↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
《SFファンタジー冒険譚》物理と知識で魔法世界を再定義!―拾った助手は2000年前の知識の管理者(旦那様)でした。追放された没落天才令嬢の私は最強の娘たちと「世界」を再構築!―合計11KPV  作者: ざつ
第5章:白亜編:論理の檻と感情の種

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
120/141

第107話:【対峙】名前のない兄弟

 それは、迂回ルートを取って三日目の夜に起きた。


 旧フランス圏南部、崩れた古城が点在する丘陵地帯。帝国の管理区域から外れた「灰色の領域」を選んで進んでいたはずだった。


「母様、後方に熱源反応。数12。等間隔で接近中ですわ」


 ヴィオラの報告に、車内が凍った。管理者個体の巡回パターンと同じ配置だ。


 等間隔。ヴィオラが先日報告した管理者個体レプリカの巡回パターンと同じだ。4時間周期の定期巡回を避けたはずなのに、なぜ。


「巡回パターンが変わったんですわ。自販機事件以降、帝国全域で警戒レベルが引き上げられた可能性がありますわね」


 オーボエが冷静に分析するが、その声には緊張が滲んでいる。


「逃げ切れる? カイル」

「距離2キロ、接近速度から見て追いつかれるまで約8分。……この地形ではキャラバンの速度が出ません。正直、厳しい」


 カイルが地図を睨みながら苦い声を出した。


 8分。


「……仕方ないわね。逃げ切れないなら、迎え撃つ。全員、迎撃態勢!」


 私のタクトが宙を裂いた。


「シスターズ、迎撃態勢。チェロ、テューバ、オルガはアークの直衛。コルネ、ユーフィ、ボーンは前方で足止め。ヴィオラ、クララは高台から狙撃。ルーテ、ハープは遊撃。オーボエ、全体統制をお願い」

「了解ですわ。……ですが母様、あの個体はお父様と同じ顔をしています。シスターズの動揺は避けられませんわ」


 オーボエの懸念は的確だった。


 月明かりの下、丘の稜線に12の人影が現れた。


 白銀の甲冑。同じ身長、同じ体格、同じ歩幅。そして、リュウガと寸分違わぬ顔。ただし、その瞳には一片の光もない。感情を完全に去勢された、冷徹な管理者の「量産品」だ。


「……っ」


 先頭に立ったコルネの手が、大剣の柄を握ったまま僅かに震えた。


「父様……? ううん、違う。違うよね。でも、顔が……」


 先頭の個体が口を開いた。


「未登録の不純物を検知。管理番号00、消去命令を実行する」


 声まで同じだった。リュウガと全く同じ声帯から発せられる、しかし一切の抑揚を持たない合成音声。12体が一斉に抜剣する。乱れのない完璧な同期動作。


「リディア、ドローンで陣形を崩して!」

「分かってるわよ! 全40機、電磁攪乱モード! あの同期を物理的に引き剥がしなさい!」


 移動中にリディアとヴォルフが帝国の廃棄ドローンを回収・改造して補充した40機の編隊が、夜空を切り裂いて展開した。電磁パルスの幕がレプリカたちの頭上に降り注ぎ、完璧な同期通信にノイズを叩き込む。


 12体の動きが、一瞬だけ「ズレた」。


「今よ! 三馬鹿、突っ込みなさい!」

「了解だよぉお! でもあの顔を殴るのは複雑なんだよぉ!」


 ボーンが重突撃ランスを構えて突進する。レプリカの先頭個体がボーンの槍を片手で受け止め、返す刀で肩装甲を両断した。火花が散り、ボーンが吹き飛ばされる。


「速い……! 父様と同じ速度だよ!」


 コルネの炎を纏った大剣がレプリカの甲冑を焼くが、ダメージを受けた個体は一言も発さず前進してくる。痛みを感じない。恐怖もない。ただ「消去」という命令を実行するだけの機械だ。


