放課後の部室、二人きりの秘密と深まる鎖
土曜日の練習が終わり、橙色の夕暮れがグラウンドを静かに包み込んでいた。ほかの部員たちが「お疲れ様ー!」「また月曜日に!」と賑やかに声を掛け合いながら校門へと向かっていく中、藍庭鷗賀は一人、陸上部の用具倉庫兼更衣室の前に立ち尽くしていた。
手にしたカバンの持ち手をぎゅっと握りしめる。心臓が痛いほど早鐘を打っていた。練習中、グラウンドの端から放たれていた真名依真の冷徹な視線。その視線が残した無言の命――「練習が終わったら部室で待て」。
カチャリと小さな音を立てて、鷗賀は誰もいなくなった部室のドアを開けた。埃っぽさとスポーツドリンクの甘い匂いが混ざり合う狭い空間。夕日の長くて黒い影が差し込む部屋の最奥、マットや跳躍器具が積み上げられた陰に、彼は座っていた。
「……遅かったな、おうか」
依真が立ち上がる。その背丈が夕光を遮り、鷗賀の上に巨大な影を落とした。彼が一歩踏み出すたびに、部室の静寂が重く沈み込んでいく。
「ご、ごめんなさい……っ。片付けがあって……」
「言い訳はいい。……近くへ来い」
逆らうことなど最初からできなかった。鷗賀が磁石に引き寄せられるように歩み寄ると、依真は彼女の細い手首を掴み、そのまま積まれた跳躍用マットの上へと押し倒した。スプリングとスポンジが沈み込む鈍い音。逃げ場を失った鷗賀の上に、依真が覆いかぶさる。
「いつま……っ、ここは部室だよ……!? 誰か戻ってくるかもしれないよぉ……っ!」
「だからどうした? カギはかけてある。……それに、誰かに見つかる恐怖に怯えているお前の顔も、なかなか唆るものがあるがな」
依真の長い指が、鷗賀が隠すように着込んでいたハイネックのインナーの襟元に掛かる。薄い布地を強引に引き下ろすと、そこには今日一日、跳躍のたびに摩擦と体温で一層赤く腫れ上がった咬み痕が露わになった。
「……くくっ、練習中もずっとこの痕を意識していたな? バーを越える瞬間、お前の首筋がひきつり、苦しそうに甘い息を漏らしているのを、俺は見逃さなかったぞ」
「あ……あうぅ……っ、だって……反り跳びの姿勢になると……いつまの傷痕が引っ張られて……すごく熱くて……っ!」
「それでいい。お前がどれだけ高く跳ぼうと、空中で体を反らせようと、お前の皮膚を引っ張り、思考を縛り付けているのは俺の刻印だ。……お前はどこへも飛んでいけない」
依真の顔が近づき、熱い吐息が首筋の傷痕に直接吹きかけられる。鷗賀は身悶えし、両手で依真の制服の胸元を小さく押し返そうとしたが、彼の指先が傷痕の最も深い部分を親指で「ギュッ」と押し潰すと、その抵抗は一瞬で崩れ去った。
「んあぁぁっ……っ!? い、痛いっ……いつま、押し潰さないでぇ……っ!」
「痛みに身を委ねろ。お前が俺のものだという証明だ」
そのまま、依真は容赦なく彼女の首筋に再び唇を押し当て、すでに傷ついている皮膚の上から、さらに強く、激しく吸い上げた。部室内に、押し殺した鷗賀の甘い悲鳴と、布地が擦れ合う音が響く。外を通り過ぎる生徒の足音が遠くで聞こえるたび、鷗賀の全身は緊張で跳ね上がり、その恐怖が逆に依真の支配をより甘美なものへと変えていく。
「んくぅっ……っ! いつま……っ、私……もう……いつまなしじゃ……っ……」
「そうだ。お前は俺なしでは息もできない。心も、身体も、跳躍するその瞬間すらも……すべて俺に捧げろ」
夕闇が完全に部室を飲み込むまで、二人の甘く残酷な刻印の時間は続いていった。人形だった少女は、痛みの鎖によって、完全に一人の少年の所有物として繋ぎ止められていた――。




