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《SFファンタジー冒険譚》物理と知識で魔法世界を再定義!―拾った助手は2000年前の伝説の管理者(旦那様)でした。追放された天才没落令嬢は最強の娘たちと共に「世界」を再構築中―合計1⃣4⃣0⃣0⃣PV  作者: ざつ
第1章:覚醒編:工房の密室と7つの音色 【ここからが本編です!】

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第4話:【理論】魔法の正体とナノマシン

 地下遺構での「全裸の衝撃」から3日。


 私の隠れ家兼工房は、かつてないほどの熱気に包まれていた。


 没落貴族の研究者エリアーナ・アルテミシア――つまり私は、不機嫌を全身から漂わせながら、激甘の泥水をすすっていた。徹夜明けの脳に叩き込む、カフェインと糖分の塊。私の唯一の贅沢だ。


「……納得いかない。どうしても、納得いかないわ」


 脳裏に焼き付いているのは、3日前に押し倒された時の、あの冷徹なまでの「物理的な質量」の感触だ。教団の戦士が纏うマナの熱気とは無縁の、研ぎ澄まされた純粋な重圧。その正体を解明できないもどかしさが、私の研究者としてのプライドを逆撫でしている。


 私は、工房の長椅子に無造作に座る男――リュウガを睨みつけた。


 彼は私が用意した古びたシャツとパンツを、それこそ王族の礼服か何かのように完璧に着こなしている。ただ座っているだけで、散らかったラボが美術館か何かに見えてくるから腹が立つ。


「何が納得いかないんだ、エリー」

「その呼び方! そしてその余裕! あんた、自分がどれだけ非常識な存在か自覚しなさいよ!」


 私は指を突きつけた。


「いい、これから私が、現代の叡智の結晶を見せてあげる。これを見れば、あんたも自分の『旧式』さを思い知るはずよ」


 私は精神を集中させ、指先にマナを集めた。


 古の音階をなぞる、長大な詠唱。


「――ああ、大気の中に眠る赤き精霊よ、私の声に応じ、その怒りを顕現させよ! 『フレア・バースト』!」


 詠唱が進むにつれ、私の周囲の空気が「重く」なり、空間が陽炎のようにゆらゆらと歪み始める。同時に、鼻を突くツンとしたオゾンの匂いと、制御しきれないマナが熱となって外部へ漏れ出していく。教団ではこれを「魔力の高まり」によるものだと呼ぶけれど……。


 指先から放たれたのは、バスケットボール大の猛烈な火炎。


 工房の空気を焦がし、赤々と燃え盛るそれは、魔導師としての私の数少ない誇りだった。どうだ、と鼻を高くした私に、リュウガは欠伸まじりに、しかし冷徹な一言を放った。


「非効率だな。記述が冗長すぎる」

「……なんですって?」

「その詠唱は、大気中に充満する環境制御ナノマシン『Type-Gaia』への音声コマンド入力だろ? だが、今のプロセスは無駄な修飾語が多すぎて、実行までに1.2秒のラグが発生している。致命的な欠陥だ」


 ナノ……マシン?


 聞いたこともない単語が、彼の口から滑らかに飛び出した。


「な、なによそのナノなんとかって。新しい呪文の流派? 言っておくけど、魔法ってのは、この世界に満ちている神秘のエネルギー『マナ』を使って、意志を現象に変換する神聖な行為なのよ!」

「神秘、か。定義が不透明だな」


 リュウガは立ち上がり、空中に漂う火球の残滓――私には見えない「マナ」が霧散していく場所を指差した。


「エリー、お前たちがマナと呼んでいるものの正体は、目に見えないほど極小の『自律型機械』の群れだ」

「……機械? マナが?」


 私は思わず、手に持っていたカップを置いた。


 機械というのは、あの歯車が回って蒸気を吐く、ゴツゴツとした鉄の塊のことだ。それが、目に見えないほど小さくなって空中に浮いている?


「そうだ。何兆、何京という単位の小さな機械――ナノマシンが、あらかじめ設定されたプログラムに従って物理干渉を行っているに過ぎない。火が出るのも、氷ができるのも、その機械群が摩擦熱を発生させたり、分子運動を停止させたりしている結果だ。お前の詠唱はその機械たちへの命令書だが……今の命令は詩的すぎて機械が困惑しているぞ。変換効率も15%以下だ。熱量の大半が空気を無駄に温めることに消費されている」


 目に見えない、極小の、機械。

 その言葉が、私の脳内で強烈なスパークを起こした。


「……ちょっと、待って。それって、つまり……」


 私は自分のプライドが傷ついたことも忘れ、リュウガの目の前まで身を乗り出した。至近距離。彼の瞳に映る自分の興奮した顔に気づかないほど、私の「研究バカ」のスイッチが入ってしまった。


「マナそのものが、独立した演算回路を持った個体だってこと!? その一つ一つに、私の意志を伝えるための受容体があるの? それをあんたの言う『科学』で制御すれば、詠唱なんてまどろっこしい手順を踏まずに、直接事象を書き換えられるってわけ!?」

