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《SFファンタジー冒険譚》物理と知識で魔法世界を再定義!―拾った助手は2000年前の伝説の管理者(旦那様)でした。追放された天才没落令嬢は、最強の娘たちと共に「世界」を再構築中―  作者: ざつ
第1章:覚醒編:工房の密室と7つの音色 【ここからが本編です!】

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第3話:【邂逅】2000年の沈黙と目覚め

 思えば、すべては半年前に遡る。


 没落貴族の研究者エリアーナ・アルテミシア――つまり私は、人生最大の、そして最後になるであろうギャンブルに挑んでいた。


 場所は、祖父が遺した古ぼけた洋館の地下。


 カビと埃、そして死んだ機械の油の匂いが立ち込めるその地下遺構の最深部には、2000年の時を経てもなお、冷徹な青い光を放ち続ける「聖域」があった。


 この『聖域』に満ちているのは、教団が崇める不純物混じりのマナとは一線を画す、極限まで精製された純粋なエネルギーだ。外界の魔導デバイスが撒き散らす焦げ付いたオゾンの匂いも、空間を無駄に歪める熱漏れも、ここには一切存在しない。


「……これさえあれば。これさえ起動すれば、あいつらに、技術院の鼻を明かしてやれるのに!」


 私は震える手で、巨大なシリンダー状のカプセルに手をかけた。


 没落し、研究費を打ち切られ、食べるものにも事欠くようになった私の、文字通りの命綱。祖父の遺言にあった『アルテミシアの希望』――2000年前のコールドスリープカプセル。


「生体認証のパスワードなんて知らないわ。……なら、物理的に回線をショートさせてこじ開けるまでよ!」


 バッテリーを直結させたハンダごてを、分厚いパネルの基板に強引に押し込む。

 バチバチと青い火花が散り、2000年間眠っていたロック機構が沈黙した。



 プシュッ




 世界の終わりを告げるような、あるいは始まりを祝うような排気音が響いた。


 超高密度の窒素の霧が溢れ出し、私の眼鏡を一瞬で真っ白に曇らせる。


「ひゃああっ、冷たい! ちょっと、出力が強すぎるわよ!」


 私は眼鏡を拭うのももどかしく、霧の向こうに手を伸ばした。


 そこに、彼がいた。


 2000年の沈黙から目覚めた、彫刻のように美しい青年。

 短めの黒髪。無駄のない、鋼のような筋肉を纏った軍人的な体躯。


 ――そして、一糸まとわぬ、あまりにも無防備で暴力的なまでに完璧な、全裸。




 眼鏡をかけ直した私の視界に彼が映った瞬間、脳内の全回路がショートした。


「ふ、ふ、ふふ、物理的な!? これ、生体的な、その、つまり、ぜ、全裸だわ、これ!? はぁはぁ、単なる全裸じゃないのよ、なにこれ、機能美の暴走よぉぉ!」


 男性への免疫など、研究室の顕微鏡の中に置いてきた私の顔面は、一瞬でオーバーヒート寸前の真っ赤に染まった。混乱した思考は口を突いて意味不明な言葉をまき散らす。


「いやいや、な、なに見てるのよ、エリー! いえ、見てるのは私だけど! この角度、黄金比だわ……じゃなくて、隠しなさい! 何でもいいから遮断デリートしなさいよ!」


 私は我を忘れて叫び、けれど科学者の性で、無意識にメジャーを握りしめて彼の身体を「検体」として直視し続けていた。


「2000年前の旧人類! 至高の解像度! ああ、でも恥ずかしい! でも観察したい! あああああ、もうメス入れたい! というか私が死ぬわ!」


 混乱して叫びながらも、私は職業病で彼の身体を隅々までスキャンするように見つめていた。とにかく驚いたのは、その「密度」だ。魔法で強化された騎士のような歪な肥大化じゃない。無駄な贅肉を削ぎ落とし、あらゆる動作においてエネルギー伝達の最短経路を形成しているような、暴力的なまでの構成ビルド


 魔力による無理な筋力強化がもたらす肉体の歪みが、一切ない。細胞一つ一つが最適化を受けて、最も効率的な熱伝導と運動出力を約束している――ように見えた。当時の私には、その仕組みを説明する言葉がなかったけれど。


