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《SFファンタジー冒険譚》物理と知識で魔法世界を再定義!―拾った助手は2000年前の知識の管理者(旦那様)でした。追放された没落天才令嬢の私は最強の娘たちと「世界」を再構築!―合計11KPV  作者: ざつ
第5章:白亜編:論理の檻と感情の種

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第113話:【反撃】地上への反撃、ハッピー・ウイルス作戦

「のじゃデバッグ」から三日。私たちは地下ドームで、最大の反撃作戦を練り上げていた。


「あの失敗を忘れるなよ、エリー」


 ソフィアが演算球体で街区マップを展開する。


「風の音を直接聴かせて脳がパンクした。あの教訓を活かすのじゃ。感情パッチに穴を開けるには、微弱な物理ノイズを広範囲に、少しずつ撒く。感情の歯車を0.1度ずつ回していくのが最適解じゃ」

「極小のノイズ発生装置を量産して、街中の死角にバラ撒く。ゲリラ的な感染拡大作戦ね」


「名前をつけるなら――」

「はいはーい!」


 ボーンが拡声器を振り回した。


「『母様ラブラブウイルス』! 母様の愛が帝国中に――」

「絶対却下ッ!」

「えー、エモいのにー!」

「エモくない、死ぬほど恥ずかしいわ!」


 脱線しかけた空気を、オーボエのハルバードが床を打つ音が切り裂いた。


「作戦名の決定は後回しになさいまし。先に運用を詰めますわよ。……リュウガ様、ご意見は」

「ハッピーでいい」


 リュウガが静かに言った。


「お前の笑顔が、一番の伝染源だ」


 一拍の沈黙。そしてMNWが爆発した。


『記録。永久保存ですわ……』とクララが震え声で呟き、ボーンが『尊いんだよぉ!』と号泣し、コルネとユーフィが抱き合って跳ねている。


「決定! 『ハッピー・ウイルス』! 次ッ!」


 私が真っ赤になって議題を飛ばすと、チェロが咳払いをした。


「では委員長として武器の確認を。何を使うのです?」


 ◇◆◇◆◇


 武器は、音だった。


 旅の中で集めた「旧世界の音」。コーラの炭酸のプシュッ。オルゴールの旋律。自販機のガコン。風、雨、鳥の声。


 それらを収録した極小のノイズ発生装置を量産する。手のひらサイズ。出力は限界まで絞り、半径3メートルの「囁き」。


「これをリディアのドローンで街中に設置する」

「任せなさい!」


 リディアが端末を叩いた。


「100機中、完全稼働55機。応急修理で何とか動くのが15機。計70機を今回に投入する」

「残り30機は俺が3日で直す」


 ヴォルフが後方から声を飛ばした瞬間、意外な方向から手が挙がった。


「わたくしも手伝いますわ。ドローンの光学系はわたくしのバイザーと同系統。調整なら任せてくださいまし」


 ヴィオラが名乗り出た。続いてハープが鉤爪を掲げる。


「精密部品の洗浄と除菌はわたくしの専門ですわ。不潔なまま稼働させるなど論外」

「……わたくしも。微細配線の接続は、暗殺用の指先の精度で」


 ルーテまで手を挙げ、ヴォルフが目を丸くした。


「お、おう……助かるが、お前ら本当にドローン直せるのか?」

「失礼な。わたくしたちを何だと思っていますの」


 ヴィオラが扇のような放熱板で口元を隠し、ハープとルーテが無言で頷く。


 するとピッコが溜息をついて立ち上がった。


「……やれやれ。お主らの腕では、リディアのドローンの量子回路に触れた瞬間にショートさせますわ。わたくしが監督しなければ話になりませんわね」

「プリシラが手伝うなら、ワシも見てやらんとのう。あの子、精密機器にメスを入れる癖があるからの」


 ソフィアまで巻き込まれ、ヴォルフのラボ車がにわかに大所帯になりかけた。


 だがオーボエが冷徹に待ったをかけた。


「ハープ、ルーテ。あなた方には別任務を命じますわ。今夜のノイズ装置設置作戦で、巡回ドロイドの無力化と建物内部への潜入が必要。暗殺と外科的精度が求められる任務は、あなた方にしかできません」