「ヴィオラ、クララ! 関節部を狙い撃ちなさい!」

「了解。……ですが母様、あの顔を照準に入れるのは精神的にキツいですわよ」


 クララの狙撃弾が一体の膝関節を撃ち抜いた。だが、倒れた個体は膝が砕けたまま立ち上がり、平然と歩き出す。痛覚が存在しない。


 12体が互いの死角を完璧にカバーする陣形を取り、ルーテとハープの急襲すら跳ね返す。


「12体が完全に同期している。個を持たないから迷いがない。論理的には最強の陣形ですわ」


 オーボエが歯を食いしばった。


 その時、1号車のルーフから白銀の影が飛び降りた。


「……待たせました。ここから先は、わたしが!」


 セフィラだった。パッチ・オフの反動で全身から微かに蒸気が漏れているが、真紅の瞳には揺るぎない意志が灯っている。


 彼女が振動剣を抜いた瞬間、空気が物理的に震えた。レプリカたちの同期が、セフィラの放つ圧倒的な「質量」の前で僅かに乱れる。


「セフィラ、無理をするな! パッチ・オフの負荷が――」


 ヴォルフの叫びを、セフィラは振り返らずに遮った。


「お父様。わたくしは、あの個体たちと同じ設計思想から生まれた存在です。だからこそ分かる。……あの子たちの『弱点』が」


 セフィラが地を蹴った。音速に迫る加速で12体の陣形の中央に突っ込み、振動剣を旋回させる。


 レプリカたちが一斉に反応するが、セフィラはその反応速度をコンマ数秒だけ上回っていた。ヴォルフが「自由の姫」のために施した設計は、感情を去勢された量産品にはない「一点突破」の出力を持っている。


 セフィラの剣が、先頭個体の胸を貫いた。火花が散る。だが、セフィラの真の狙いは破壊ではなかった。


「……同期回線、切断」


 セフィラが振動剣を通じてレプリカの通信モジュールに物理的な干渉を加えた。12体を一つの脳として繋いでいた同期回線が、1体ずつ「孤立」していく。


「リディア、今よ! 孤立した個体を各個撃破!」

「了解! 全ドローン、攻撃モードに移行! 一体ずつ仕留めなさい!」


 リディアの40機が急降下し、孤立したレプリカに集中攻撃を仕掛ける。同時にシスターズが一斉に展開した。チェロの重力斧が一体を地に縫い付け、テューバのハンマーが別の一体を吹き飛ばす。コルネの炎とユーフィの薙刀が交差し、ルーテとハープが死角から一体ずつ確実にコアを抜いていく。


 孤立した個体は、同期時の完璧さが嘘のように脆かった。一人では判断に迷い、連携が取れず、シスターズの不揃いな攻撃パターンに翻弄される。


 だが、最後の一体――管理番号00だけは違った。


 他の11体が倒れた後も、00は一人で立ち続けていた。


 リュウガがアークから降り立ち、00の前に歩み出た。


「管理番号00。……お前に問う。お前は何者だ」

「不要な問い。私は管理番号00。命令を実行する機能」


「名前は?」

「不要」


「守りたいものは?」


 00が0.3秒だけ沈黙した。だがその沈黙は即座に上書きされた。


「不要。消去命令を実行する」


 00がリュウガに斬りかかった。同じ顔の二人の剣が交差する。同じ剣技、同じ速度。だがリュウガの剣筋には「揺らぎ」があった。エリーのメンテナンスが生んだ関節の癖。半年の旅で身についた不規則な動き。完璧なコピーが持ち得ない「ノイズ」。


「俺は管理者じゃない」


 リュウガが00の剣を弾き返し、叫んだ。


「エリーに選ばれた、リュウガという名前の人間だ!」

「あんたとこいつ(リュウガ)は全然違う!」


 私はアークから飛び出して叫んでいた。


「私の旦那様は、不器用で、優しくて、寝言を847件も録音する変態で――でも名前を持ってるのよ! 番号なんかじゃない! リュウガ・アスカっていう、世界で一人だけの、私の大切な人なのよ!」