「論理的にはその通りだ。お前の言うマナ回路は、その機械群への無線給電とコマンド送信のアンテナに過ぎない……おい、顔が近い」

「詳しく教えなさい! その機械の構造は? 外部からの干渉を受け付ける周波数は固定なの? それとも変調可能なの!? ねえ、リュック!」


 私は彼のシャツの襟を掴み、彼の瞳を食い入るように見つめた。彼の虹彩の中で黄金色に明滅する幾何学的回路――それこそが、そのナノマシン群を直接支配するための「管理者権限(Admin)」の証なのだ。神秘というヴェールを剥ぎ取った先に現れた世界の真の設計図に、私の魂がゾクゾクと震えた。


 新発見。新大陸。2000年前の「管理者」しか知り得ない、世界の真の設計図。


 ちょっと話を聞いただけで、ゾクゾクするような高揚感が全身を駆け抜ける。


『【解析】エリー様、研究対象(リュウガ様)への興味が抑えきれず、パーソナルスペースを90%喪失。心拍数は激しい恋……ではなく、知的好奇心でオーバーフロー中です(・∀・)』

「ファーファ! 次変な実況したら、あんたの音声出力回路スピーカー、物理的にハンダで塞いで『カエルの鳴き声』しか出ないようにショートさせるわよ!」

『ひえぇぇぇぇ! 母様の目がマジだお!』


 ファーファの無機質な声が、ラボの静寂を切り裂いた。


 我に返る。


 目の前には、至近距離で私を見下ろすリュウガの整いすぎた顔。


 私の手は彼の胸元にあり、鼻先が触れそうなほど顔を近づけていた。


「ひゃ、ひゃああああっ!?」


 私は弾かれたように飛び退いた。


 一瞬で顔面が沸騰し、丸眼鏡が湯気で曇りそうになる。


「な、ななな何を言わせるのよ、この変態! 違うわよ、私はただ、あんたの持ってるデータの有用性を検証しようとしただけで、その、物理的に近づきたかったわけじゃなくて……!」

「俺は何も言っていない。勝手に近づいてきたのはお前だ、エリー」

「うるさーい! バカ! 今の私の醜態を、大気中のナノなんとかに命じて一括消去しなさいよぉぉ!」


 地団駄を踏む私を、リュウガは呆れたように見つめていた。


 だが、その瞳の奥には、私の不合理なほどの情熱を「計算外の熱量」として面白がっているような、かすかな光があった。


「……面白いじゃない。あんたの言うことが本当なら、私が今までやってきたことは『非効率なゴミ』だったってわけね」

「ゴミとは言わない。お前の出力の安定性は、統計的に見ればかなり優秀だ」

「言い訳はいいわよ! だったら、上書きしてあげなさいよ!」


 私は彼を、工房の奥にある「禁断の区画」へと引きずっていった。


 そこには、私が技術院を追放される原因となった、七体の未完成の人形たちが眠っていた。


 金髪碧眼。完璧な肉体美を持つが、まだ一度も目を開けたことのない、私の理想。


「技術院の老害どもは、これを『心のないガラクタ』って呼んだわ。魂が入らない失敗作だって。……ねえリュック。あんたのその管理者権限とやらで、この子たちを救える?」


 リュウガは、七体の素体をじっと見つめた。


「……魔性石をコアにした、旧時代の物理実装か。……ああ。俺の血液――管理者コードの欠片を流し込めば、魂を宿すことができる」

「あんたの、命を吹き込むのね……」







 それから、あっという間に半年が過ぎた。


 没落貴族のゴミ溜め同然だった私のラボは、リュウガという「管理者」の参入によって、世界で最も過激な再定義の現場へと変貌を遂げた。


 この半年間、私たちは寝食を忘れ、七体の素体を根本から作り直した。教団の非効率な魔導回路をすべて引き剥がし、リュウガの知識に基づく新しい受容体へと置き換えていく作業。私の精緻な人形細工の技術と、彼の冷徹な物理理論が、火花を散らすように混ざり合った。


「エリー、左第3マニピュレーターの軸が0.02ミリずれている。これではマッハ超えの加速時に摩擦熱で自壊するぞ」

「わかってるわよ! 慣性制御の計算をこっちに投げて! 物理法則をハッキングするなんて、あんたの頭はどうなってるのよ!」


 罵り合い、互いの才能に舌を巻き、時には一つのパンを分け合って過ごした180日。リュウガという機能美の塊が隣にいることが、いつの間にか私の「日常」というプログラムに深く書き込まれていた。


 私は、彼の黄金色に光る瞳を見つめた。


 科学と魔法、論理と不合理。


 そのすべてが交差するこの地下室で、私たちの「家族」が産声を上げようとしていた。


『【実況】エリー様、先ほどの失態を大気中のナノマシンで物理的に抹消するよう注文されましたが、私のサーバーに永久保存済みですのでご安心ください(・∀・)』

「ファーファ! 今すぐ初期化しなさーい!!」


 リュウガがシスターズのコアに手を伸ばす。

 これが、世界を再定義するシンフォニーの、第一小節の始まりだった。


 2000年の知識と私の技術のすべてをつぎ込んだ、娘たちがついに目覚めるのだ。


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