玄関口の静寂、甘い拷問と熱い刻印の重畳
冬の冷気で凍てつく夜の住宅街を通り抜け、二人はようやく家の前にたどり着いた。カチャリとドアロックを解除し、玄関の重い扉を開けると、暖房の効いたリビングの温かい空気がふわりと廊下まで流れ込んでくる。
「ただいま……っ」
藍庭鷗賀が靴を脱ごうと屈んだ瞬間、背後から急激な圧迫感が押し寄せた。真名依真が逃げ道を塞ぐようにドアを閉め、カギを施錠する「ガチャリ」という金属音が静かな玄関に重く響き渡る。
「いつま……っ!?」
驚いて振り返る間もなく、鷗賀の両手首は頭上へと持ち上げられ、玄関の壁に押しつけられた。シューズボックスの陰になり、明かりが届かない薄暗い土間。逃げ場を完全に失った鷗賀の目の前に、依真の冷酷なまでに美しい漆黒の瞳が迫る。
「帰宅の挨拶は後だ。……まずは、今日一日のお前の『姿勢』を正してやる」
「あ……あうぅ……姿、勢……っ?」
依真の自由になった方の手が、鷗賀のコートのボタンを一つずつ外していく。続いてインナーの過激なまでに高い襟元をつまみ、強引に引き下ろした。昼間、グラウンドで反り跳びをするたびに擦れ、夕方の部室で激しく吸い上げられた首筋の傷痕。そこは今や痛々しく赤紫色に腫れ上がり、彼女の体温と鼓動を拾ってドクドクと脈打っていた。
「……くくっ、ひどい状態だな。だが、これでもまだ足りない。グラウンドでお前が他人の視線を感じながら飛んでいたかと思うと……反吐が出る」
「ち、違うよぉ……っ! 私はいつまの視線しか……いつまのことしか見てなかったよぉ……っ!」
「口では何とでも言える」
依真の唇が、迷いなくその最も色濃く腫れ上がった咬み痕の上へと重ねられた。——じわじわと、容赦のない力で傷口を吸い上げ、さらに前歯で皮膚の柔らかい部分を強く「ぎゅっ」と噛み締める。
「んあぁぁぁっ……っ!? い、痛いっ……いつま、噛まないでぇ……っ! 傷口が熱いよぉっ……!」
背中を壁に強く押しつけ、脚をバタつかせて暴れようとする鷗賀。しかし、依真の手首を固く絞め上げる力はビクともしない。むしろ彼女が暴れれば暴れるほど、噛みつく力は増し、鋭い痛みが首筋から脳髄へと甘い痺れとなって駆け巡っていく。
「叫ぶな。……近所に聞こえるぞ? それとも、俺にお仕置きされている声を外に見せつけたいのか?」
「んくっ……ふぁ……っ、嫌……嫌だよぉ……っ」
「なら黙って受け入れろ。この痛みが、お前が誰のものかを脳に叩き込む唯一の薬だ」
咬み痕を上書きするように、何度も、何度も、激しい吸引と圧迫が繰り返される。痛痛しい赤紫色の斑点は、さらに深く、より濃厚な「所有の印」へと塗り替えられていった。絶叫を押し殺し、涙を目に浮かべながら、鷗賀の体から次第に力が抜けていく。壁にすがりつくようにして、彼女は依真の首元に両腕を回した。
「あ……あぅ……いつま……っ、痛いのに……すごく、あつくて……頭が変になっちゃう……っ」
「変になればいい。元々お前は無機質な人形だったんだ。俺の熱で思考を溶かされ、俺のためだけに震える肉体になればいい」
暗がりの中、互いの荒い息遣いと、重なり合う体温だけが支配する玄関口。痛みの先にある底なしの甘美な依存。人形だった少女は、その深い刻印の重なりに身を委ね、二度と解けない歪んだ純愛の鎖へと、自ら進んで落ちていくのだった——。