 ルーテとハープが顔を見合わせた。


「……了解。ドローンは、任せます」

「不本意ですが、不潔なドロイドの声帯を切る方が優先ですわね」


 二人が潜入任務に回った結果、ドローン修理班からは主力が消えた。


 沈黙の中、次女オルガが穏やかに手を挙げた。


「あらあら。それでしたら、わたくしがお手伝いしましょうか? 細かい作業、嫌いではありませんのよ」


 一瞬の間。そしてシスターズのMNWが騒めいた。


『オルガ姉様って……そういうの得意でしたっけ?』

『あの人、包帯巻くのは天才だけど、ネジ回したら逆に締めるタイプじゃない?』

『データ照合。オルガ姉様の精密作業スコア……あ、これは公開しない方が……』


「聞こえていますわよ? 皆さん?」


 オルガの笑顔が3度ほど冷たくなり、MNWが即座に静まった。


「セフィラはどうだ? お前、精密作業は」


 ヴォルフが振ると、セフィラが真紅の瞳を逸らした。


「……わたくしは。その。戦闘以外の微細作業は。……コネクタを3つ壊した前科がありますので。……お役に立てません」

「お前、俺の娘のくせに不器用だな……」

「申し訳ありません、お父様。壊す方が得意で」


 結局、ドローン修理班はヴォルフを主任に、ヴィオラの光学調整、ピッコの量子回路監督、ソフィアの最終検査、そしてオルガの「気合と愛情による補助」という布陣に落ち着いた。


「3日で仕上げるわよ。70機が全力稼働すれば、次の散布範囲を倍にできる」


 リディアが腕を組んで宣言し、作戦会議は設置作業のフェーズへ移った。


 ◇◆◇◆◇


 作戦決行。その夜。


 リディアの55機が闇に散った。スカウト型が死角を探り、ジャム型がドロイドの通信に微細な遅延を挿入する。バレット型がノイズ装置を投下し、レコ型が全てを記録してクララへ送る。


 地上では、ルーテとハープが影のように動いていた。


 巡回ドロイドが角を曲がる。ジャム型の通信遅延で報告が0.8秒遅れる隙に、ルーテが背後に回り込み、ハープが振動鉤爪を頚部に当てた。


 キィン。音声回路だけが精密に切断される。視覚も運動機能も生きたまま、「異常を報告する声」だけが消える。


「……5体目。残り12体」

「……声帯の切除。外科手術みたいで、嫌いじゃないですわ」


 明け方までに、3都市200個の設置が完了した。






 翌日の昼。


 地下のモニターに、地上の映像が映る。



 白い街路。無表情の市民たち。いつもと同じ。


 だが、路地裏から漏れる微かな炭酸の音。プシュッ、シュワワワ。


 一人の男が0.5秒だけ足を止め、首を傾げた。別の通りでは、少女の歩調が僅かに乱れた。


「セクター7、歩行パターン変異率0.3%。セクター12、0.5%」


 ヴィオラがバイザーの数値を読み上げる。……ドローン修理の合間に、観測もこなしている。さすがだわ。


「0.3%って、ほとんど――」

「2000年間ゼロだった値が動いたのですわ」


 オーボエが静かに、けれど確信を込めて言い切った。


「目覚めの始まりですわ、母様」


 まだ笑顔には遠い。でも、感情の歯車がカチ、カチと動き始めている。


「チェロ、次回散布のスケジュールを。オーボエ、潜入班のシフトを」

「弾薬在庫との兼ね合いで中二日が最適ですわ」

「潜入班は二交代制にしますわ。ルーテ班とコルネ班で負荷を分散なさいまし」


 長女の兵站と末妹の統制が噛み合い、革命の歯車が回り始める。


「リディア、応急修理の15機は?」

「ヴォルフ班が奮闘中よ。ただし……」


 リディアが苦い顔をした。


「オルガがコネクタを逆に挿して2機止めたわ。ピッコが叫んでソフィアが笑ってヴィオラが額を押さえてる。……まあ、3日あれば何とかなるでしょ」

「オルガぁ……」

「あらあら、愛を込めたら動くと思ったのですけれど」


 通信越しのオルガの笑顔が、いつもより数度高い「てへぺろ」に見えたのは気のせいじゃないわよ絶対。


 白い帝国の片隅で、目に見えない革命が進行していた。撒いた種が芽を出すまで、どれだけかかるか分からない。でも修理屋は待てる。


 一人ずつ。一歩ずつ。世界で一番ゆっくりな革命を、私たちは始めたのだ。


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