波乱の転校生と、秘密の距離感
透き通るような夏空の下、第一高校の校門をくぐる生徒たちの雑踏が響いていた。
「はぁ……緊張する……いつま、私の制服姿、本当におかしくない……?」
校門の少し手前で、鷗賀は何度も紺色のプリーツスカートの裾を整えながら、不安そうに依真の顔を窺っていた。
アイロンがピシッとあたった真っ白なセーラー服に、胸元で揺れる赤いリボン。サラサラの銀髪は朝の光を浴びてキラキラと輝き、彼女の透き通るような白い肌をより際立たせていた。
「おかしくないよ。すごく似合ってる。……というか、綺麗すぎて目立ちまくってるけどね」
依真の言葉通り、登校中の生徒たちが次々と足を止め、通り過ぎざまに鷗賀の姿を二度見、三度見していく。
『なぁ、あのモデルみたいな子、どこのクラスだ……?』
『うちの学校にあんな美少女いたっけ……!?』
ヒソヒソと囁き合う周囲の視線に、鷗賀は少し照れくさそうに身を縮め、無意識に依真の袖口をつかもうとした。
「あっ……だめだよね。学校では『遠い親戚』って設定なんだから……」
ハッと気づいた鷗賀は、寂しそうにキュッと指を引っ込めた。
その健気な仕草に、依真の胸がキュッと締め付けられる。周囲の目を盗み、依真は彼女の耳元へ静かに囁いた。
「家に戻ったら、いくらでも手をつないでいいから。……今は少しだけ、我慢してな」
「っ……! うん……! 約束だよ、いつま……!」
それだけで顔を真っ赤にしてパッと表情を輝かせる鷗賀。その素直な反応に、依真は思わず頬がゆるむのを隠せなかった。
一時間目のホームルーム。
依真の所属する2年B組の教室は、朝からどこか浮足立った空気に包まれていた。
「いいかー、静かにしろー。今日からこのクラスに新しい仲間が増える」
担任の木村先生が教壇を叩くと、教室中が一気に静まり返った。
「諸事情で海外から帰国して、今日から編入することになった『真名』さんだ。入れー」
ガラガラと音を立ててドアが開いた瞬間、教室内の空気が凍りついた。
ゆっくりと教壇へ歩み出る鷗賀。
その息をのむほど整った容姿と、凛とした翡翠色の瞳が教室内を見渡すと、次の瞬間には男子生徒たちから悲鳴に近い歓声が上がった。
『うおおおマジかよ!! 超絶美少女来たぁぁぁ!!』
『真名さん!? 人形みたいに整った顔立ちだな……!』
教室中が騒然とする中、鷗賀は黒板の前に立ち、チョークを取って綺麗な字で『真名 鷗賀』と書き走らせた。
「初めまして。海外から編入してきました、真名 鷗賀です。……日本の生活にはまだ慣れていませんが、早く皆さんと仲良くなりたいと思っています。よろしくお願いします」
丁寧なお辞儀とともに見せた可憐な微笑みに、男子生徒たちのハートを一瞬で射抜く撃墜音が教室中に響き渡る。
「はいはい、騒ぐなー。真名の席は……んー、あの空いてる一番後ろの席だな。依真の隣だ」
「……えっ」
先生が指さした場所は、なんと依真のすぐ右隣の席だった。
周囲の男子から殺気立った羨望の視線が突き刺さる中、鷗賀は嬉しさを隠しきれない足取りで依真の隣へと歩み寄ってきた。
彼女はカバンを机に置くと、クラスメイトたちから見えない角度で、依真に向かって小さくウインクしてみせた。
(よろしくね、いつま♪)
(目立ちすぎだってば……)
目線だけで交わされる二人だけの密やかな会話。
だが、この時の二人はまだ気づいていなかった。
「真名」という同じ珍しい苗字、そして時折見せる親密すぎる雰囲気が、この後クラス中に大きな「疑惑」と「波乱」を呼ぶことになるということに——。




