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《SFファンタジー冒険譚》物理と知識で魔法世界を再定義!―拾った助手は2000年前の伝説の管理者(旦那様)でした。追放された天才没落令嬢は最強の娘たちと共に「世界」を再構築中―合計4⃣9⃣0⃣0⃣PV  作者: ざつ
第1章:覚醒編:工房の密室と7つの音色

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第19話:【休息】荒野を往く修羅場と家族の絆

 王都脱出から数時間が経過した。


 アーク (要塞トレーラー) のエンジン音だけが響く夜の荒野を、私たちは北へとひた走っている。アークの外壁では末っ子のクララが、ナノマシンの気圧制御によって走行音と熱源を完全に「デリート」し続けていた。教団の隠密魔法のようにマナの揺らぎやオゾンの匂いを撒き散らすことのない、冷徹なまでに完璧な隠蔽

 だが、アークの内部は、静寂とは程遠い「修羅場」と化していた。


「母様、どいてください! マスターの枕元に0.003%の不浄な菌を検知しました。直ちに空間除菌を実行しますわ!」


 末っ子のクララが無表情のまま、高出力の除菌スプレーをリュウガの周囲に乱射する。


「ちょっとクララ! リュックが窒息するでしょ、やめなさい! ゲホッ、ゲホッ!」

「母様、甘いですわ! 父様を温めるには布団30枚重ねによる断熱圧縮が理論上最強ですっしょ!」


 三女コルネがどこから持ってきたのか、山のような布団を昏睡状態のリュウガの上に積み上げようとする。


「……待て。非効率。……Adminデータの修復には、直接的な生体接触によるバイタル安定化が最も有効だとヴィオラ姉様が。……脱ぐ。……添い寝、開始」


 四女ルーテが淡々と服を脱ぎ始め、六女ヴィオラが戦術バイザーを光らせて頷く。


「ええ、私の計算によれば母様よりも私たちの『発育した個体差』の方が、父様の生存本能を刺激する確率が87%高いですわ。さあ皆様、一斉に添い寝の準備を(微笑)」

「あんたたち、いい加減にしなさいよぉぉ!! 誰が脱いでいいって言ったのよ! 病人の前で不純な真似は禁止! 全員、自分の持ち場に戻りなさーい!!」


 私の絶叫がアーク内に響き渡る。彼女たちの肌の下で蠢く無数のナノマシンが、エネルギー効率を最大化すべく常に最適な温度を保っている。そんな高密度な「存在感」を持つ美少女たちが7人も密集すれば、医務室の空気は物理的に圧迫され、酸素が希薄になったような錯覚さえ覚える。


 これが、世界を敵に回した逃亡者の、どうしようもなく「いつも通り」の光景だった。


 騒がしい娘たちをなんとか医務室から追い出し(クララの除菌だけはしぶしぶ許可した)、私は一人、アークの簡易キッチンに立っていた。


「……お粥、よね。旧文明のデータベースによれば、これが病人の滋養強壮に最適だって……」


 リュウガの脳内から共有された知識を必死に検索し、私は「お粥」なる滋養食の再現に挑んでいた。泥水をすすっていた没落生活では縁のなかった、白い米と清らかな水。

 リュウガのために、最高の一杯を。私は不器用に、けれど心を込めて鍋をかき回した。


「母様! それ、加熱効率が悪すぎますわ! 私が爆発的なエネルギーを注入してあげますっしょ!」


 突如、ツインテールの五女ユーフィが背後から現れ、鍋に向かって拳を突き出した。


「あ/ちょっと待ってユーフィ、それは――」


「『Op. ショック・ウェーブ・クッキング』!!」


 ドォォォォォン!!


 アークの居住区に派手な爆発音が響き渡り、キッチンから真っ黒な煙が吹き出した。


「ゲホッ、ゴホッ! あんた……何してくれるのよ……」


 顔を真っ黒にした私が立ち尽くす中、ユーフィは「あはは、やりすぎたっしょ!」と笑っている。


 魔法陣を経由して大気を無駄に熱する『火炎魔法』ではない。分子運動を直接加速させるナノマシンの干渉が、鍋の水を瞬時に気化させ、米の細胞を物理的に破壊デリートしていた。鍋の中身はもはや食べ物かどうかも怪しい謎の物質へと変貌していた。


 その時だった。黒煙が立ち込める中、私の服の裾を、弱々しく、けれど確かな力が掴んだ。


「……っ!?」


 足元を見れば、ベッドに横たわっていたはずのリュウガの手が、私の白衣を握っていた。彼の身体の粒子化は収まり、その肌には確かな質感が戻っている。


「……五月蠅いぞ、お前たち。……演算が、乱れる」


 懐かしくて、不愛想で、何よりも愛おしい、低く重厚な声。


「リュック……? リュック、あんた、目が覚めたのね……!」

「……ああ。お前たちの、不合理な騒音のせいでな」


 リュウガが、ゆっくりと、けれど力強くその目を開けた。黄金の瞳が、私を真っ直ぐに捉える。


「リュックぅぅぅ!! よかった、本当によかったわぁぁ!!」


 私はお粥の鍋を放り出し、なりふり構わず彼の胸に飛び込んだ。


「……重い。……そして、この味覚センサーに残る『焦げた炭』のような匂いはなんだ、エリー」

「うるさいわね! あんたのために作ったお粥が爆発したのよ!」


「「「「「「「お父様! おかえりなさいませ、マスター!!」」」」」」」


 どこで見ていたのか、シスターズたちが一斉に雪崩れ込み、アーク内は万雷の拍手と歓喜の叫びに包まれた。


『【解析】リュウガ様の覚醒により、エリー様の多幸感指数が計測不能に突入。……出ました!