 リュウガの瞳が一層強く輝いた。


 予測不能の一太刀。感情が乗った不規則な加速が、00の演算を0.02秒だけ遅延させた。その隙に、セフィラが横合いから音速の突きを叩き込み、00のコアを貫いた。


 最後のレプリカが、膝をつき、崩れ落ちる。


「……12人の兄弟。番号しか持たない、俺の影」


 リュウガが膝をつきながら呟いた。


「いつか必ず、お前たちにも名前をやる。俺が、俺の奥さんと一緒に」


 ◇◆◇◆◇


 だが、勝利の余韻は一瞬で消し飛んだ。


「全帝国の監視網が、キャラバンの座標をロックしましたわ」


 ヴィオラの声が鋭く響く。帝国全土の大型モニターに、私の顔が映し出されている。


「指名手配犯:エリアーナ・アルテミシア。危険度:最大。発見次第、即座にフォーマットせよ」

「母様、地上はもう走れません。……地下に潜るしかありませんわ」


 カイルが地図を広げた。


「この近くに、旧パリの地下排水路網への入り口があります。帝国の管理網からは外れている。あそこなら身を隠せるはずです」


 キャラバンが地下へ滑り込む。10台の車両が暗い排水路にギリギリの幅で吸い込まれていく。





 ようやく追っ手の気配が途絶え、誰もが安堵の息を漏らしかけた、その時だった。


「……全員、止まりなさいまし」


 オーボエの声が、鋭く張り詰めた。


「正面。……気配が、ある」


 暗闇の奥から、微かな灯りが揺れている。それも一つや二つではない。十、二十……数十の松明が、地下通路の両脇にゆらゆらと浮かんでいる。


 その一つ一つの明かりの下に、人影がいた。


 ボロ布を纏い、胸に「×」で消した番号の傷を刻んだ、痩せこけた男女たち。彼らは音もなく私たちのキャラバンを取り囲み、武器とも呼べないような錆びたパイプやレンチを構えて、暗闇からこちらを睨みつけていた。


 警戒と敵意。そして、その奥に微かに揺らめく「期待」のような光。


 先頭に立つ男が、松明を掲げて一歩前に出た。


「……止まれ。何者だ」


 沈黙が、地下水路を支配した。


 10台のキャラバンと、闇の中の数十人。


 帝国に追われた「修理屋」と、帝国に捨てられた「声なき人々」。


 二つの影が、地下の暗闇で対峙していた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
竜の姫たちと世界を変える戦いへ!
《音楽xSFxファンタジー戦記》【交響詩】竜の姫と絆のユニゾン ~最強の力は絆の中に。人類に裏切られた天才軍師の俺は、六竜姫の激情を調律し和音を奏でて覇道を往く~(代表作)
《重厚ファンタジー戦記》【交響詩】竜の姫と絆のユニゾン 外伝:断罪の前奏曲 ~処刑寸前の軍師を竜姫が略奪!十二年待った『我の夫となれ』の言葉。亡国の逆境を焼き尽くし覇道を往く~
《王宮裏方奮闘記》【交響詩】竜の姫と絆のユニゾン:奉仕の練習曲(プレリュード)~商家の娘は皿洗いの先に王の盾を見る。伝説のメイド長に叩き込まれる覚悟と作法で王宮の誇りを守る~外伝②
(あらすじ)
元・天才軍師候補のヒカルは、仇敵カインの謀略と人類の憎悪により「裏切り者」の濡れ衣を着せられ、処刑寸前にまで追い込まれる。人間社会に絶望した彼の前に炎の竜姫レヴィアが降臨し、救われた彼は、六人の竜姫(六龍姫)の感情をリアルタイムで把握する「絆の共感者」の異能に目覚めさせられる。
ヒカルの義務は、レヴィアの激情的な愛や、アクアの理性的な愛といった、制御不能な竜姫たちの愛の感情を音楽の和音(ユニゾン)として調律し、軍団の戦闘力へと変えること 。彼は裏切りのトラウマを抱えながら、まず古王軍(闇の竜族)との絶望的な劣勢を覆す内戦に勝利し、六龍盟約軍を完成させ、竜の世界の新たな王になることを誓うのだった。

こちらも超オススメ!!

《SFファンタジー冒険譚》物理と知識で魔法世界を再定義!―拾った助手は2000年前の伝説の管理者(旦那様)でした。追放された天才没落令嬢は、最強の娘たちと共に「世界」を再構築中―



その他の作品もぜひ!

《冒険者ギルドのお仕事ファンタジー》鉄の受付嬢リリアンのプロの流儀 ~冒険は、窓口から始まります~
《純SFハイファンタジー》星を穿つ槍と、黄金のオムライス――放浪の戦術師とポンコツ戦闘メイド――
メゾン・ド・バレット~戦う乙女と秘密の護衛生活~
軌道エレベーターの管理人たち〜地上コンシェルジュは、宇宙(そら)の英雄に恋をする
スローライフを目指したい鈍感勇者のラブコメは、天《災》賢者の意のままに!!〜システィナ様の暴走ラブコメ劇場〜
桃太郎伝 ~追放された元神は、きびだんごの絆で鬼を討子、愛しき仲間たちと世界を救う~
異世界グルメ革命! ~魔力ゼロの聖女が、通販チートでB級グルメを振る舞ったら、王宮も民もメロメロになりました~(週間ランクイン)
時間貸し『ダンジョン』経営奮闘記
【ライトミステリー?】没落お嬢様の路地裏探偵事務所~「お嬢様、危険です!」過保護なメイドと学者と妖精に囲まれて、共感力と絆で紡ぐ、ほのぼの事件簿
ニャンてこった!異世界転生した元猫の私が世界を救う最強魔法使いに?
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。