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2.おまけのトピック

 最近、書き方の本ばかり読んでいるせいか、感覚がおかしい。小説を読んで気持ち悪いと感じるのだ。自分の文章などはそれ以前でメチャクチャだと感じるばかりだが、プロの小説文章を読んですら感じる時がある。これは何だと自身に尋ねたら、おそらくは誰が語っているのか解からないからだろうと返ってきた。

 私が読む書き方の本は学者の書いたものが中心だ。彼等は作家の書く書き方の本は応用編ばかりで解かっていること前提で観念論の話をするから解からない、とそう言う。解かりやすい文を書く心得で、専門用語や外国語を使うなと言っておきながら、抽象論を抽象的に書くわけだ。具体的にどうすればいいのかは、さっぱり解からない。

 この抽象文で書かれた一人称三人称の説明だが、曖昧で、ようするにどんなものでも許されていると言いたいのか、としか受け取ることが出来ない。そして、実際にそう言いたそうである。三段論法になるが、そうなると世間にも溢れかえるわけだ、この理屈が。おかげで、これに乗り損ねた者は気持ち悪さを感じる羽目になったのだろう。おかしなモノだと思う。片方ではケータイ小説をどうのこうのと文句を言いつつ、平気で恣意的なラインを引いている。

 他人のことはこの際どうでもいい。困るのは自身のことだ。気持ち悪くない一人称三人称を自分なりに確立しないことには自分が困る。

 原因を探ってみた。

 まず、エッセイや実用書に気持ちの悪さは現れた試しがない。これは、最初から語り部の姿が見えているからだろう。例えばエッセイなら、洒落たカフェのテーブルに差し向かいで、著者と座っているイメージだ。頷きながら、著者の話術に聞き入っている。実用書なら著者がホワイトボードの前に立って、指揮棒で示しながら内容解説を行ってくれるイメージだ。ふんふん頷きながら聞いている。

 『吾輩は猫である』になると、畳の間に吾輩君が坐しており、顔でも洗いながら愚痴っている。その向かいに胡坐をかいて、やっぱりふんふんと聞いているという寸法だ。アリの人生を伝えてくれる何者かは、しゃがみ込んでこの老いたアリを眺めているかのように語る。

 ふむ。一人称でも三人称でも、「文字を綴った誰か」は必ず居るものだ。すると三人称とは、この誰かの一人称ということでもあるわけだ。語り部が聞いた話を読者に聞かせている。「わたしが聞いた話だが、」という前提に、語り部を主役として書かれる一人称だから、語り部は物語そのものには登場しないが物語の説明は語り部の主観になるのだ。

つまり、ナレーターとなる。亡霊のようで気持ちが悪いと感じたのは、その存在を感じたからではなく、むしろ逆に物語に食い込んできたためだったのだ。聞いた話なのにどうしてそこまで知っている、と無意識に疑問が生じた時には気持ちが悪くなる。つまり、地の文の中でも主観で書いていいものには制限が掛かるということだ。ううむ、難しいな、なんとなく感覚的には解かる気がするけど。

 そもそも文章とは、ある主題を説話に乗せて語るということで、小説はすなわち、それ自体が喩え話なのだ。

 つまり、語り手の存在はある程度、最初のうちから匂わされていなければならないってことだ。一昔前の手法に多かった『昭和何年何月何日――』という始まりも、「語りかける誰か」を意識させるという目的が含まれるのだ。だから、他人事というニュアンスで冒頭一発目の一文が始まる。ジョージ・オーウェルの短編では『荘園農場のジョーンズ氏は、』という始まり方をしているし、浅田次郎のは『町に地下鉄がやって来た日のことを、真次は克明に覚えている。』とやはり他人事で始まる。アガサ・クリスティーなら『エルキュール・ポアロは朝食の席についていた。』とこれまた他人事の書き出しだ。聞いた話をさらに人に聞かせている、そんな形式で語られるのが三人称ということなのかも知れない。



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