夜の帰り道、冷えた指先と逃げられない鎖
部室を出た頃には、冬の空はすっかり濃密な夜の闇に塗り潰されていた。街灯がぽつり、ぽつりと冷たいアスファルトを橙色に照らし出し、二人の影を長く引き伸ばす。静まり返った住宅街の帰り道、吐く息は真っ白に弾けて夜空へと消えていった。
藍庭鷗賀は、部室での熱い熱狂と体温の残り香に包まれたまま、ぽーっとした意識で真名依真の少し後ろを歩いていた。ハイネックの襟元に守られた首筋は、先ほど彼に激しく吸い上げられたことで脈打つように痛むが、その痛みすらも今の鷗賀にとっては「依真と繋がっている」という揺るぎない安心感に変わっているのだった。
(……いつまの匂い……まだこんなにする……。首筋がすごくあつくて……ピリピリして……っ)
前を行く依真が、ふと足を止めた。コートのポケットから手を取り出すと、無言のまま振り返り、鷗賀の小さく冷え切った手を強引に掴み取った。
「あっ……いつま……っ?」
「手が冷たい。……こんな薄手の手袋すらして来ないとは、相変わらず自分の体を管理する気がないようだな」
「だって……部室を出る時、いつまに手を引かれて急いで出てきたから……っ」
依真は小さく鼻で笑うと、拒絶を許さない力強さで彼女の手を自らのコートのポケットの中に引き入れた。彼のポケットの中は、まるで小さな暖炉のように熱かった。そこへ互いの指先を強く絡め合わせる十本指の恋人繋ぎ。冷えた鷗賀の指先に、依真の指骨の固さと熱がダイレクトに伝わってくる。
「んぁ……あたたかい……っ」
「……喜ぶな。ただの防寒だ。お前の手が冷えて、明日体調でも崩されたら、俺のお仕置きのしがいがなくなる」
「うふふ……いつま、素直じゃないよぉ……。本当は心配してくれてるくせに……っ」
「黙れ。……調子に乗ると、ここでまた噛みつくぞ」
依真の冷酷な言葉とは裏腹に、ポケットの中で鷗賀の指を握りしめる力は少しも緩むことがなかった。痛いほど強く、離れることを許さないかのように組み合わされた指先。痛痛しく腫れた首筋の刻印と、ポケットの中で強固に繋がれた手。
歩く歩調を合わせながら、二人は夜の暗がりをゆっくりと進んでいく。人形だった頃には知り得なかった、皮膚を通して伝わる強烈な束縛と所有欲。痛みが教えてくれる存在理由。
(私……もう、いつまのいない世界には戻れない……。いつまが私を縛り続けてくれるなら、この痛みがずっと消えないなら……どこまでも沈んでいけるよぉ……)
街灯の光の下、重なり合う二人の影は一瞬たりとも離れることなく、暗い夜の街へと溶けていったのだった。




