第33話 帳簿と地図
十三歳になるころ、僕は水路の手伝いだけでなく、倉庫の帳簿も写すようになった。
大きな数字を計算するのは苦手だったが、荷車がどこへ何回行ったかなら、地図と合わせて確かめられた。
ある日、北の見張り台へ送る薪の量が、去年より少ないことに気づいた。
「足りなくならない?」
ゴードン爺さんに尋ねると、爺さんは運搬の記録を見せてくれた。
「荷車は同じ回数出ていますが、今年は道の状態が悪く、一度に積める量を減らしました」
「じゃあ、回数を増やせば」
「馬も人も、ほかの仕事があります」
僕は地図を広げた。
橋の手前までは平らな道。橋を越えると急な坂がある。
荷を少なくしているのは、その坂を登れないからだという。
「橋まで大きな荷車で運んで、そこで小さな荷車に積み替えるのは?」
爺さんは首を傾げた。
「積み替える人手が要りますな」
「見張り台から誰か迎えに来てもらえないかな」
「見張りが減ります」
僕は紙へ数字を書いた。
荷の量、歩く距離、必要な人。計算するたび、どこかが足りなくなる。
翌日、倉庫の男に聞くと、橋の手前に古い小屋があると教えてくれた。
そこで一晩だけ荷を置ければ、馬を休ませながら小分けに運べるかもしれない。
「小屋、まだ使える?」
「屋根が抜けてなければね」
僕はゴードン爺さんへ頼み、現場を見に行った。
小屋の屋根には穴があり、床板も腐りかけていた。
思いついた案は、すぐには使えなかった。
でも、板を替える費用と人手を調べることはできた。
父さまに報告すると、父さまは数字を見て言った。
「修理しても、得になるのは数年先だな」
「でも、その間ずっと使えるよ」
「分かっている。ほかの修理を後回しにしてよいか、考えよう」
父さまは紙を僕へ返した。
「その図の写しを一部、執務室へ置いていけ」
「修理の予算を考えるの?」
「……それもある」
父さまはそこで言葉を切り、もう一度だけ僕の書いた数字を見た。
「調べたことは、無駄ではない」
それは以前のような褒め言葉ではなかった。
でも、僕は紙を大事に抱えて部屋へ戻った。
数日後、その図の写しが分厚い封筒にまとめられ、領地の帳簿とは別の棚へ置かれているのを見かけた。何のためなのかは聞かなかった。




