第22話 遠ざかる背中
秋が深まるにつれ、父さまは僕の授業を増やした。
帝都で役立つ知識が要るのだという。
朝は魔術、午後は帝国の歴史、夜は計算。ヴォルクが休ませようとしても、父さまはあと少しだけと頼んだ。
先生は僕の顔を見るたび、眠れているか尋ねるようになった。
兄さんと遊ぶ時間は減った。
中庭へ降りると、兄さんの稽古が終わっている日が多い。
ある夕方、兵舎へ行くと、兄さんは剣の手入れをしながら見回りの相談をしていた。
「明日の巡回は北門からでいいですか」
僕が入ってきても、兄さんはすぐには振り返らなかった。
兵士との話が終わってから、ようやく笑った。
「どうした?」
「何してるの?」
「明日の見回りの段取り」
「僕も行っていい?」
「父さまに聞いてみろ」
以前なら、兄さんがすぐに連れていってくれた気がした。
その帰り道、僕は少し拗ねていた。
「最近、兄さんは兵舎ばっかり」
「お前も勉強部屋ばっかりだろ」
「僕は父さまに言われてるから」
「俺だって、ここで覚えたいことがあるんだ」
兄さんの声は怒っていなかった。
それなのに、僕は置いていかれる気がした。
「じゃあ、もう遊べないの?」
「そんなこと言ってない」
兄さんは歩みを止め、僕の目の高さにしゃがんだ。
「時間が合えば一緒にいられる。合わない日もある。それだけだ」
「……うん」
「明日は夕食のあと、地図を見ようか」
僕はようやく頷いた。
次の日、夕食が遅くなった。
ヴォルクの宿題が終わらず、兄さんとの約束を思い出したころには、廊下の灯りが半分消えていた。
書庫へ行くと、机に地図が広げられていた。
でも、兄さんはいない。
マルタに聞くと、明朝の巡回に備えてもう休んだらしい。
僕は椅子へ座り、地図を一人で見た。
昨日、兄さんが指した川を辿る。知らない道が何本もあった。
兄さんに聞けば教えてくれただろうに。
僕は地図を畳み、机の端へ揃えた。
約束を破ったのは僕の方だった。
そのことが悔しくて、寝台に入ってもしばらく眠れなかった。




