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《SFファンタジー冒険譚》物理と知識で魔法世界を再定義!―拾った助手は2000年前の知識の管理者(旦那様)でした。追放された没落天才令嬢の私は最強の娘たちと「世界」を再構築!―合計11KPV  作者: ざつ
第5章:白亜編:論理の檻と感情の種

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第112話:【種子】リュウガの真実(種子と筆記権)

 ソフィアが合流して二日目の朝。彼女は地下ドームの中央に全員を集めた。


「昨日は世界の終わり方を教えた。今日は、なぜ終わるのかを教えてやろう」


 演算球体がホログラムを展開する。映し出されたのは、細胞のような図式。中心に光る核と、そこから放射状に伸びる無数の線。


「これはGaiaのリセット・プロトコルの起動条件じゃ。リセットには『鍵』が要る」


 ソフィアの瞳が、リュウガへ向けられた。


「リュウガ・アスカ。お主はGaiaがリセット後に新文明を書き込むための『種子シード』として設計された存在じゃ。旧文明の知識、物理法則の完全な記録、文明再構築の青写真。Admin権限とは、白紙の世界に新しいルールを書き込む『筆記権』。……そして、お主が目覚めたこと自体が、Gaiaにとっては『リセットの開始信号』なのじゃ」


 地下ドームが凍った。


 チェロが最初に口を開いた。眼鏡の奥の瞳が、かつてないほど鋭い。


「つまり、お父様が目覚めた瞬間から、世界の崩壊は始まっていたということですわね。……母様があのカプセルを開けた日から」


 その言葉が、私の胸を刺した。チェロは責めているのではない。長女として「事実」を全員に共有しただけだ。だが、事実だからこそ痛い。


「じゃあ、帝都で見たレプリカたちは?」


 リディアが鋭く問う。銀の義手を組み、冷静を保とうとしているが、声の奥に怒りが滲んでいた。


「種子データから感情を抜いた劣化コピーじゃ。オリジナルのリュウガだけが持つ『愛というバグ』。それこそが、世界のOSを再定義する唯一のコードなのじゃ」

「……ピッコ。あんた、知ってたの?」


 私が振り向くと、ピッコは唇を一文字に結んでいた。


「……一部は。アリスがわたくしを北の塔に封じた時、断片的に聞かされていましたわ。種子が目覚めればリセットが始まると。……ですが、その種子がリュウガだとは、あの人は教えてくれなかった」


 ピッコの小さな拳が震えていた。アリスの娘として、リュウガを守るために2000年眠らされた彼女。その守るべき相手が、世界を終わらせる引き金だったという残酷さ。


 テューバがピッコの隣に音もなく寄り添い、何も言わずにその小さな肩に手を置いた。口下手な八女なりの、不器用な慰め。ピッコは振り払わなかった。


 ◇◆◇◆◇


 その夜。リュウガがいなくなった。


 夕食の席に姿を見せず、アーク車内にもいない。ファーファの位置追跡は、地上に最も近い換気口の付近を示していた。


「一人にしておいた方が……」


 オルガが気遣わしげに言いかけた時、リディアが私の腕を掴んだ。


「行きなさい、エリー」

「リディア……」

「あの男は今、論理の人間に戻ろうとしてる。『自分が消えれば全部解決する』なんて、最適解の顔をした逃避に走ろうとしてるのよ。……それを止められるのは、あんただけ。私じゃ無理」


 リディアの瞳には、かつてリュウガを追い求めたライバルだった頃の名残はない。ただ、友人としての真っ直ぐな信頼があった。


「……ありがと、リディア」

「礼なんかいらないわよ。さっさと行って、あの朴念仁の目を覚ましてきなさい」


 ◇◆◇◆◇


 換気口の傍に、リュウガは座っていた。仮想の右手がノイズを散らしながら明滅している。


「リュウガ」

「……来たか」

「当たり前でしょ。旦那が食事もせずに家出したら、奥さんは追いかけるものなの」


 私が隣に座ると、リュウガは長い沈黙の後、かすれた声で言った。


「俺が消えれば、お前たちは安全だ」

「……何ですって?」


「種子が消滅すれば、Gaiaはリセットの実行条件を失う。世界は崩壊せず、お前も、シスターズも、この国の人々も生き残れる。……俺一人が消えるだけで」


「馬鹿なこと言わないで」

「馬鹿ではない。論理的な最適解だ」

「最適解じゃない。それは、逃げよ」


 私はリュウガの襟首を両手で掴み、強引に自分の方へ引き寄せた。


「あんたは世界を終わらせる合図なんかじゃない。私が世界を直すための、一番大事な部品なのよ!」

「……部品扱いか」

「最高級の一点モノよ。替えなんて効かないの。あんたが消えたら、私の修理は永遠に完成しないじゃない!」


「エリー……」


「いい、リュウガ。アリスはあんたを守るために世界を分断した。ソフィアはあんたの存在に違和感を覚えて眠りについた。ピッコはあんたを直すために2000年待った。みんな、あんたのために動いてきたのよ。それを勝手に消えて台無しにする権利なんて、どこにもないわ」