【母様の本音】リュック……生きててくれてありがとう。愛してる! 大好き! もうどこにも行かないで! ( ´Д`)ハァハァ』

「ファーファ! 空気を読みなさーい!!」


 アークのモニターに大量のハートマークとAAが垂れ流される。いつもならプラズマトーチを振り回すところだが、今日だけはその気になれなかった。


「……はぁ。もういいわ、今日だけは好きにしなさい。……でも、ログの解像度は落としておきなさいよ、恥ずかしいから……」


 ひとしきり騒いだ後、私は気になっていたことを口にした。


「ねえ、リュック……身体はもう大丈夫なの? さっきまで、時々透けて見えたりして、本当に消えちゃうんじゃないかって怖かったんだから」


 私の問いに、リュウガの瞳が一瞬だけ揺れた。彼はわずかに視線を逸らし、不自然なほど静かに私の頭を撫でた。


「……ただの同期ラグだ。Admin権限のリミッターを解除したことによる、一時的な実体定義のエラーに過ぎない。心配いらない、俺は……ここにいる」


 同期ラグってなに?


 彼の声は冷徹な論理に基づいているようでいて、どこか私を安心させるための言い訳のように聞こえた。Adminとしての完璧な演算を誇る彼が、なぜこれほどまでに曖昧な回答をするのか。私の胸に小さな違和感が残ったが、彼がこうして私を抱きしめている感触が、今は何よりも真実だと自分に言い聞かせた。


 突如、アークのメインコンソールが特定周波数の信号を受信し、鋭い警告音を鳴らした。


 青いホログラムが展開され、そこに現れたのは、プラチナブロンドの縦ロールと、アイスブルーの瞳を持つ高貴な女性。極東統一王国のフィクサー、セラフィーナ公爵令嬢だ。


『……相変わらず泥臭い脱出劇ね、エリアーナ。無事で良かったわ』

「セーラ! あんた、王宮にいるんじゃなかったの!?」

『王政の腐敗は私の想像を超えていたわ。王都の消滅を受けて、王国ステイツは死んだわ。……技術院の生き残りによる復興派や、神聖強化騎士団(教団)が各地で武装蜂起を開始した。Adminという絶対的な「王」を失った世界は、今、血を流しながら再編されようとしているのよ』


 セーラは冷徹な瞳の奥に、親友への確かな慈悲を湛えていた。


『今は秘密回線よ。……聞きなさい、リュウガ殿を連れてそのまま北へ。カオス・ゾーンとの境界に、私の家系が管理する「廃城」があるわ。そこを一時的な拠点として提供しましょう。これからは、個の知性と技術、そして愛が試される動乱の時代の始まりよ』

「セーラ……。あんた、そこまで先を読んで……」

『甘く見ないで。技術院も教団も、Adminの力を手に入れるために血眼になっている。……世界を敵に回してでも、その「家族」を守る覚悟はあるかしら? エリアーナ』


 セーラの問いかけに、私はリュウガの腕を強く握り直した。


「……愚問ね。この娘たちは、私の人生そのもの。そしてリュックは、私の唯一のパートナーよ。世界がどうなろうと、私は私のやり方で、こいつらを守り抜いてみせるわ!」


 私は、アークを取り囲む7人の娘たちと、隣で静かに前を見据えるリュウガを見た。


『いい返事ね。廃城までの座標を転送したわ。……リュウガ殿、不肖の友をよろしく頼むわね』

「了解した。……再構築ビルドの刻は近い。公爵令嬢、感謝する」


 通信が切れ、再び静寂が訪れる。だが、その静寂はもはや絶望ではない。


「……さあ、行くわよ。北の『廃城』へ。そこが私たちの、新しい始まりの地よ!」

『【実況】エリー様、格好いい主人公っぽい顔をしていますが、お粥の爆発によるオイル汚れが鼻の下についています(・∀・)』

「台無しなのよぉぉぉ!!」


 アークの巨大なタイヤが再び荒野を噛む。

 暗闇を切り裂くヘッドライトの光を見つめながら、私は確かな予感を感じていた。


 半年前、あの地下遺構でリュウガを目覚めさせた日から、私たちの運命は一つの巨大なうねりとなっていた。王都を脱出し、過去を振り切った今、私たちはもはや「追われる者」ではない。


 新しい時代を、自分たちの力で定義する「開拓者」なのだ。


『【解析】エリー様、ドサクサに紛れてリュウガ様の腕をガッチリホールド。離す気配ゼロです(・∀・)』

「ファーファ……まぁいいわ……。もう、一生離さないって決めたんだから、いいのよ!!」


 爆走するアークの轍が、新しい時代の歴史を刻んでいった。



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