見えますわね。……蹂躙、してもよろしいかしら?』
「このまま終わるわけないわ。そうよ、終わってないわよ! 全員、迎撃準備!!」
私がタクト(指揮杖)を振り上げると、シスターズたちが一斉に武装を展開した。
だが、今回の敵は今までとは違う。空を埋め尽くすドローンの中央に、巨大な通信映像が投影された。
『見つけたわよ、エリアーナ。……それに、私のリュウガ様』
「はぁ!? 私のリュウガ様だぁぁああああ!?」
モニターに映し出されたのは、夜空をバックに豪華な指揮艦の甲板に立つリディア・スカーレットの姿だった。
豪奢な紫のドレスは、彼女の豊潤すぎるボディラインをこれでもかと強調し、深いスリットからは白磁のような脚が覗いている。その背後では、彼女の魔導兵装が過剰なマナを撒き散らし、陽炎となってドレスの裾を揺らしていた。
「……それに。な、なによあの格好。戦場に来る格好じゃないでしょ……!」
『あら、レディたるもの、意中の殿方の前では常に最高の状態でいたいものよ。……そうでしょう、リュウガ様?』
リディアが不敵に微笑み、優雅に髪をかき上げる。その動作一つで、ドレスの胸元が危ういほどに波打った。
「母様……認めざるを得ません。リディア様の演算、エレガントすぎますわ。私の『癒やし』の波動でも、あの質量には届きません……(微笑みながらも少し悔しそうに)」
「オルガ! あんたが負けるって言ったら、この世に勝てる女なんていないじゃないのよ!!」
『【観測】リディア様、圧倒的な「女子力」と「物理的質量」でシスターズの防衛ラインを視覚的に突破。エリー様、精神的ダメージにより回避能力が大幅に低下しています』
「うるさーーい! リディア、なんでターゲットが私からリュックに変わってるのよ! この泥棒猫!!」
『泥棒猫? 失礼ね。私はただ、技術院の腐った老人たちよりも、リュウガ様という「至高の知性」の方が、私の愛を受けるに相応しいと気づいただけ。……貴方のようなお子様には、彼を理解することすら不可能なのよ』
「誰がお子様よ! ぶっちゃけ、その余裕たっぷりの美熟女感(リディアは年下の26歳だけど)が鼻につくのよ!!」
リディアの指先が動き、ドローンから共鳴妨害波が放たれる。
魔導回路が軋む中、ヴォルフが豪快に叫んだ。
「おらぁセフィラ! 魔法が効かねえなら、物理で物理をブチ抜くだけだ! 行けッ!!」
コンテナから飛び出したのは、白銀の衝撃。
セフィラは右手にダブルブレード、左手に大剣を保持し、空中でドローンを次々と解体していく。
魔法障壁に触れるたび、物理的な振動共鳴がその不完全な幾何学模様を文字通り「粉砕」し、光の粒子をゴミのように散らしていった。
「……セフィラ、抜剣。……物理的質量による、障害排除を開始」
その神業のような無双劇を見てもなお、リディアは眉一つ動かさない。
『素敵な人形ね。でも、リュウガ様。貴方の「管理者」としての真価、こんな場所で腐らせるには惜しいわ。……私と来れば、世界中のデータベースを貴方に捧げてあげる』
「……誘惑は不要だ。……リディア、お前のドローン制御、同期に無駄がある。メインサーバーと端末間のラグが0.3秒。その余剰熱がハードウェアの寿命を削っている。……修正しろ。さもなくば、300秒以内にオーバーヒートで全滅するぞ」
リュウガはリディアの「女」としての魅力にピクリともせず、ただ彼女の「技術的欠陥」を淡々と指摘した。
『ふふ、そういう冷徹なところも素敵……。エリアーナ、貴方の隣にいる彼は、もう私の「演算」の中にいるのよ』
「……っ! リュック! 指導してあげなくていいから! 今すぐ叩き落として!!」
リュウガが私の背後に立ち、その腕が私の肩を抱くようにタクトへ添えられた。彼の確かな体温が伝わると同時に、私の脳内にAdminの冷徹な演算回路が流れ込んでくる。
「……エリー、集中しろ。……リディアの制御網に割り込み(インテレクト・ジャック)をかける。マナという名のバグを、俺たちの論理で書き換えろ。……旋律を、俺の演算に合わせろ」
『【観測】父様の「無自覚な囲い込み」発動! リディア様の誘惑を、エリー様への物理的接近で上書き。……これにはリディア様も微かに眉をひそめましたわ!』
『ファーファ、実況。エリー様、嫉妬と興奮で鼻血が出る5秒前です(`・ω・´)』
「出るわけないでしょ!! 見てなさいリディア、リュックの『隣』は譲らないんだから!! 全機、シンフォニー展開!!」
夜空に咲く、白銀の剣閃と、極彩色の魔導火。
圧倒的な「いい女」リディアの猛攻に対し、エリーは女の意地とリュウガの知性を武器に立ち向かっていく。
『【最終実況】リディア様の圧倒的ボディ vs エリー様の執着心。……そして、一番の「いい女」を無機質な技術論で一蹴する父様。……てぇてぇ崩壊、でございます』
「お前ら、実況してないで戦いなさーーーーい!!」
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