 沈黙が落ちた。




 やがて、リュウガの唇が微かに動いた。


「消えるなんて許さない。あんたの仕事はね、私の隣で、私の淹れた不味いコーヒーを飲んで、私の設計にケチをつけて、それで一緒に世界を直すことなのよ。それ以外の選択肢は全部、私がデリートしてあげるわ!」


「……不合理だな」

「何よ!?」

「消える方が合理的だと分かっていて、それでもお前の言葉の方が正しいと感じる。……俺の論理回路は、完全にお前に汚染されているらしい」

「汚染じゃないわよ。愛って言いなさい、愛って!!」


 リュウガが、かすかに笑った。


 ◇◆◇◆◇


 格子の向こう側で、複数の気配が蠢いていたことに私は気づいていた。


「ボーン、鼻水を啜る音がうるさいのよ」

「だってぇ……母様が格好よすぎるんだよぉ……実況できないくらい尊いんだよぉ……」

「クララ、暗がりでスコープを光らせないで」

「……失礼しました。しかし、この構図は永久保存版ですわ……」


「お前ら。聞こえているぞ」


 リュウガの一言で、格子の向こうからドタバタと逃げていく足音。だがチェロの声だけが、冷静に残った。


「母様。……お二人の会話、全て聞いておりました。不謹慎は承知していますが、委員長として確認させてください。お父様は、残ってくださるのですわね?」


 リュウガが、格子越しに長女の声へ向き直った。


「ああ。残る。お前たちの父として、ここにいる」

「……それだけ聞ければ十分ですわ。おやすみなさいませ」


 チェロの足音が静かに遠ざかった。その規律正しさの奥に、安堵が滲んでいたのを私は聞き逃さなかった。


 ◇◆◇◆◇


 翌朝。地下ドームに全員が集まった。リュウガの瞳から、昨夜の虚無は消えていた。


 ソフィアが彼を見上げ、赤銅色の瞳を細めた。


「……顔つきが変わったのう。猿の嫁に説教されたか」

「猿って言うなッ!」

「説教ではない。再定義された」


 ソフィアは「ふん」と鼻を鳴らしたが、口元が緩んでいた。


「……アリスが夢見た不確実な未来が、ここにあるのかもしれんのう。では始めるぞ。ワシは正式にお主らの技術アドバイザーに就任する。まずはシスターズの兵装を量子演算で最適化してやろう」

「量子演算パッチを各個体に適用する。物理出力が理論値で200%向上するはずじゃ」


 テューバが無言で拳を握り直した。200%。彼女の盾が、今の倍の質量を支えられるということだ。チェロと目を合わせ、小さく頷き合う。


「それ、名前つけていいですか!」


 ボーンが手を挙げた。


「『のじゃデバッグ』! ソフィアちゃんの口癖から――」

「ワシの威厳が2000年分消し飛ぶわい」


 ソフィアが渋い顔をしているが、シスターズから「のじゃデバッグ!」「語感いいじゃん!」と賛同が噴出し、ヴォルフまで「悪くねえ響きだ」と笑う。


 リディアが私の隣に立ち、小声で言った。


「昨夜のこと、聞いたわよ。……あんた、やっぱり馬鹿ね。でも、一番強い馬鹿」

「褒めてるの? 貶してるの?」

「リュウガと同じ返しをするんじゃないわよ。……両方に決まってるでしょ」


 リディアが僅かに笑い、ドローンの整備に戻っていった。


 種子の真実。世界の時限爆弾。消えるべきか、生きるべきか。


 答えは、最初から決まっていた。壊れてるなら直す。消えそうなら繋ぎ止める。


「さあ、のじゃデバッグ、始めるわよ!」

「だからその名前はやめんか猿嫁ッ!」


 世界で最も不完全な正解を胸に、私たちの反撃が始まる。


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