「……ほんと、これこそ機能美の暴走だわ。魔法なんていう曖昧なノイズに頼らず、純粋な物理法則だけでここまで『完成』されているなんて……」


 彼の肉体そのものが、2000年前の失われた技術が導き出した「究極の最適解」に見えて、私の思考回路は完全にオーバーヒートしていた。



 その時だった。


 冷たい霧の中から、一対の瞳がカッと開かれた。

 知的な、しかし底知れない虚無を湛えたディープブルーの瞳。


 彼は最初、口をわずかに動かしたが、そこから漏れたのは人間の言葉ではなかった。


「……■■■……//ERROR……L00P_INIT……」


 電子的な高周波ノイズと、意味を成さない旧文明のシステム言語。


「は……? な、何よ。何て言ったの? あんた、幽霊じゃないわよね? ちょっと、返事しなさいよ! 私はエリアーナ、あんたを助けた恩人なんだから! だいたいその格好、全裸なのがいけないのよ! 聞いてるの!? 服! 羞恥心! 文明の利器を使いなさいよ!」


 私が混乱のままにまくし立てる。

 彼は数秒間、私を凝視した。


 その瞳の虹彩の中で、黄金色の幾何学的回路が激しく明滅している。2000年の間に蓄積された膨大なデータベースと、目の前で喚き散らす私の発声――現代語の音韻、文法、そして「全裸」に対する過剰な反応という文脈までもが、超高速で照合されていく。


 私の「何て言ったの?」「返事しなさい!」という問いかけそのものが、彼にとっては最高精度のパターン学習用データとなっていた。


 わずか1分。


 彼が一度瞬きをすると、回路の光が落ち着き、その唇から驚くほど滑らかな「私と同じ」現代語が紡ぎ出された。


「……脅威レベル、低。言語パターンの解析、および同期完了。問題ない、会話は可能だ」

「は……? いま、何したのよ」

「お前の発声周波数から文法、語彙、感情に伴うイントネーションの統計を抽出した。推論補完の結果だ。……それにしても、少し、騒がしいな」


 さらりと離れ業をやってのけた彼は、目覚めたばかりとは思えない電光石火の動きで私の手首を掴み、そのまま冷たい床へと押し倒した。


 重力加速度さえも味方につけたかのような、一切の予兆を感じさせない最短距離の移動。教団の戦士が魔法を唱える暇も与えない、物理法則を極限まで活用した機動力。


 全裸のまま、一切の羞恥心を感じさせない無機質な瞳で私を見下ろす。


「……お前が、俺を起動させたホストか」


 低く、重厚な声。


 彼の指先が私の喉元に触れる。少し力を込めれば、私の首なんて簡単に折れてしまうだろう。その指先からは、魔法発動時の不快な熱気など微塵も感じられない。あるのはただ、冷徹なまでに研ぎ澄まされた「物理的な質量」の重圧だけだ。


「ひぃっ、あ、当たり前でしょ! 私が、私が命の恩人なんだから! そ、その手をどけなさい! あと服を着なさい!」


 私は震える声で精一杯強がった。至近距離で彼に圧し掛かられ、あまりの「全裸の威力」に私の心拍数は宇宙まで届く勢いだ。


「管理者権限のマーカーを確認。お前、なぜその鍵を持っている」

「管理者……? 何のことよ! 私はエリアーナ、天才魔導人形師よ!」

「理解不能。言語の更新により定義がズレているな……だが、理解した。お前は、敵ではないな」


 彼はゆっくりと私から離れた。


 カプセルに背を向け、自分の手を見つめる彼の背中は、裸であるにも関わらず、あまりにも孤独に見えた。


「俺の名前は……リュウガ・アスカ。……記憶は大部分が欠落している。ただ、何かを取り返しのつかない形で削除したような、重いノイズだけが残っている」

「リュウガ……じゃあ、リュックね。いいわ、あんた、自分の価値がわかってる?」


 私は立ち上がり、服の埃を払った。顔の火照りはまだ引かないが、無理やり研究者としての理性を立ち上げる。


「あんたは2000年前の生けるデータベース、そして数分で言語を習得する超知能の持ち主! つまり、私の最高傑作の『素材』よ!」


 私は彼の前に立ち、タクトを突きつけた。


「今日からあんたは私の『助手』になりなさい! 私の夢を叶えるために、馬車馬のように働いてもらうわよ!」


 リュウガは少しだけ眉間にしわを寄せ、こめかみに触れた。


「不合理だな。助手になるメリットが、俺の論理には存在しない」

「メリットはあるわよ! 私が、あんたを世界一幸せな『助手』にしてあげるから!」


 それが、不愛想な管理者と、研究バカの没落貴族が出会った、最悪で最高の瞬間だった。


 その傍らでは、私が作りたての球体ドローン『ファーファ』が、初めての感情ログを記録していた。


『【解析】マスター・エリアーナ、出会って3分で恋に落ちた模様。全裸のインパクトが脳内HDDを直接上書きしました(・∀・)』

「ファーファ! よ、余計な実況はやめなさい! その記録、今すぐ消去しなさーい!」


 地下遺構に響く私の絶叫。


 ここから、私たちの、不完全なシンフォニーが始まったのだ。


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