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夕焼けの放課後と、ふたりだけの秘密

橘色に染まる放課後の校舎。


昼休みの「公認(?)宣言」の波紋は、瞬く間に学年中に広がり、6時間目が終わる頃には2年B組の教室前を他クラスの生徒たちが覗きに来るほどの大騒動となっていた。


なんとかクラスメイトたちの質問攻めを回避し、人目を忍ぶようにして校門を抜け出した依真と鷗賀。


川沿いの堤防道路に辿り着く頃には、騒がしかった街の喧騒も遠のき、穏やかな川のせせらぎと、チチチと鳴く鳥の声だけが響いていた。


「はぁ……はぁ……なんとか逃げ切れたね……」


カバンを手に持ち、堤防の草むらにぽてんと座り込んだ鷗賀は、真っ赤な顔のまま膝に顔をうずめた。

風に揺れる銀髪が、夕日を浴びて綺麗な茜色に染まっている。


「いつま……ごめんなさい……っ。私、クロエさんにあんなに『目立たないように』って言われてたのに……パニックになって、あんなこと言っちゃって……っ」


声が小さく震えている。

膝の間から覗く翡翠色の瞳には、申し訳なさと恥ずかしさでいっぱいの涙が溜まっていた。


「いつまにまで、変な嘘つかせちゃったし……クラスの人たちにいっぱいからかわれて、嫌だったでしょ……?」


自分のせいで依真を困らせてしまったと思い込み、落ち込む鷗賀。

その健気で可愛らしい姿に、依真はクスッと笑いを漏らすと、彼女の隣に腰を下ろした。


「嫌なわけ、ないだろ」


「え……?」


「『一番大切な人』って言われて、嫌がる男がどこにいるんだよ」


依真はすっと手を伸ばし、鷗賀の小さくて柔らかい手を、夕空の下でギュッと握りしめた。


「確かに最初は焦ったけどさ……嬉しかったよ。鷗賀が俺のことを、そんな風に思ってくれてること。それに……俺が言った『世界で一番大事な奴』って言葉も、嘘なんかじゃないからね」


「いつ、ま……」


鷗賀の瞳から、ポロリと一粒の涙が零れ落ちる。


「私……ずっと心配だったの。学校に行ったら、いつまは『普通の高校生』で、周りにはたくさん可愛い女の子もいて……私だけが『異物』みたいになっちゃうんじゃないかって。いつまが遠くに行っちゃう気がして……すごく怖かった……」


ぎゅっと、握り返してくる鷗賀の手の力。

「心」を持ったからこそ生まれる、繊細で愛おしい嫉妬と不安。


依真は握った手に力を込めると、彼女の体を優しく引き寄せ、その細い肩をしっかりと抱きしめた。


「遠くになんか行かないよ。俺の隣は、最初から今まで、ずっと君だけの場所だ」


「……ほんと……?」


「本当。学校でも、家でも……俺の一番は、ずっと鷗賀だよ」


依真の胸の中で、鷗賀は安堵したように小さく息を吐いた。

彼女はゆっくりと顔を上げると、濡れた瞳で依真の唇をじっと見つめた。


「じゃあ……さっきの『嘘じゃなかった』証明……ちょうだい?」


「証明……?」


「うん。朝の『お勉強の約束』の続き……。放課後の、二人だけの秘密のやつ」


照れくさそうに微笑みながら、少しだけつま先立ちをして顔を寄せてくる鷗賀。

夕焼けの光が二人を包み込み、影が長く堤防の上に伸びていく。


「……しょうがないな」


依真は静かに目を閉じると、ゆっくりと彼女の唇へ己のそれを重ね合わせた。


風がふわりと通り抜け、二人のセーラー服と学ランの裾を揺らす。

クラス中を騒がせた波瀾万丈の転校初日。

けれど、夕暮れの河川敷で重ね合わされた二人の温もりは、世界で何よりも甘く、そして確かな「二人だけの真実」だった——。

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