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《SFファンタジー冒険譚》物理と知識で魔法世界を再定義!―拾った助手は2000年前の伝説の管理者(旦那様)でした。追放された天才没落令嬢は最強の娘たちと共に「世界」を再構築中―合計4⃣9⃣0⃣0⃣PV  作者: ざつ
第1章:覚醒編:工房の密室と7つの音色

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第13話:【覚悟】180日の残響とパートナーの定義

 視界に映る情報のすべてが、エラーログのように赤く染まっていた。


 手の中にあるのは、ひび割れた丸眼鏡。指先に触れる金属の冷たさと、微かに残る彼女の体温。それが今の俺にとって、この世界に繋ぎ止められている唯一の実体だった。


「……180日だ」


 俺の内部回路が、正確な時間を弾き出す。

 あの不合理で、騒がしくて、どうしようもなく脆弱な女――エリー・アルテミシアに起動されてから、今日で180日が経過した。


 感情の制御が、演算の枠組みを焼き切ろうとしていた。溢れ出したAdmin権限が、俺の意志とは無関係に周囲のナノマシンを暴走させる。

 バキバキと音を立てて、周囲の岩山が分子レベルで粉砕され、塵となって消えていく。激しい電子ノイズが荒野を震わせ、空の色さえもエラー色に歪めていた。


(警告:Admin権限の異常放出。精神プロセッサのオーバーヒートを確認。……深層メモリへのアクセスが開始されました)


 意識の深淵で、封印されていた2125年の真実がフラッシュバックする。

 崩壊する都市、東京。次元震によって汚染され、バグと化した人類。


 あの日、俺に与えられた役割は、ただの「処刑人」ではなかった。


『汚染された旧人類を全消去デリートした後、Admin管理者は、保存された純粋遺伝子を用いて文明を効率よく再興ビルドせよ』


 俺がコールドスリープに入った真の理由。それは、人類が絶望的な未来を迎えた際、すべてを一度白紙に戻し、俺の脳内にある膨大な知識とAdmin権限を用いて、一切の無駄がない「完璧な理想郷」を再建するためだった。

 俺は消しゴムであり、同時に新しい世界を描くための「設計図」でもあったのだ。


(俺は……世界を掃除し、効率的な家畜の庭を作り直すだけのシステムか。救う権利など、最初からプログラミングされていない……)


 俺が今ここで「再建プロトコル」を起動すれば、リディアも、このバグだらけの世界も、すべて消えてなくなる。そして、俺の手で「正しい人類」を産み出し、導くことができる。

 だが、その完璧な世界に、泥水をすすりながら笑うあの女はいない。


「守れなかった……また、一つも守れなかった……」


 虚無の淵へと引きずり込まれる俺の耳に、場違いなほどやかましい「ノイズ」が届いた。


『ちょっと! 何よその不味そうな顔は! 私の淹れたコーヒーが、そんなに不純物まみれだって言いたいわけ!?』

『あんたは消しゴムじゃないわ! 私のバギーを勝手に運転して、私の小言に鼻で笑う……不合理な私の助手、リュックでしょ!』


 エリーの声だ。


 完璧な再興計画などよりも、彼女が淹れた不純物まみれのコーヒーの方が、今の俺の回路には熱く響く。

 俺は「世界の創造主」などではない。彼女が定義した、ただの「助手」だ。


「……父様! 起きてください! 父様!!」


 現実の音が重なる。

 膝をつくチェロの斧が、震えている。


「防衛ラインを構築しながら、母様を奪われるなど……。第一番個体として、万死に値しますわ。でも、父様! 母様を助けられるのは、あなただけなんです!」

「メイド失格ですわ……。でも、父様が諦めたら、本当におしまいです。お願いです、立ってください!」

「……私の、解析ミス。母様すら見つけられないのに……っ」


 六女ヴィオラがバイザーを床に叩きつけ、四女ルーテは俺の裾を弱々しく掴み、頬を止めどない雫が伝っていた。


「……嫌。母様がいないのは、嫌。……父様、連れ戻して。……お願い」


 三女コルネが自慢の大剣を泥の中に放り投げ、五女ユーフィが子供のように泣きじゃくる。

 末っ子のクララが、震える手で鉄扇を閉じた。


「母様のいない未来の記録に、何の価値があるのですか。……てぇてぇ、のない世界なんて、ただのノイズですわ」


 娘たちの悲鳴が、後悔が、そして俺への切実な願いが、俺の処理能力の限界を超えて流れ込んでくる。

 再興システムとしての俺を、彼女たちの涙が、エリーの記憶が、強引に「個」へと引き戻していく。


「……静粛に」


 俺の声が、荒野の空気を物理的に凍らせた。

 俺は眼鏡を懐に収め、空を見据えた。リディア・スカーレットが去った、王都アステリアの方角。


「再定義を開始する」


 俺の瞳の中で、黄金色のAdmin回路が、冷徹な設計図の輝きではなく「一人の男」の揺るぎない意志として輝き出した。

 効率的な文明の再興など、知ったことか。俺は、この不合理な世界のまま、彼女を取り戻す。


「エリー・アルテミシア。彼女はもはや、俺を起動させただけの『ホスト』ではない。……そして、単なる『雇用主』でもない」


 俺は、立ち上がれない娘たちへ、論理ではなく「愛」を叩きつけた。


「彼女は、俺の唯一の『パートナー』だ。俺という欠陥だらけの論理を、完成へと導いた唯一の正解だ。……彼女がいなければ、この世界を保存する計算式は成立しない。いいか、お前たちの母は、俺の半身だ」


 パートナー。

 俺の思考が、初めて一人の人間に対して、絶対的な価値を付与した。不在だからこそ自覚する、彼女という名の不合理な愛の巨大さ。


「「「「「「「父様……!」」」」」」」


「全リミッター解除。これより王都アステリア中枢へ乗り込み、奥様を奪還する。……邪魔をするものは、たとえ世界システムであっても、塵一つ残さず削除デリートする」


 俺はアークの操縦席に飛び乗り、バギーのメインエンジンを過負荷オーバーロードさせた。駆動系に潜むナノマシンがエネルギー伝達の最短経路を強制構築し、スクラップ同然だったバギーが、重力を置き去りにするほどの物理的質量を伴って咆哮を上げる。


 シスターズたちが漆黒の装甲を最大限に輝かせ、それぞれの持ち場へと展開する。

 彼女たちのナノマシン構成された肉体は、すでに後悔を燃料とした殲滅プロトコルへと最適化されていた。慣性制御を限界まで引き上げ、座標を書き換える準備は整っている。


 バギーが急旋回し、タイヤが荒野の砂を爆発的に跳ね上げた。

 アークの轍が、北ではなく、かつて逃げ出した「王都」へと向きを変える。

 それは、世界で最も強固な要塞への、たった1台の逆侵攻。

 

「待っていろ、エリー。……お前を救い出し、そして今度こそ俺が、お前を『奥様』として――生涯のパートナーとして、その隣に立つ」


 巨大な砂塵を上げて、黄金の閃光となった移動要塞が爆走を開始した。

 この不合理で、熱すぎる復讐劇が――冒頭、第一話のあの凄惨な王都脱出戦、その直前の「救出劇」へと繋がっていく。


『【解析】リュウガ様の「愛」の出力、計測不能。……Admin、およびシスターズ、全リミッター解除。……王都アステリア消滅まで、あと120分(・∀・)』

「ファーファ、カウントダウンを始めろ。……一秒でも早く、俺の半身を奪い返しに行く」


 荒野に、180日分の愛と怒りが、爆炎となって咲き乱れた。


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