第21話 嵐の書庫
秋の嵐で、屋敷の窓が一晩中鳴った。
寝つけずに廊下へ出ると、書庫から明かりが漏れていた。
「兄さん?」
扉を開けると、兄さんは大きな地図を机に広げていた。
「眠れないのか」
「うん。雨の音がうるさくて」
「じゃあ、少しここにいろ」
僕は向かいの椅子へ座った。
地図には、ランカスター領だけでなく、帝都や北の国境まで描かれていた。
「こんなに広いんだ」
「本物はもっと広い」
兄さんは指先で川をなぞった。
「ここが増水すると、この街道は使えなくなる。こっちを通ると、今度は山を越える」
「水路の話に似てるね」
「そうだな」
僕らは道を追いながら、荷車が何日かかるか考えた。
兄さんは兵舎で聞いたことを話し、僕はゴードン爺さんから聞いたことを話した。
雷が近くで鳴った。
僕は肩をすくめ、椅子を少し兄さんの方へ寄せた。
「帝都へ行くとき、兄さんも来る?」
兄さんの指が止まった。
「まだ決まってない」
「僕は一緒がいい」
「前にも聞いたな」
「何回だって言うよ」
兄さんは小さく笑ったが、すぐに窓の方を見た。
「帝都じゃ、お前にはもっとすごい人たちが会いに来る。俺は、その隣に立って何をするんだろうな」
「兄さんは兄さんでしょ」
「それだけでいいのかな」
僕は不思議だった。
兄さんは僕の兄さんだ。それ以上の理由なんて、必要だろうか。
雨が少し弱まったころ、兄さんが古い本を閉じた。
「戻ろう。明日寝坊するとマルタに叱られる」
僕は地図を畳むのを手伝った。
最後に帝都の印が見えなくなると、なぜだか胸の奥が少し寂しくなった。
でも、兄さんが灯りを持って廊下を歩いてくれたので、怖くはなかった。




