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《SFファンタジー冒険譚》物理と知識で魔法世界を再定義!―拾った助手は2000年前の伝説の管理者(旦那様)でした。追放された天才没落令嬢は最強の娘たちと共に「世界」を再構築中―合計4⃣9⃣0⃣0⃣PV  作者: ざつ
第1章:覚醒編:工房の密室と7つの音色

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第18話:【記録】燃える空、逃亡の足跡

 王都の灯は消えた。


 背後の空は、次元崩壊弾がもたらした極光と、燃え盛る文明の残り火で不気味な紫色に染まっている。バギーはエンジンの唸りを上げ、北へ、ただ北へと荒野を爆走していた。


「……リュック、しっかりしなさい。あんた、まだ半分透けてるわよ!」


 アークの居住区――その奥にある簡素な医務室で、私は横たわるリュウガを見つめていた。


 Admin権限の過負荷による粒子化は、私の「咆哮」でなんとか食い止めたものの、彼の身体はいまだに実体と光の間を不安定に揺れ動いている。ナノマシンが原子配列を強制的に固定しようとしているが、彼という「定義」そのものがこの世界の物理法則から剥離しかけているかのように、その輪郭は時折ガラス細工のように透け、また戻るという不自然な点滅を繰り返していた。


「母様、血圧およびマナ循環、依然として不安定ですわ。私がマナの外部供給を……」


 次女オルガが、聖母のような笑みを浮かべながら身を乗り出す。その豊かな胸元が、意識のないリュウガの顔に触れそうなほど近い。


「……待て。その役割、私。……加速回路による、精密循環パッチ、実行」


 四女ルーテが影のように横入りし、無機質な手つきでリュウガの胸元に指先を当てる。彼女の精密なマナ制御が、崩れかけのリュウガの存在を少しずつ繋ぎ止めていた。


「オルガ、あんたは離れなさい! ルーテはそのまま続けて! 看病の中心は製作者わたしよ!」


 私は涙目でタオルを絞り、リュウガの額を拭う。彼を失う恐怖が、怒号に混じって漏れ出していた。



 その時、バギーの運転席から長女チェロの凛とした声が通信に入った。


「母様、ご安心を。バギーの運転は第1番個体であるこのチェロが完璧にこなしておりますわ。……あ、今の段差、父様の振動を考慮して0.05ミリ単位で回避しました!」

『チェロちゃん、運転マジで頼むっしょ! 追っ手が来たら、ボクとユーフィで焼き尽くすから!』


 バギーと並走する三女コルネの大剣が、暗闇の中で紅蓮の火花を散らしている。


『あーしも準備オッケーだよぉ! 衝撃波で、砂埃ごと敵をブチ飛ばしちゃうもんね!』


 五女ユーフィが、加速の予兆ラグをデリートした時速100キロ近い速度で走りながら軽快に笑った。


「母様、王都の通信網インフラを完全ジャックしましたわ」


 アークの側面を並走する六女ヴィオラが、戦術バイザーを光らせて報告する。


「王都技術院、および聖教団、完全にパニックに陥っております。……『Admin抹殺に失敗。王都の3割が物理消失。最高機密の管理者を奪還せよ』――各都市の守備隊に緊急指令が飛んでいますわ。……クスクス、阿鼻叫喚ですわね」

「技術院の老害ども……ざまあ見なさい」


 私はリュウガの手を握りしめ、低く呟いた。


環境偽装ステルス、維持。……父様と母様の『てぇてぇ』を妨害する電波、すべてデリートしましたわ」


 末っ子のクララが鉄扇を仰ぎ、ナノマシンの気圧制御によってアークの走行音と熱源を完全に隠蔽している。



 ようやく訪れた、嵐の中の静寂。

 私は、リュウガの冷たい指を自分の両手で包み込んだ。


 かつてのカビ臭い地下工房で、不味そうにコーヒーを飲みながら「不合理だ」と切り捨てていた彼の日常。それがどれほど尊いものだったかを、失いかけて初めて痛感していた。


『【解析】エリー様、意識のないリュウガ様を見つめながら「もう二度と離さない。世界を敵に回しても守り抜く」と決意を固めています。……出ました!

【母様の本音】リュック……大好き。……あと、ちょっとだけ……ちょっとだけ、その綺麗な頬に頬ずりしたい……! (´Д`)ハァハァ』


 突如、室内のモニターに、私がリュウガの頬に顔を寄せて「すりすり」しているイメージ図がアスキーアート(AA)でデカデカと表示された。


「ファーファ! この……っ、最後の余計な情報を流すな!! 私は純粋に彼の心配をしてるのよぉぉ!!」


 私は顔を真っ赤にして、宙を舞う球体ドローンをひっぱたいた。だが、握りしめた彼の手を離すことはできなかった。頬ずりしたいという煩悩が混ざっていようと、彼を救いたいという祈りは本物だったから。





 夜の荒野、アークの窓の外には、いまだに不穏な「次元の錨」の残響が、遠い王都の空で瞬いている。

 

 ふと、リュウガの指先を見た。

 そこには、私が工房での徹夜明けにふざけて作った、1本のネジを加工しただけの指輪が、歪な形のまま残っていた。


「……待ってなさい。今度は私が、あんたを世界一の幸せ者にしてあげるから」


 私は静かに、けれど鋼のような決意を込めて誓った。

 

 アークの居住区では、傷だらけのシスターズたちが、ある者は並走し、ある者は中で作業しながら、主たちの無事を祈って持ち場を死守している。


 バギーは暗闇を切り裂き、さらなる世界の深淵と「真実」を目指して、速度を上げた。

 私たちの逃亡劇は、もう誰にも止められない。


『【解析】エリー様の「正妻宣言」により、キャラバンの戦闘意欲が120%に上昇。……てぇてぇ……を、世界の果てまで記録し続けますわ(・∀・)』

「ファーファ! ……もう、好きにしなさいよ。……どうせ、私の心は丸見えなんでしょ」


 燃える空の残響を背に、私たちは深い夜の中、300キロ先の休息地点へと突き進んでいった。


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